えんじゅ:230号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCCXXl)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫


 四月、卯月。
 農耕の準備は、 ほとんど終わり、 いよいよ「植え月」 となる。転じて 「卯月」。
 「きっぱりと冬 がきた。八つ手の 白い花も消え、 公孫樹の木も箒」 のようになると続 く高村光太郎の 詩。この厳しさの なかで「自然」は 優しく春を迎える準備に入る。 そして「暑さ寒さ も彼岸まで」と云われる一年のう ち最も好適な季節となる。

 竹の芽も茜さしたる彼岸かな
              芥川龍之介

 昼と夜の時間がほぼ同時間と なる「春分の日」をおくる。
 そして新学年、「入学式」。
 そこで、旧年度を回顧し、これ からのメッセージを考える。
 平成二十一年度には、日本の将 来を考えるに大きな意味をもつ 二つの出来事があった。
 一つは「政権交代」であり、も う一つは「大学進学率が同年代の 50%を超える」というインシデン トである。

 私の好きな言葉で「青年即未来」 というのがあるが、若者達にとっ てこの二つの出来事はまことに重 要なメッセージを伝えている。
 まず、「政権交代」は、日本の 民主主義の成熱度を示す指標と 考えることが出来よう。
 多様な市民のニーズに応える のが政治の役割と考えるなら、政 権交代は普通にあることである。 つまり日本の民主主義が一歩前進 したと捉えることが出来よう。 民主主義政治の成熟は、市民一人 一人の基本的人権の実現を一層充 実したものとすることを意味す る。このことは、基本的人権の中 核的権利と考えられる「人格形 成権」=一人一人の人生は自己の 責任において作り上げるという 権利=がいよいよクローズアップ して来るということを意味する。

 近々実現するであろう「十八 歳成人」という考え方や、「裁判 員制度」はまさに「自己責任」 を考えるという意味での文脈に あるものである。
 又「大学進学率50%超」は世 界の流れ(欧米では常識。一番高 い国は80%超)でもあるが、私達 の国では、大学教育の質保証(学 士課程の質、又学位そのものにつ いての国際的通用性に至る迄の一 連の目標項目)という形で議論 がなされている。

 近々発表される「学術会議」 からの「学士課程の質保証レポー ト」や、ユネスコ提案による「(ア ジアにおける)高等教育地域条 約」(欧州では既にポローニヤ・ プロセスという形で実現。)締結 議論などはまさにこの文脈にあ る。曾てマーチン・トローUCLA大教授の指摘した「大学教育 のユニバーサル化」がはじまった のである。この流れは、当然「知 識基盤社会」「生涯学習社会」の 実現につながるもので、これから の社会で活躍が期待される若人 達にとっては重要な示唆となろ う。そして一生学び続ける社会で は「大学教育の質」とは職業に 関わる専門知(厳密性と明晰性 が求められる)と自然歴史文化 関わる諸学問=教養=の二つの分 野での教育研究が求められる。(続)

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平成22年(2010)4月8日改訂