えんじゅ:183号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCLXXW)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫


 平成十七年、一学期が終了し、夏休みを迎える。

 生徒諸君は毎日の生活の過ごし方の主導権を学校から取り戻 し、一人一人が自分の時間をどのように使うかを決める夏休みに入る。

 毎日十時間以上の時間をどのように使うかを一人一人が決める時がきた。

 夏休みが天王山となる進路目前の人、自分の学習課題を決め集中して 時間活用を考える人、体力向上や旅行を計画する人、読書計画を実行す る人等々、まさにこの六週間は自調自考が発揮される時となる。そ してこの六週間の過ごし方は、二学期からの学校生活に大きな 影響を齎(もたら)すものであることを充分承知して、実りの ある六週間にしてほしい。

 昨年はこのことで「習慣」の大切さを述べた。毎日の善い行 動の積み重ねが習慣となることの重要さに気付いてほしい。

 最近の脳研究では、目的が最初にあって行動が生まれるのではないことがわかっている。目 的とは、だいたい取った行動に対して脳が後から付ける理屈のようなものである。脳の働きか らみれば、とりあえず行動してみることがあって、成果がついてくると考えられている。

 近年の日本のノーベル賞受賞者のようにセレンディピティと 言われる偶然幸運に出会う能力も、取り敢えず行動してみるこ とから発揮される。

 行動してこそ、思いもかけぬ成果(実力)があがるというこ とは歴然とした事実である。

 この七月、国連大学(東京)でアマルティア・セン教授(ノーベル賞受賞者ハーバード大)を 迎えての 「世界文明フォーラム2005」が開かれる。「文明(宗教)の対立を乗り越え、どのよう に世界の若者の心をひとつにするか」がテーマになっている。世界には約200の国と約3000 の異なる文化があるそうである。ハンチントン教授の 「文明の衝突」論(1996年)以来、 異なる文明、とりわけ一神教たるキリスト教文明とイスーラム文明の間では妥協は成立せず、衝 突あるのみといった思考が広がりはじめた。それに加え対立の構図の根底には、正義や公正が 十分に果たされていないという途上国市民の不満と絶望感がある。この解決には、前世紀の反省 と新世紀のあらたなパラダイム(新普遍主義)を構築していく我慢強い対話の継続が必要である。 対話には互いの謙譲の美徳が求められる。「しかし人間として、よし賢明とされてる場合も人につ いていろいろ学び知るというのは、けっして恥ずべきことではありません。あまり自説を押し 通そうとかからずに。」 (ソポクレース「アンティゴネー」岩波)

 そこで私は狂言「宗論」 の浄土宗と法華宗の二人の僧が対立口論し、自分の宗派こそ正しい と言い募り、争う光景を思い出した。この二人は翌朝、お勤めで念仏を唱えはじめる (行動) と、自分達が同じ釈迦の教えでどちらが優れているかを主張するのは愚かしいと、はたと悟る という筋である。

 とりあえず、この夏休みは、毎日の行動を良い習慣としてしっかり確立してほしいものだ。

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平成17年(2005)7月22日改訂