えんじゅ:188号


忘れたくないこと

第3学年主任 菅野
        


 

 六年間を共に過ごした生徒を送り出すのは三回目です。最初の生徒が校外研修を行った時は、携帯電話が全く出回っていないころでした。班別行動中の生徒の安全を確認する手段は、公衆電話での事故報告がない事実だけでした。研修の行動計画は,時刻表を丹念に調べ、地図をひろげ、時間をかけて作るものでした。あれから約十年、インターネットや携帯でそれらは容易にできるようになりました。

 ところが、二十一期生の広島研修では、実行不可能な計画が続出しました。現地でも、見学予定時間と見学内容のずれから時間をもてあましたり、不案内な土地で道に迷ったりと以前は考えられなかったミスが多く見られたのです。

 広島の街を実際に歩く自分を想定すること、その場所に身を置いて、昔の出来事を思うことなどは、時間をかけて自分のものとすべきことです。便利さが気楽さを生み、そういう姿勢が欠けてしまっていたのが原因ではなかったかと思うのです。

 今、次々と新しい技術が我々に便利さを提供してくれています。しかし、世間を騒がせる事件は、人間臭いものばかりです。人の痛みや苦しみを思いやる気持ちがあれば、起きなかった事件もあります。「倫理感」が求められる時代だと思います。

 皆さんはさまざまな道に進みますが、それぞれの立場で、大切なものを見失うことなく活躍してもらいたいと思います。例えば、医師であれば、病にあって、痛みに苦しむ人に、最先端の医療を提供すると同時に、体をさすり、少しでも苦しみを共有できる人であってほしいのです。「自調自考」の精神とはそういうことなのかもしれません。  卒業おめでとう。

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平成18年(2006)3月15日改訂