えんじゅ:173号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCLXV)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫


夏休みを迎える。

生徒諸君は、毎日の生活の過ごし方の主導権を学校から取りも どし、平均の中高生の日常、七時間睡眠、六時間半の学校生活、 学校外学習二時間半、テレビ二時間、移動一時間 余(文科省調べ)から、毎日十時間以上の時間をどのよう に使うかを一人一人が決める時になる。

夏休みが天王山となる進路目前の人、自分の学習課題を定め、集中し て時間活用を考える人、体力向上や旅行を計画する人、 読書計画を実行する人等々、まさに この六週間は自調自考の実践、精神発揮の出来る六週間となる。 そしてこの六週間の過ごし方次第で二学期からの学校生活に大きな影響があることを承知した上で、実りのある六週間にしてほしい。 「習慣は第二の自然である」(モンテーニュ)と言われるように、正しい習慣を身につけられるかどうかが、この六週間の大切な心得であろう。 そして「努力によって得られる習慣だけが善である」とカントは言っている。

自分の努力によって得ることが可能な習慣は何か、この際考えてみてほしい。

串田孫一さんは「若いうちは何かになりたいという夢をもつのも素晴らしい。しかし、もっと大切なのは、 いかに生きるかだと思う。日々の行いを選び積み重ねる ことが、人生の行方を定めることだと覚えておいてほしい」と言って、 日々の生活の積み重ねが善い習慣となるよう努力することを大 変重要なこととして勧めている。

六月、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)と国連大学が共催で、「新渡戸稲造博士」シンポジウムが国連大学で開催された。

英文で著述され、当時の米国大統領ルーズベルトが感動したことで有名な「武士道」の作者として、 又戦前国際連盟事務次長として活躍したことで著名な新渡戸博士が、五千円札の顔であったのが 樋口一葉さんに替わる機会をとらえて開かれたものである。

二十一世紀最大の課題とされている「人格教育」。 その「先覚者」としての博士の活動が中心テーマであった。

人間は、自分の努力によって自己形成される。その際、日本では「二人称文化」と言われる考え方 が支配的であった。二人称つまり主語の「I(私)」が欠落した文化で、「私がこう思う」でなく、 二人称の「You」が主語となった「あなたが〜と言うなら、私も〜」と考える考え方だ。 キリスト者新渡戸博士が考えている人格とは、人格神(人格をもつ神の観念)との垂直的関係Vertical Relationによって樹立される人格 形成のことであった。「人はどこか動じないところ譲れぬところ、断固とした信念がなければならな い。それを生み出すものこそ、人格神との垂直的縦関係であり、その関係性の中に人格は形成され る。」「人格のない処には責任は生じない」「to know(知ること)だけでは充分ではない。 to do(それを実行すること)が大切である。しかし最も大切なことはto be (あなたがあなたとして存在すること)である」

今の「福沢諭吉」、未来の「新渡戸稲造」と言われる新渡戸博士の箴言を玩味し個の確立を目指し 充実した夏休みを送ってほしい。

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平成16年(2004) 7月23日改訂