えんじゅ:132号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXXUX)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

2000年、平成12年、庚辰の年を迎える。

庚は十干の第7位。五行では金、四時は秋に配する。詩経によれば、「人の守り 行うべき正しい道、宇宙万物の根本原理」を意味するという。剛(あらい、こわい) の意もある。又辰は十二支の第5位。朝、星を意味する。元号(現在は平成。 本家の中国では使用されていない)使用以前は、十干十二支が使われていた。 今年こそ20世紀最後の年として、21世紀を迎えるにふさわしい、「人として 守り行うべき正しい道」をはっきりと日本人が原理として実行し表明できる年と なることを願っている。それは日本人のSincerityが世界に通用するものとなる ことでもある。

20世紀最後の年であると共に本年はミレニアムと云われる西暦1000年代から 2000年代に変わる最初の年でもある。人類にとっての1000年代は宗教と 科学技術が人間といかに関わってきたかの歴史であった。ライフ誌(米)によって、 この1000年に人類にとって最も影響のあった出来事が@グーテンベルグの活版 印刷(知識の伝播)1455年ごろAコロンブスの新大陸到達(地理的拡大)1492年 Bルターの宗教改革(自由意志と近代科学)1517年C産業革命(科学技術と現代社会) 18世紀末Dガリレオの地動説立証(宗教と科学技術)1580年の順位で発表されている が、これをよくみると、この1000年間、特に後半では、科学技術の発展と人間の関係が 最大の関心事であったことを物語っている。

人間は自分の感覚だけで行動していたら、環境をコントロールする度合いは動物の段階を脱し えない。自分の感覚を越えたもの、これが「理」「普遍的な法則性」であるが、これを認識する ことで、感覚を越えて環境を正しく理解できるという処から科学(サイエンス)は始まっている。 (この典型的な例が「地動説」ということか。足下の大地と天の太陽のどっちがうごいている。)

そこで18世紀、19世紀とヨーロッパでは、主知主義(啓蒙主義)とその反逆としてのローマン 主義との2元的抗争があってその結果としての現代がある。然し、勿論決着はまだついていない。 つまり、科学技術の発展と人間の尊厳との関係は依然として解決されないままに残っていると 云えよう。ミルの、やせたソクラテスと太った豚という問いかけは今日、これからの新しい 1000年を考えるにも、大切な問いになっている。

本年は早々に日本学生科学賞に本校生千田直子さんが内閣総理大臣賞を受賞した。本校にとっても 又県としても誠に名誉なことで、学校を挙げて、喜んでいるが、そこで「自調自考」の幕張生諸君 「人はパンのみにて生きるものにあらず」という問いかけにどう考えたらよいかな。


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平成12年(2000) 1月19日改訂