えんじゅ:280号

校長先生講話


「自調自考」を考える

そのCCLXXI


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫

 

   四月、卯月。清明初候。玄鳥至る。冬を東南アジアで過ごした燕は春とともに数千キロを海を越え渡ってくる。乙鳥、天女など。
   日本の一年は二十四の節気と七十二もの季節があり、こまやかに季節の移ろいを取り入れ、季節それぞれの出来事をそのまま名前にしている。
   今年も「春」からはじまる四季の一年が、学校と共に動き出す。
   同じように地球の温帯に存在する島国であるが、英国と比較すると日本はその地形風土の多様からか、動植物の種類が多く、季節の花も多種多様。その日本で咲く花の大部分が咲き乱れる季節の春。一年で最も気持の良い節となる。
   万葉集巻十九大伴家持二首迎春
   春の苑紅にほふ桃の花下照る道に
          出で立つ乙女
   わが園の李の花か庭に降るはだれの
          いまだ残りたるかも
   この季節の日本の人達の気持を鮮やかにうたいあげている。
   ところで、昨年の春「えんじゅ」で「桜便りと共にちょっと考えさせられる『知らせ』が届いた」と報じた件が、今年も再現した。
   二〇〇三年十二月に初刷発行された『アメリカの反知性主義』(ホーフスタッター著田村哲夫訳)が昨年三月に六刷で再版されたのが、今年も三月に七刷が出されるとの通知がきた。理由は品切れ。みすず書房ホワイトカバー本で相当高価な書籍である。この本がこれで計何万という単位で出版されることになる。
   この時期に合わせてか『反知性主義─アメリカが生んだ「熱病」の正体─』国際基督教大学(ICU)教授森本あんり著(新潮選書)が出版された。この本は「反知性主義」の解説書であることに間違いはないが、同時にアメリカ社会と文化を徹底的に分析し解説してくれる良著となっている。この本の中で「本来反知性主義は知性そのものでなくそれに付随する『何か』への反対で、社会の不健全さよりもむしろ健全さを示す指標だった」(「はじめに」から引用)と述べているが、この言葉を正しく理解するには、日本人には理解しにくいアメリカという国の建国以来のキリスト教史の知識が必要となることがよくわかる内容となっている。
   昨年本校はSGH(スーパーグローバルハイスクール)に指定され、大学を含めた日本挙げての教育のグローバル化に取り組む一翼を担っている。今日グローバル化と云われる内容には、アメリカ化と云われる面がある。前回『二十一世紀の資本』(トマ・ピケティ)著が世界的に大きな反響を得たのはアメリカ化の一面を持っているからだと解説したが、これからの世界を生きる青年達にとっては、アメリカ化、特にこの「アメリカの反知性主義」の理解は大変重要なものとなるのではないかと考えている。
   アメリカという国は、宗教的信念を基盤として「すべての人は平等に創られた」という独立宣言からはじまって、一人一人の持つ素朴な道徳感覚に基づく能力を信頼して(アメリカ人はこれを心の習慣と云う。─トックヴィル『アメリカの民主主義』)諸活動に取り組み活動する。例えば、小さな政府と云えば、アメリカでは己の理性と信仰を唯一の判断の拠り処としているから地上の制度や組織を絶対視しない。政府の必要性は認めるが、権力はできる限り小さい方が良いと考えて行動する(例えばオバマ・ケア批判)。ホーフスタッターの見立てを出発点として「反知性主義」を理解するならば、その意味する正体はここにある。
   私達としては将来にわたって「知的生活」によって知的寛容に基づく判断力を養っていくことがいよいよ必要となろう。
   自調自考生どう考える。



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平成27年(2015)4月18日改訂