えんじゅ:289号  


校長先生講話

 

校長先生講話

「自調自考」を考える

そのCCLXXX

幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫



 

 三月、弥生。四月、卯月。
 春分、初候 雀始めて巣くう
 春はあけぼの、やうやう白くなりゆく、山ぎは少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる
清少納言 枕草子 第一段
 この時期、学校は三十一期生を送り、新入生を迎える準備に忙しい。
 マラソン大会、中学合唱祭、開校記念講演等の各行事が続き、学年のまとめに入る。
 桜の開花が早いと予想される今年、校庭の桜、葉に先立って淡紅白色の花が咲く染井吉野桜から八重桜と次々に春の装いを楽しむ時期となる。
 いまや、花見の桜と云えば染井吉野のことになっているが、日本では桜と云えば山あいにほんのりと咲く山桜のことであった。
  打靡き春来たるらし山の際の
  遠き木末の咲き行く見れば
 尾張連 万葉集巻八
 花吹雪、花の雲、花筏等、桜の花をたたえる表現は多くあるが、なかでも世界遺産として登録されている吉野大峯、金峯山寺の吉野山桜の景観は息をのむ。歌人西行法師(願はくは花のもとにて春死なむそのきさらぎの望月のころ=続古今集)は、その桜を愛するあまり、三年ほど庵を結んで吉野に住み、その西行に憧れ松尾芭蕉(しばらくは花の上なる月夜かな)は二度も吉野を訪れている。又次回でも触れる国学の巨人、本居宣長は、遺言で自分の墓に山桜を植えよと記しているほど桜を愛していた。
 志き嶋のやま登許々路を人登ハゞ
  朝日尓ゝほふ山佐久ら花
本居宣長 六十一歳自画自賛像
 ところで、今回の卒業式では、自調自考生として巣立つ青年達に「二十一世紀を生きる」という趣旨の話を贈った。
 ますます進展するであろうグローバル化とデジタル情報化。
 ますます先行きの見通しのつきにくい時代。青年達にとっては、「生きる」ということは、将来の見通しに從って、その為に準備して生きることも重要だが、自分の拠り所を明確にして、自己に忠実に、社会とのバランスの中で生き方を決めていくという生き方がより実際的なものとなっていくであろう。そこでその際に、心の拠り所としてのピエティ(敬虔さ)とヒューモア・フモール(上品なおかしみ、諧謔)がいよいよ重要になると考える。そこでは、レジリエンス(回復力)が重要な力となる。
 二月十一日「重力波」観測のニュースが報道された。カリフォルニア工科大学などの研究グループによるノーベル物理学賞確実といわれる発表である。百年前、二十世紀の頭脳と云われるアルバート・アインシュタインがその存在を予言した「重力波」を到頭観測することができた。ブラックホールなど質量の非常に大きな物体が動く際、周りの時間と空間が歪み、それが波のように伝わる現象が存在すると予言したのは彼の一般相対性理論(一九一五)に基づいている。そして同時に彼は光が「重力レンズ効果」で曲って進むことや、強い重力で光さえも閉じ込めてしまう天体「ブラックホール」の存在も予言している。そしてこれ等も次々と実際に観測された。理論により、宇宙の謎の解明をし、後に観測技術の進歩で裏付けたという典型的な「科学」の方式に則る経緯を辿っている。宇宙の次のフロンティアは暗黒物質(ダークマター)の観測である。
 現在の宇宙物理学の主流の学者達は宇宙空間には、我々が触れたり見たりできる「物質」は4~5%。その他27%のダークマターと68%を占めるダークエネルギーが存在すると考えている。かつて日本の発見したニュートリノが暗黒物質の正体であるという仮説があった。夢をつかむような話が次々に解明されていく。「二十一世紀」には夢も希望も存在する。
 自調自考生、どう考える。