えんじゅ:251号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCCXXXXU)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫


 5月、皐月さつき
 行く春を惜しみ、夏のはじまりを感じる月。明るい新緑が野山を埋め尽くし、湿りけのない爽やかな風が初夏の匂いを運んでくる。日本では、東洋一早かった明治6年(1873年)のグレゴリオ暦採用以降、太陽の運行観測結果を示す「天文暦」=カレンダー=を使う一方、日常の生活の指針となった太陰暦も残し、暦注の先勝、大安など六曜六輝も使っ ている。つまり私達は宇宙を科学的に観測し、天文を学問として研究する知的活動に熱中すると同時に、生活実感への暖かい肌ざわりを愛する生活感覚を「こよみ」として残す文化を大切にしてきたようである。陰暦の月名「皐月」は田に苗を植える早苗月の略。
 英語の「May」はラテン語のマリウスからきたもので、成長の神マリウスを5月1日にまつったことに因むという。
 蝌蚪カト散って天日うごく水のうへ
                       島谷 征良
 大空の太陽と水中の蝌蚪カト(お玉杓子)をとらえて若々しい気概みなぎる5月の秀句。新学期にふさわしい。
 前途を祝うように、素晴らしい季節を迎える新学年である。
 然し、今年2012年の日本では、東日本大震災と福島第1原発の事故後を受けて、「歴史の転換」が言いたてられている。これは丁度20世紀末の90年代に、「ベルリンの壁崩壊」(89年)からソ連の解体(91年)への経緯を目の当たりにして、世界中がポスト冷戦という「歴史の転換」を意識した時代を想起させる。
 時代は「歴史への関心」をかきたてている。
 そこで問題は「歴史」から何をどのように学ぶかである。
 国際政治経済論では、長期的な経済秩序変動を説明するに「覇権安定論」を用いる。この理論のポイントは簡単に言うと「歴史は繰り返す」ということである。つまり国際経済の秩序の変遷を覇権の循環で説明する。
 覇権とは「物質資源の優位性」と定義され、歴史上、17世紀のオランダ、19世紀の英国、20世紀の米国のみがかつてそのような地位にあったと思われている。全般的な覇権は当該覇権国のGDPの世界におけるシェア(占有率)で測るが、領域特定的な覇権の測定法もある。そして21世紀、米国覇権の衰退(世界GDPの40%から25%に減少)と共に浮かび上がってきたのは中国である。2011年のピュー研究所の調査によれば、世界世論では経済大国トップは「中国」である。(アジアでは米国が第一位であるのが面白い。)歴史を学ぶことで、私達は「歴史は繰り返す」ことを知った。そして総体としての変化の理解と共に地域独特の特殊な問題のあることもわかってくる。例をみない急速な少子高齢化の日本では、何よりも地域や国境を超えて繋がっていく同時代人の「絆」、そして将来の世代から託された責任を果たすという世代間の「絆」。これ等だけが不透明な時代の先行きを照らす灯火となるのだろう。自調自考生どう考える。
(参照) 『もういちど読む山川世界史』
    『銃・病原菌・鉄』
          J・ダイアモンド
    『世界史』W・H・マクニール



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平成24年(2012)5月17日改訂