西暦二〇〇六年、平成十八年、丙戌の年を迎える。
丙は「火の兄」。「炳らか」で、草木が地上に出て伸長し、その姿が明らかになった状態を意味する。「戌」は十二支の十一番目。戌の字は「滅」で草木が枯れる状態を意味する。そして刃物で作物を刈ってひとまとめに締めくくり収穫する意。
今年こそ、平和な世界実現の為の確実な収穫の年にしたいものである。
昨年「文化多様性アイデンティティの尊重条約」が米国の強い反対はあったが、EU・日本等の支持でユネスコで採択され(10/20'05)、これで世界遺産条約('72年)、無形文化遺産条約('03年)の三本柱が揃って世界の平和を地固めする条件が出来た。
各国それぞれの文化を大切にしあう気持ちがあってこそ平和が樹立される。経済に国境はないが、文化には国が必要である。なぜなら、それぞれの国が文化の多様性アイデンティティを大切にし、尊重することで平和が実現し今世界を脅かしているテロリズムもなくなるものと考えているからだ。ところで私達の国、日本の文化のアイデンティティと言えば、十八世紀を代表する日本古典研究家本居宣長の研究に触れないわけにはいかない。
おほよそこの(源氏)物語五十四帖は「物の哀れを知る」といふ一言にて尽きぬべし<紫文要領>日本文学の本質にせまる大変有名な言葉を残している宣長は、和歌を深く研究し、物や事に触れて揺れ動く人の心をしっかりと見つめ「善くも悪しくも生れつきたるのままの心(玉勝間一の巻)」を真心として大切にし、「本然の性」から、日本文化のアイデンティティの特徴を証明しようとした。評論家小林秀雄は、「本居宣長補記」で「日本人の心を知る為に、宣長は、晩年『古学の眼』という言葉を使うようになった」と述べている。「神々とともに生活していた上ッ代の人々(原日本人)を知るには、今はもはや無い彼等の姿を、想像裡に描き出してみる他に道はない。その切っ掛けとなる古書として、彼等の心ばへが一番直かに語られている古事記を取り上げた」。
日本文化のアイデンティティを「日本書紀」からでなく、「古事記」の解釈の研究=「古事記伝」を通して示そうとした。つまり日本人を行動によってのみ知ろうとする学問方法から、「言語そのものと密着した人間心理の必然、その発掘が宣長の学問的方法の基本である」(吉川幸次郎・本居宣長の方法)によって日本人のアイデンティティを浮き彫りにしようとしたのだ。
宣長の古典文学解釈による《日本》のアイデンティティ作りという学問方法は、時代がロシア船の出没等という外憂不安であったことに関係する(国学)。その後、明治維新の急速な欧化、今日のグローバル化等日本のアイデンティティの危機が意識される時常に宣長の方法は人々の心に強く登場する。
今年は「宣長」の時代か。
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