二千拾九年。平成三十一年、暦注の干支(えと)で己亥(つちのとい)の年となる。
己(つちのと)は、十干の六番目。植物の生長に例えると草木が成長して姿が整った状態を表わす。亥(い)は十二支の最後にあたり、種子の中にエネルギーがこもっている状態を表わすという。中国古来(紀元前十七世紀)の哲理として陰陽五行説があり、万物を「陰と陽」の二要素に分け、全てを「木火土金水」の五要素からなると考えた。己は五行では土に配し、亥は水に配当される。干支(えと)によれば今年は内部をかためる年であるようだ。
紀元前六世紀ごろ宇宙の創生やその過程を、神話や宗教によらずに説明しようとする精神的態度が、小アジア沿岸のイオニア植民地を中心としても発生した。古代ギリシャにおけるギリシャ哲学の発祥である。その系譜で生まれた近代科学では、「元素」が全てのものの構成要素と考える。
アラビア錬金術では金属は水銀と硫黄の混合物だと理解されていた。また、西欧錬金術の歴史では十八世紀に至る迄金属は七種類しか知られていなかった。この範囲では、この「水銀・硫黄」理論は有益で、観察される現象もそれらを裏付けていた。
ところで太陽暦の新年は旧暦では、二十四節気の小寒芹乃栄(せりすなわちさか)う候に当たる。日本人の新年はどうだったろう。
天橋(あまはし)も 長くもがも
高山(たかやま)も 高くもがも
月読(つくよ)みの 持(も)てる変若水(をちみず)
い取り来て 君に奉(まつ)りて
変若(をち)しめむはも
万葉集 読人知らず 三二四五
万葉時代「変若水(をちみず)」と云った元旦早暁に汲む「若水(わかみず)」は若返りの効があると信じられていた。
月の満ち欠けのように「歳(とし)」も立春が来れば若返り、春が訪れる。「変若水(をちみず)」の歌はこうして出来た。(月に変若水(をちみず)があるという伝説があった)まことに目出度く祝われていたようである。
ところで、新年、世界はグローバリズムの結果生まれてくる状況の見通しがいよいよ困難になってきている。
そこで、グローバリズムを生み出してきた「学問」「Discipline」(真理と普遍性を求める)の源流となっている「ギリシャ文化」の発祥時代を考えてみたい。前六世紀ごろギリシャの周辺には古代より栄えた文化=エジプト、メソポタミア等が存在しており、ギリシャ人達は最初宇宙観や自然観をそこから学んでいる。然しギリシャ人達は先行する古代文化にはそれぞれの文明の持つ神話的思惟が混在していることに気付く。そしてそこで古い文明文化から客観的、普遍的な要素を抽出して取り入れることにした。他のオリエント諸国と比較してギリシャ市民達に民主的で自由な精神があり、自分達のことは自分達で考える(Sense of Agency)文化が大いに役立ったと考えられている。
若者達に現在「求められている態度や力」は、紀元前六世紀にギリシャ人達が周辺の先行した文明文化に対して独自の文化を未来に向けて生み出した態度、力と同じであることに気付いてほしい。この態度、力とは次の三つ。①主体的に考える。②相手の立場を考慮する。③表現する力。
そしてこれ等の力を支える「クリティカルシンキング(批判的思考)」と「好奇心=未来の学力=」。今更ながら自由で民主的精神の重要さが身に沁みる。そしてこれは「自分の為」と同じくらいの重みで「他人の為」を考えることの出来る人になることを意味している。
自調自考生、どう考える。