えんじゅ:142号
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16期生の諸君ご卒業おめでとう。 春の3月4月は恵みに満ちた季節である。深まる秋に葉をおとして 冬枯れなどといわれる中で、じっと力を蓄えた木立ちが、いま一斉に 芽をだし葉をひろげて花をつける。そこには万物に共通する喜びの姿 がみられる。 中にはカタクリの花のように、発芽から10年でようやく花をつけ るものもあるが、それまでの春には毎年、地上に葉だけを出して間も なく消えるという律気さをくり返してのことである。 まあ10年は長すぎるから、ここでは和太鼓の皮張りの話をしよう。 和太鼓とはケヤキなどをくり抜いた胴の前後に牛の皮を鋲で張りと める。長野のお諏訪太鼓や佐渡の鬼太鼓(おんでこ)のほか、全国的 に普及している。 太鼓の原型とみられる縄文土器があるというから、太鼓作りには数 千年の経験が生きていることになる。 皮をなめすには酸性の液を使う。アルカリ性の方がなめしの効果は 早く、よく伸びるが音がよくないという。 なめして黄色くなった皮を胴の片面にのせて、型で締めながら徐々 に下へ引張るのであるが、いまは10トンの油圧ジャッキを4個使う。 計40トンになる。これに数年をかける。黄色い皮がのびて白く変わ る。その間には人が皮の上で跳ねたりして調整もする。こうして安定 を確かめたところで胴に張る。 太鼓の音の高さは、皮の直径に比例し、緊張力の平方根に比例し、 質量の平方根に反比例するというが、皮は胴に鋲打ちされているから、 後では調節ができない構造なのである。 ところで、できたなかりの太鼓は音が硬いが、これを良い音色で長 持ちの太鼓にするのは一に演奏者のバチ(桴)の力によるのだという。 諸君はいま、先人の経験を生かして入念に太鼓を作ろうとしている 作家であると同時に、その太鼓の力を十分に発揮させる奏者であるこ とに気づいてもらいたい、と思う。両者のもっている自信とデリカシ ーを、お互いが認めあい信頼しあうことは大切なことなのである。そ の両者を諸君自身が兼ねている。 諸君を何事であれ成功に導くヒントは、諸君が自分の成功体験の上 にたって前進するところに生まれる。自信とデリカシーをもって。そ こに協力者も生まれる。 こうした実感を湧きたたせるには、春がもっともふさわしい。 完成途上の諸君の太鼓が、よい音色で爽やかに鳴るように。 ご多幸を祈ります。
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いよいよ卒業の時です。いま私個人として一番気になることは、君た ち一人ひとりが、この学校で過ごして「良かった」と思えたかどうかで す。 「環境が人をつくる」と言われるように、人は環境に左右され易いも のです。だからかどうかは分かりませんが、ある節目で人は「良い」環境 を求めます。本校入学を決めた理由も「良い環境の学校だろうから」という 人も多かったと思いますが、果たしてどうだったでしょうか?この同じ 環境でも「良い」と感じる人もいれば逆の人もいるはずです。それは、 個人のもつ適応力や価値観など様々な要因に因るものだと思いますが、 何人かの生徒諸君や保護者の方と話す中で感じたことがあります。それ は、その環境の中で個人が何を一番大切にしているか、そしてそれを満 足できる状態にどれだけ近づいていっているか、に因って良し悪しが決 まるような気がする、ということです。与えられた環境であっても「意 識」と「努力」次第で異なる環境になるということです。 また、「環境は人がつくる」ものであります。環境を大きく変化させ ることは難しいにしても、多くの場合徐々に変化させることは可能です。 与えられた環境をただ諦めたり、逃げ出したりする前に、いまの環境を より良くできないかを考えて欲しいものです。 卒業後の進路選択でも「良い環境」を考えたはずです。そのことはご く自然な考えですが、これまで述べてきたように、現在その環境にいる 人が「良い」と評価しても、本当にあなた自身にとって「良い」かどう かは分かりません。その環境下に身を置くことを目標にしてきたかも知 れませんが、大切なのはこれからです。あなたにとってこれからの生活 の場が「良い環境」となることを願っています。
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