えんじゅ:293号  


各種進路企画

 

2つの自由 進路部長 井上


 「Career Education(進路教育)のあり方」をグローバルな視点で考えることがある。  例えばシンガポールは人材こそが資源との発想で、英国の教育システムの下、教育の質とレベルに強いこだわりが感じられ、ICT、ALを駆使した教育法は見事なまで先鋭化している。  中国は「高考」と呼ばれる共通テストですべてが決まり、「重点大学」と呼ばれる特定の大学に入学できないと未来がそこで閉ざされる。「科挙」の冷厳とした伝統を現在にも継承している。  一九八八年にアジアで初めてノーベル経済学賞を受賞したアマーティア・センという人物がいる。彼の研究のテーマは「経済指標」。ここでいう「経済」とは「幸福」、「指標」とは「尺度」を表す。換言して、彼は「幸福の尺度」を研究テーマとする。そして「尺度」の基準を計数的なGDPやGNPではなく「自由」に置く。それを二つに分類し、一つを「なれる自由」、もう一つを「知る自由」と呼んだ。前者は「何になれるかの可能性の量」であり、後者は「世界のことをどの位知れるかの量」と定義する。この研究の背景には彼が育ったインドのベンガル地方の「貧困問題」がある。一九四三年の大飢饉では二〇〇万人以上が餓死したという。  やがて、研究者となった彼は、一つの壮大な実験を行う。母国インドのある貧困地域に対して特別な教育を実施する。すると、その地域の「自由」の量が高まり、女性の出産率こそ低下したが、労働意欲は急速に高まる。「優れた教育を行うことで自由の量が増大し、世界観が変わり、生産性が向上する」という人間開発理論をここで証明する。これが後のノーベル賞に繋がる。  どちらの「自由」も謳歌できる日本の高校生はとても幸福に思える。「努力次第で」という冠詞は付くが、「なれる自由」を思えばそれは必要条件だと思えなくない。  今日、テロの問題が重く世界を覆っている、「テロ」には一人の人間の持つ多様な可能性、国籍・身上・性別といったアイデンティティをすべて否定して、ただ一つの価値観の中に押し込めようという偏狭な教育が根底にある。そこには一切の「自由」は介在しない。そしてこのロジックにも「貧困」と「格差」の問題が潜む。だから難しくなる。  今年の夏も退屈で孤独な時間を、いろいろな知性の吸収に有意義に使ってもらいたい。
 

起業セミナー


 「バブル時代の負の遺産である空き地を使った水族館を作る」「居住地区、ホテル地区、ビジネス地区を、食を通して繋ぐシステムを作る」……。  6月25日(土)、起業セミナーが行われた。冒頭は、幕張におけるビジネスアイディアを考えるという事前課題に対する生徒の答えである。講師は日本政策金融公庫の方。講義終了後にも多くの生徒が個別に相談に応じてもらっている姿が印象的であった。  インターネットが普及した現在、知識を得るだけであれば誰でも簡単に出来る。その知識を元に自分なりの考えを練り、他者の意見に耳を傾け、行動をする姿勢がより求められるはずである。そのような姿勢を垣間見ることの出来るセミナーであった。
 

コラム SGH15


 18歳選挙権がスタートしてから初めての国政選挙が行われました。国際的にも18歳での選挙権付与は一般的で、臆することは無いと思いますが、一方で選挙権を持つということはその責任も担うということになります。  イギリスで国民投票が行われ、EUからの離脱が決まり、世界に大きな衝撃を与えました。しかし、本当の交渉はこれからです。国民の意志は示されましたが、その通りのことを実現出来るどうか、これから問われることになります。特に相手があることについては、そう簡単ではないでしょう。SGHの取り組みに、WIN−WINの関係を築く交渉力を学ぶとあります。地球規模で物事を捉え行動することが求められるグローバルリーダーには、お互いの立場や利害を理解し、双方が納得出来る内容を交渉で見つけ出していく力を身に付け、平和を実現していくことが求められます。自分達の思い通りにならないからとテロや戦争に行きつくことにならないよう、お互いの立場を理解し受け入れることが出来るような、ぎりぎりの交渉が期待されます。