えんじゅ:275号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCCLXVI)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫

 

    秋酣(たけなわ)。霜降(そうこう)、立冬と続くこの季節は、長かった酷暑から解放されて収穫を祝うときでもある。
   日本では、「秋祭り」を祝い、欧米特に米国では第四木曜日の収穫感謝祭Thanksgiving Dayが祝いの日となる。キリスト教圏の子供達が「Trick or Treat」と菓子をねだって歩く「ハロウィーン」もこの季節。
   山から降りて田を守護してくれた神が山に帰られるのを送り、稲の収穫、新穀を供える神への感謝行事が日本の秋祭りで、夏祭りが禊(みそぎ)・祓(はらい)の行事であるのと趣を異にする農村行事。
   北半球の秋がはじまる時期に、国際連合総会等国連関連行事が一斉に始まるが、長年の研究努力の成果ノーベル賞受賞者の決定で賑わうときでもある。今年は物理学賞で日本人学者三氏が選ばれ、日本の学術の水準が世界に誇れるものであることが示された。よろこばしい。色彩の知覚では爬虫類や鳥と違って哺乳類は進化の過程で赤・緑・青の三原色を感じとるセンサー細胞のうち緑を感じるセンサー細胞を失う。ただ我々人類を含む霊長類のみがその後の進化で緑センサーを獲得し、人類は三原色の世界で生きることになった。今回の受賞はこのことと深くかかわりがある。
   日輪の舞ひたはむるゝ黄落期            麦南
   学園は、この時期「校外研修」を終える。秋祭りは人間の本能(=互恵利他的動機付け)から育(はぐく)まれたものであるが、「校外研修」は集団(グループ)で共通の目標=私達の文化(人間が学習によって社会から習得した生活の仕方の総称。衣食住を初め技術学問芸術道徳宗教など物心両面にわたる生活形式の様式と内容―広辞苑)の源泉を探り実体験する=を達成する為の行事である。現代のとかく不安定になりがちな若者の「心」の健全なバランスを取り戻す役割も期待される。校外研修は学園の収穫を祝う秋祭りといえよう。
   中一南房総(千葉)、中二信濃、中三奈良京都、高一広島、高二中国(北京、西安)、九州と例年の舞台で各学年で生徒諸君は現地での風土、交流を通じてそれぞれが自分の頭で考え、行動した成果(=クリティカルシンキング)がうかがえるものとなった。三年ぶりに復活出来た中国ではPM問題で心配したが現地高校生との交流では、中国高校生たちの未来への明るい展望とそれに対する強い確信が感ぜられ大きな刺激を受けたようである。
   グローバル人材養成が論ぜられ二十一世紀スキルが教育の中核テーマとなっている現在、このような多様な場での目的意識をはっきり持った人達の多様な体験は何よりも素晴らしい成果を生み出す事になる。尚今回の研修地はそのほとんどは、ユネスコの世界文化遺産指定地であるが、現在指定を目指している処もある。最も古い文化財が残る縄文遺跡群=一万五千年前から二千五百年前の一万年を越える時代の文化=がそれで、全国に七万六千ケ所その85%が東日本に集中している。
   ところで今回は多様性(Diversity)をキーワードとする二十一世紀に生きる若者達に欧州連合(EU)の前中央銀行総裁のジャンクロード・トリシェの「若者への伝言」を紹介しよう。
   ブルターニュにルーツを持つフランス人で欧州市民であることにも誇りを持って生きていると明言した上で次の三つを伝言している。
   ①予期しない激変に備えよ。地政学、科学、技術、社会構造は君達が生きている内に激変する。②その変化は格段に速い。情報技術人工知能の分野が特に。③そこで必要な資質は復元力、柔軟性、創造性と素早さ。自調自考生どう考える。


えんじゅ表紙へ

学校表紙(もくじ)へ

平成26年(2014)11月20日改訂