えんじゅ:179号
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今春の開校記念講演会はノー ベル物理学賞(二〇〇二年)受賞、東京大学名誉教授の小柴昌 俊博士にご来校いただいた。 さすがに小柴先生、その登場を心待ちに待った生徒たちの視線は 博士の一挙手一投足に注がれ、着座されて最初の笑みに既 に心を奪われてしまった。 スライドのレジメには先生の 足跡・業績が段階を追って6つの項目に整理され、その第一番 は「小児麻痺」。横須賀中学時代に発症した小児麻痺との壮絶 な戦い。入浴介護を受けることへの思春期の恥じらいが少年を 自立へと突き動かす。他人を頼らない、すべて自分でやらねば ならないという強い意志が、「やればできる」ことを体で知 る人物に育てた。やがてそれは人類に新たな知的財産をもたら した。 宇宙線観測装置「カミオカンデ」(岐阜県神岡町。のち、 スーパーカミオカンデ)による ニュートリノ捕捉までの過程を分かりやすく解説なさった後、 平成基礎科学財団創設の際の裏話で笑いを取る。何事もひとり でやり抜いてきた人物が「ひとりではどうしようもない、他人 を頼らざるを得ない」事業のあることを力説される。 最後に基礎科学の重要性を説いてまとめられ、科学者が世の 中のために役立てることは何かという生徒の質問に、 「基礎科学は経済的な見地からはぜんぜん 役に立たないが、世界人類が共有する知的財産をすこし増や す」と応えられ、また、人のために役立とうと、いつ頃から思っ ていたかという別の生徒の問いには、「そんなことは一度も思っ たことはない(笑)。だが、現在、学生たちに必ず言う。『我々は国 民の血税で自分たちの夢を追わせてもらっているのだ』と」。 「やればできる」を貫いた人の「夢」という言葉に、迫力があった。 |
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平成17年(2005)4月19日改訂