えんじゅ:283号  


校長先生講話

 

校長先生講話

「自調自考」を考える

そのCCLXXIV

幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫



 

  七月、文月。八月、葉月。
 季節の移ろいを表わす二十四節気では、夏至、小暑、大暑として夏の季節を迎え、学校は立秋、処暑迄の間、夏休みに入る。
 ここで平成二十七年度一学期が終了する。
 この時期多くの学校行事=地区別保護者懇談会(前期報告書を御参照下さい)、授業研究公開日、メモリアルコンサート、オペラ鑑賞教室(高二)=が完了した。
 初夏七十二候では、今は「大暑初候、桐始めて花を結ぶ」と云われる。この時期桐は淡い紫の花を梢に沢山咲かせる。歌人北原白秋の処女歌集『桐の花』が有名。


 松が根に小草花さく秋隣

     正岡子規

 秋の気配をすぐそばに感じる、という意味の夏の季語が秋隣。
 夏と共に始まる夏休みも、周到な事前計画と綿密丁寧な実施がないとあっと云う間に秋になってしまうことに気付いてほしい。
 この夏休み六週間、一日ほぼ十五時間余。計六百三十時間。この時間をどう過ごすか。
 生徒諸君は、ここで毎日の生活の過ごし方の主導権を学校から取り戻し、一人一人が持ち時間をどう使うかを自由に決める夏休みに入る。
 毎年伝えていることだが、この夏の過ごし方によって二学期以降さらにその先迄を含めた学校生活に大きな影響を齎すものであるから充分に自覚自重して実りある六週間にしてほしい。国連の人間開発指数に拘って、人間の幸福度の計測について「良い暮らしの要素を決めるのはあなた自身です。」という表現がある。その通り良い夏休みを過ごせることを決めるのは君自身であることをもう一回云っておく。
 「習慣は第二の自然である(モンテーニュ)」、「努力によって得られる習慣だけが善である(カント)」、そして「若いうちは何かになりたいという夢を持つのは素晴らしい。しかし同時にもっと大切なこととしていかに生きるかということがある。日々の行いを選び積み重ねること、その努力こそが良い習慣を身につけさせ、人生の行方を決める」(串田孫一、詩人・哲学者、山の随筆が有名)。
 寛政十年(一九七八)、六十九歳の時、本居宣長は畢生の大研究『古事記伝』の大著を三十六年かけて完成した。七一二年に成立した日本最古の歴史書『古事記』の研究である。この頃宣長は当時の国学の第一人者として仰がれ全国各地の弟子達から学問の心得の書を求められていた。この要望に応えて翌十一年に出版した書が『宇比山踏』である。題名は末尾に宣長が詠んだ和歌からとっている。


 いかならむうひ山ぶみのあさごろも浅きすそ野のしるべばかりも
 この書はこれでわかるように初学者への学問の手引きの書である。そして学問をすることを山登りに譬えてあの有名な荀子の言葉を引いている。
 「功在不舎」。学問で成果をあげ功績を残すには、山登りのように一歩一歩ふみしめ厭きずに続けることであると。
 近年発表された米国で話題となった本『長寿と性格』では、何よりも長寿には「勤勉性」が重要で、子どものころから慎重にかまえ勤勉である人が最も長寿であると報告されている。
 健康な生活習慣ライフスタイルを身につける夏休みになる努力をしてほしい。選挙権年令も十八歳となる。自覚した自調自考生、いよいよ出番だ。