えんじゅ:283号  


SGH特集

 

  「スーパーグローバルハイスクールの指定をうけて」校長 田村 哲夫


   スーパーグローバルハイスクール事業は、高等学校において社会課題に対する興味関心と深い教養に加え、コミュニケーション能力、問題解決能力を身につけ、将来国際社会で活躍できるグローバルリーダーの育成を図る取り組みとして、平成二十六年度からスタートしました。本校は、渋谷高等学校とともに、初年度から指定を受け、今年二年目を迎えました。「自調自考」という教育の基本目標のもと、「国際人の資質を養う」ことを教育目標の一つに掲げ、これまでも国際理解教育やコミュニケーション力の育成に取り組んでまいりました。スーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受け、「食」をテーマに、課題研究を行っております。複数の教科が同じテーマのもと、横断的な学習に取り組むことで、課題解決にむけたリーダーシップ力の向上を目指した取り組みが行われております。渋谷高校では、「人間の安全保障」をテーマに課題研究を行っており、互いに協力することで、より発展的なものになることを期待しています。
 

   SGH構想に関して 副校長 田村


 自調自考の教育目標のもと、グローバル・イシューに対する基礎的な知識の習得、自ら課題を発見する強い好奇心、物事を多角的に検証し課題を解決に導く思考力、コミュニケーション能力や行動力を備えたリーダー像を掲げ、文科省からスーパーグローバルハイスクールとして指定されました。海外との学生の交流を深め、異なる立場の者と意見交換できる場を提供し、自らの新たな行動の動機づけにつながる教育活動に取り組んでいます。複数教科・科目から学ぶアプローチや問題発見・解決型の活動を通じて、知識の充実、発信意欲・技術の向上、交渉・連携しつつ行動する力をつけるカリキュラムを構築しています。  このような学習活動を支援するため、東京外国語大学と連携し、同大大学院の留学生にもプロジェクトに参画していただいています。また、外務省、経産省、厚労省、農水省やその他の関連分野の様々な方々にもご講演をいただく機会を設けています。
 

   これまでの軌跡 教頭 小河


 今年度スーパーグローバルハイスクール(SGH)指定の二年目の活動が始まっています。昨年一年間の活動内容を同じ指定を受けた学校と共有するためのポスターセッションが六月二十三日に行われました。参考までに、その時に使用したポスターを片面カラー印刷で折り込んでおりますのでご覧下さい。


開発構想のねらい  本校の課題研究テーマが「食」であることはよく知られていますが、指定を受けることになった研究開発構想名が「多角的アプローチによる交渉力育成プロジェクト」であることはあまり知られていない気がします。本プロジェクトの目的の一つはグローバルリーダー養成です。グローバルな視点で課題となることは、多国間にまたがる問題でもあります。同時に、それにはいくつもの要素が絡み合っていて、多角的視点からの正確な調査分析が必要となります。その上で、問題の解決策を模索し関係する国どうしがどのように行動するかの交渉が必要となります。交渉では言語ツールとしての英語が必要です。また、多国間の交渉は勝ち負けではなく、それぞれの国がウィンウィンの関係で妥結することが必要となります。それには、情報を正しく収集し、分析し、論理的にものを考え、相手国の立場も理解した上で、わかりやすく伝える(日本語、英語)力が求められます。今年度からシラバスに SGHという文字が使われていることをご存知でしょうか。前述の力を身につけるために必要となる学習項目にSGHが付されています。ほぼ全教科が関係しているのです。そして、多角的に検証する課題テーマとして、「食」を充てたのです。


地球規模で食を考える  近い将来世界の人口は百億人に達すると考えられています。現在でも「飢餓」は世界的な問題として取り上げられます。今の人口を支えるだけの食糧は充足していると考えられているのに、なぜ食糧不足が起こる地域があるのでしょうか。それは、再分配がうまくできていないからといわれています。世界の人口が百億人の時代には、食糧は明らかに不足すると考えられています。今ですら問題があるのに、その時代が来たらどうなるのでしょう。エネルギー問題と同等、あるいはそれ以上に食糧の量的あるいは安全性の問題は深刻化することがわかっています。少し考えただけでも、自給率、気候変動による作物収穫量変動、再配分、遺伝子組み換え作物、残留農薬、添加物等々、挙げたらきりがないくらいの問題が複雑に絡み合っています。


身近な視点で食を考える  「食」は身近で考えることのできるテーマです。しかし、あまり深く考えることのないテーマであるともいえます。「和食」が世界無形遺産になりましたが、その理由、和食のすばらしいところなどをどのくらいの人が説明できるかは疑問です。文化、習慣が未だに残っていることには、それだけの意味がそこにあるからです。グローバルを考えるとき、日本のことを知らなさすぎる自分がいることに気づかされます。好奇心を持ちつついろいろな角度から「食」を考える気持ちがわいてくることを生徒諸君には期待しています。では、写真を使いながら、この一年余りの軌跡を振り返りましょう。


中東異文化交流 九月  本校卒業生とのコラボで、中東から七人の大学生が来校しました。中東異文化、ハラルフードの紹介に続き、交流会ではハラルフードを食べながら、中東の政治、アラビア文字、ダンスなど本格的に異文化と触れ合えたひと時でした。事実上SGHのスタートとなった行事でした。


農水省特別講座 十一月  農水省から協力の申し出があり実現した講演会でした。「食」には多くのグローバル課題があります。中でも量的リスクは容易に想像できる一つです。  この分野の研究・分析において実績のある農水省農林水産政策研究所の株田文博先生から盛りだくさんのお話を聞くことができました。気さくなお人柄で、生徒からの質問も多数でました。さらに、この講演をきっかけに「食」に関する知識だけでなく意識も高まりました。この経験は、後のSGH関連行事に影響を与えただけでなく、現在進行形で生きています。


和食体験 十二月  希望者対象で「和食」のすばらしさ、マナーの意味などの講義を受け、実際に食べるなど、実践的な催しとなりました。


文化触変 一月  聞き慣れない言葉ですが文化 と文化が接触した後に起こる変化のことでした。講師は、メディア総合研究所の福田訓久先生。先生はアメリカ先住民ナバホ族と生活を共にされた経験をお持ちでした。ナバホ固有の文化と欧米文化の接触で起きた文化触変のお話は印象深いものでした。


SGH研究発表 二月  家庭科「和食」の授業でのクラス別課題研究テーマは、「塩と水」「小麦」「大豆食品」「味噌」「醤油」「漬物」「海藻」「出汁」「米」でした。異文化理解には自国文化の理解が欠かせません。生徒からは、調べたら知らないことだらけ、理にかなっている、知る楽しさを知った、プレゼンの難しさを知った、知らないことが多くためになった、などの感想が寄せられました。  この発表の後、提携校である東京外国語大学の留学生二十数名とクラスやカフェテリアにて有意義な交流を行いました。


SGH海外研修報告 六月  北京、ベトナム、シンガポールSGH研修を実施しました(ポスター参照)。そのプレゼン発表を過日行いました。外国の「食」は、予想外の発見が多く、比較の視点を認識できた研修でした。プレゼン能力は確実に進化しています。


 SGH二年目、講演会やエコ・クッキング講座などが実施されています。視点に広がりができつつあります。好奇心と気づきを大切に活動を継続して欲しいと願っています。