えんじゅ:121号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXVI)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

     
霜月、秋酣(タケナワ)。

古来十一月は霜月(シモツキ)と呼び、農耕民族として、収穫が完了し、 一年の全ての農事が終了して収穫した新穀を神に供え、豊饒を感謝して 豊かな実りの時期を楽しむ時期なのである。

第二次大戦前の新嘗祭(ニイナメサイ)、現在の勤労感謝の日(十一月二十三日) は、このような天地の神々に新穀をすすめ感謝するおもいから生まれた祝日で ある。

しかし、霜にあって草木は少しずつしぼみ枯れ、太陽の力は弱まり、空は 寒々とした様子に変わっていき、動植物の活力も衰える季節でもある。 そこで古来より私達は、秋に人間に生命力・活力を吹きこむ神事を行っている。 十一月十五日子どもの成長を願い祝う七五三の日、文化の向上を趣旨とする 十一月三日、或は十一月初頭読書週間といった行事はその名残りなので あろうか。

この時期、学校では槐祭、修学旅行等大行事が終り、落着いた 雰囲気のなかで、学業に、運動にそして読書などに打ち込める。どうぞ毎日、 毎日の時間を大切に充実したものとして送ってほしい。

ところで、十四年という長い準備期間を経て、ようやく宇宙に浮かぶ巨大 科学研究所が実現するというニユースが報ぜられた。日米露カナダ欧州の 各国が協力し、地球や宇宙の観測、無重力状態での様々な実験・研究を行う 「国際宇宙ステーション」(ISS)のモジュール(構成要素)第一号が、 十一月二十日にカザフスタン(ロシア)のバイコヌール字宙基地から打ち 上げられることになった。ISSは完成すると長さ約七十五メートル、 幅約百八メートル、総重量約四百二十トン。サッカー場がスッボリ入る 大きさの建築物となり、地上四百キロ上空に浮かび、約九十分で地球を一周 する、一国だけでは実現不可能な人類の夢をのせた巨大プロジエクトの スタートである。

これから約一、ニケ月に一回の割合で約四十回にわたって構成要素が打ち 上げられ、宇宙空間で組み立てられて完成するが、日本の分担する実験 モジュール(JEM)の打ち上げは西暦二〇〇一年十月が予定されている。 ここでの研究は、地球宇宙の観測、通信エネルギーの研究、宇宙での ライフサイエンス実験、微少重力環境を活用した新材料の開発など、 二十一世紀の人類の夢の実現にかかる今迄人類が経験したことのない (考えたこともない)実験・研究が行われることになる。

日本の若田光一飛行士も来秋スペースシャトルで飛び立ち、六日間 ロボットアーム操作で組み立て作業に参加することになっている。 そしてJEM実験室の空間の五十一%、一年のうち六ケ月は日本人の研究者 に割り当てられている。

奇しくも十月末に「二十一世紀の大学像−個性輝く大学」と題した大学 審議会の答申が公表され(私も審議会の一員として関わる)、そこで学習 する人達に想いをはせつつ、この夢が現実となる二十一世紀を夢いっぱいの 世紀とする主人公としての自覚を幕張中高生に期待する。


えんじゅ表紙へ

学校表紙(もくじ)へ


平成10年(1998)11月16日改訂。