えんじゅ:168号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCLX)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫


西暦二千四年、平成十六年、甲申の年を迎える。 甲は十干の第一位。草木の種の表皮が割れ、芽を伸ばし出す姿から「はじまり」と訓まれる。 申は十二支に九番目。漢字の一般解釈は、のびる、のばす、かさねる意で伸びる意味をもつ。

善意を問わず、新しい努力が台頭し荒れる御時世となる年と言われている。改革がその後に実りをもたらすものとなるか、又暗澹たるものとなるかの鍵となる年になるのが「甲申の年」である。

素晴らしい未来につながる年であってほしい。

旧臘、私は卒業生青木耕史君(九期生)から手紙を受け取った。内容は彼の研究が世界で最も著名な研究誌Nature Geneticsに全文掲載されること、ノーベル賞受賞者リー・ハートウェル(細胞周期)から研究を激賞されたこと、そしてその経緯が朝日・読売両紙で報道されること等が書かれていた。東京大学薬学部から研究の都合で京都大学大学院医科研究科遺伝薬理に移籍、博士課程三年で出した研究成果である。新聞によると「大腸ポリープが癌になる原因は腸の細胞染色体遺伝子異常(CdxzとApc)であること」を突き止め、癌予防に大いに期待できるとのことである。

在学中の彼の勉強はもちろん、バトミントン部の中心選手でもあった。練習熱心の余り、練習をストップさせられたくらい熱中し、そのリーダー的性格もあって、文武両道を実践した生徒であった。世界の秀才アスリートと日本のど根性スポーツマンを描いた「文武両道日本になし(マーティ・キーナート著)」では、日本人は文武両道を実現できない。なぜなら、日本人は能力がありながら目標の切り換えと集中力に今一つ欠ける為だとしている。弁護士で、ラグビーのオーストラリア代表チームの一員でもあるイアン・ウィリアムズやリレハンメル・オリンピック(本校在校生井上玲奈がフィギア代表で参加した)でスピードスケーターで三つの金メダルを全て世界新記録として獲得したヨハン・オラフ・コス=メダル獲得後医学校に戻り現在医師として世界的に活躍中=(ノルウェー)等の例を挙げ日本人に猛省を求めている。

「ピグマリオン効果」という言葉がある。子供=青少年の成長で、導く側=親・教師それから取り囲む全体がその子供をどういう眼で見るか、どのような期待をかけているかで、育ちが違ってくることを言う。才能があったとしても、子どもは自分にとって重要な他者たちが自分をどう捉えているか、そのイメージを内在化して、子どもは自己イメージをつくり、そのように育っていくと考えられている。今年からこう考えたらどうだろう。

人間の潜在能力には限界というものはない。−もし体力的かつ精神的に自分の能力を極限まで押し広げることを奨励する環境に生きるならば。

激動の二十一世紀。先行きの見通しのつけにくい時代を生きる青少年は、今年から、「文武両道」を心に宣言し、自分に限界を設定することなく先輩の青木君にも優る生き方をしようではない。切り換えと集中力で。

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平成16年(2004) 5月10日改訂