えんじゅ:184号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCLXXV)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫


 「槐祭」が終了し、校内は一転 し、あの熱気と集中を収めて、 二学期学校生活が始まっている。

 「渋幕府の楽市楽座」が、今年 の「槐祭テーマ」で、例年以上 の盛り上がりをみ せた。二日間で壱 万壱千余人の見学 者を迎え、この学 園祭は今や、地域 社会、コミュニテ ィの一つの核とし て認知されたよう な行事となってい る。

 老若男女、大人 から子供迄、まこ とに多様な人々が 集い、二十一世紀 に活躍が期待され る若者達の祭典に 参加して下さった。食べ物の扱 いについての昨年の反省もあっ て、生徒諸君のこころよい緊張 感も感ぜられ、事故もなく充実 した祭りが終了した。

 テーマに相応しい素晴らしい 歓迎門が作成され、例年と比べ ても質的に一段と向上したと感 ぜられる展示であり催し物、演 技、演奏であった。パンフレッ トも工夫され全てが生き生きと 槐祭を楽しんでいることが伝っ て来た。父母、後援会主催の 「ティールーム槐」もすっかり安 定され、私も楽しませてもらっ た。このように、まことに多種 多様な試みが一つのテーマ「楽 市楽座」の下で調和のとれたも のとして実現していることに真 底感動した。

 この夏開かれた国連大学(東 京)を会場にしての「世界文明 フォーラム2005」では、テロと 文明の対立に悩む二十一世紀の 為に「いかにして若者の心をひ とつにし、対立を乗り越えるか」 の実現に向けて三つのセッショ ンの議論が展開された。第一セ ッションでは、国際的均衡を達 成する上では精神的な指針が不 可欠であるという信念の下、正 義や公正、平等の重要性につい て論じ、第ニセッションでは雇 用や富は人間の精神を犠牲にし て得られるものではないとの理 由の下、経済成長とともに人間 開発も重要であると確認し、第 三セッションでは普遍的かつ時 間を超越して訴える力を持つコ ミュニケーション形態で文化的 なアイデンティティや相違を表 現する上での芸術の役割を明確 化する議論が展開された。フォ ーラム全てが素晴らしかったが、 最も印象的だったのは、全体議 長を務めたアマルティア・セン 教授(ハーバード大・ノーベル 賞・インド)の議論であった。

 文明による世界の分断が非常 に強く危険なのは、服装や習慣 の違いが目に見え易いからだけ でなく「文明」という言葉に潜 む長く複雑な歴史が教育や民族 の集団的記憶を通じて働きかけ てしまうからだと論じ、「中心問 題は自由であることで、我々の アイデンティティを文明という 牢獄に閉じ込めることは、社会 として賢いことでなく、それは 知的敗北である」と述べ、フラ ンス国籍でシンガポール出身、 英語を話しイスラーム教徒で歴 史学者、環境保護の活動家の一 人のインド女性の行動を紹介し た。

 多様な部分が大きな全体の構 成員であることを自覚し、互い の「調和hermony」を目指すこ とで「正義」が実現するという この議論は、私にとって「槐祭」 の活動を想いおこさせるもので あった。自調自考生どう考える。

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平成17年(2005)10月15日改訂