えんじゅ:122号校長先生講話 |
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「自調自考」を考える(そのCXVII)幕張高等学校・附属中学校校長田 村 哲 夫 |
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渋谷幕張中学・高等学校の二学期が終了する。 いよいよ冬休みに入る。 関東地方の冬は、小春日和(インディアンサマー)と北颪ガ交互におこり、晴天の多い、 独特のキッパリとした風情が緊張感を高めてくれる。 年の終り、師走と言われる十二月は、四季の果てる月《四極》(シハツ)の意があり、 祭り事の少ない、心静かに、来し方、行く末を想い、一年中で最も長い夜の時間を 静かに読書に耽る時でもある。 実りのある時間を過ごしてほしい。 年の瀬、この時期には時の流れ変遷を強く感じるものがある。十一月、進路講演会にかづさ DNA研究所所長大石道夫博士(東京大学名誉教授)を迎え、二十世紀最大の発見と 言われている「DNA(デオキシリボ核酸)」と言われる遺伝物質の本体の構造と解説を伺った。 二十世紀も終ろうとしている今、振返れば、今世紀の科学は確かに重要な発見、非凡な科学者、 理解の革新など常に革命的と言って良い動きで彩られていた。そのなかで特に一九〇〇年以降 二回に亙(ワタ)って、科学者とその思想によって、全ての人の物事の本質に対する理解に広くかつ 深い転換が生じた。第一のものは、二十世紀前半三〇年代迄に起こった「物理学」での転換であり、 第二は五十年代に始まった「生物学」でのそれである。物理学の革命は、M.プランクとA. アインシュタインの量子論と相対諭で始まる。そして「量子力学」と「特殊・一股相対性理論」 は我々が現在受け容れている世界の形を築いたと言えよう。 生物学での革命は全く別である。「分子生物学」(日本の分子生物学学会長は大石博士である。) は三〇年代半ばに始まる。そして五三年四月、ネーチュア誌に若い二人の青年学者J.ワトソン (生物学者・米)とF.クリック(物理学者・英)が共同で発表した論文「核酸の分子 構造、デオキシリボ核酸の構造の提案」(百十六行)は、丁度物理学における革命的論文一九〇五 年「特殊相対性理論」(アインシュタイン・独・二十九歳)が人間の考え方を変えたような効果を もたらした。 DNAの構造と機能を詳細に解析することが出来るようになって、DNAが細胞内の主人格で あってどのように働くかの両方の説明が可能となったのである。生物の中で起こることの全ての 張本人であるDNAは、その構造と機能が一つのものであることがわかることで、その後の生物 学研究者の主導的考え方は確立したのである。 私は、高校時代、五四年「生物」の授業で、DNA諭文をネーチュア誌一七一巻を見せて熱心に 説明された恩師の姿をありありと想い出す。四十年も前のことだが昨日のことのようだ。 大石博士とは同じ教室で受講した。この講義が彼が一生をDNA研究に尽したきっかけになったと の話しはよく聞いていた。自調自考の幕張中・高校生、どうぞ冬休みには、自分の人生のこれから を考えてみようではないか。
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