えんじゅ:287号  


校長先生講話

 

校長先生講話

「自調自考」を考える

そのCCLXXVII

幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫



 

 二千拾六年、平成二十八年、暦注の干支では丙申の年となる。十干の丙は陽の火、十二支の申は陽の金である。紀元前十七世紀頃の中国に起源する哲理として陰陽五行説がある。古代中国では万物全て「陰」と「陽」の二つの要素に分けられるとする「陰陽説」と、すべて「木、火、土、金、水」の五要素からなるとする「五行説」という思想があり、これらを組み合わせたものが陰陽五行説による暦注(暦本に記入される事項)で、十干十二支のほか、天象、七曜、二十四節気などがある。申は十二支の第九番目。動物では猿が充てられている。申の字はまっすぐに伸びる意で伸の原字。南方熊楠によると、英語のモンキーは十六世紀ごろ出来た言葉で、語源はアラビア語のマイムン。仏語ではモンヌ。伊語のモンナで小という意味も表わすキーを添えたもの。尚英語の猿を表わす語としてはエープがあるが今は尾のない人に近い猿を意味して使われる。旧約聖書の出来たパレスチナには猿は産せず従って語源は梵名カピ(インド)がラテン語のケプスとなりエープになったとされている。古英語ではアパと云う。
 日本でも古来サルという邦名があるが、仏典『賢愚因縁経』十二にある摩頭羅瑟質からマシラが猿の意で使われるようになったという。
 サルに代わってマシラという外来語が使われるようになったのは、去るより優勝が良いからだという説があるそ うだ。
 古代文明の発掘の際、暦があるかどうかでその文明の優劣を決めるという。
 私達もこの長い歴史をもつ私達の暦には一層関心を持ちたいものだ。
 申の基本字形は電光ののびて走るさまの象形文字。物事がスムーズに伸長していく意を基本とする。今年は申年。大きく発展する「縁起」の良い素晴らしい年になってほしいものだ。
 
あらたまの年行きがへり春立たば
 
まづわが屋戸にうぐひすは鳴け

       右中弁大伴宿禰家持

 希望いっぱいの新しい年を。
 季節は小寒初候 芹乃栄。
 さて、昨年になるが十月「卓越性と多様性の相互連環」を基本理念とする「ビジョン2020」が新しく就任された東京大学五神真学長から発表された。「国際的に卓越した研究拠点としての拡充、創設への挑戦」「多様性に富んだ挑戦を支える優秀な若手研究者達と意欲的な大学院生達への期待」「グローバル化のなかでの不透明な未来社会の駆動力となる知恵の創出=欧米を含め現在世界のどの大学にもみつけられていない知恵=」等を内容とする東京大学の果たすべき機能の基本理念と具体的方針が明示されている。
 「東京大学」を二十一世紀地球社会に貢献する知の協創の世界拠点と位置づけることで卓越性と多様性の相互連環から生み出される強力なダイナミズムを生かせると考えている。そしてその具体化として卓越性、国際性、学際融合をキーワードとする「国際卓越大学院」の創設が発表された。これ等の野心的な将来図は必ず他の日本の大学の将来計画に強い影響を与えることになりそうだ。なぜなら九月に公表され、日本の大学に衝撃を与えた英国THE (Times Higher Education)発表の「大学世界ランキング」に対するこの案が一つの有力な改善策になるからである。東大がアジアトップの座をシンガポール国立大学に譲り、世界二百位以内の大学が日本の大学五校から二校に減った最大の原因が「国際性評価、指数」の低下にあったからである。その大学で発表された論文が世界的にその分野にどのくらいの影響を持っているかが評価の対象として重要視される。
 国際化。これから大学に進学する自調自考生どう考える。