えんじゅ:122号

進路講演会・帰国生保護者会

                 


進路講演会

筆者が幼少の頃、月にウサギがいるというのと人間の月面着陸というのは、そのフィクション性に おいてさして大きく変わるものではなかった。同じころ、どこかの研究室のビーカーの中から 生まれた「妖怪人間」が主人公の漫画があったが、これはまさしく「漫画」でしかなかった。 いまや月面着陸から三十年、少々値が張るとはいえ、一般人間向けの宇宙旅行の予約が現実にある。 バイオテクノロジーが世の話題となったかと思えば、いつの間にかクローンの羊や牛も誕生し、 人間へのクローン技術の適用の禁止などという話が当たり前のように論議されていたりする。 筆者は半世紀に十年足りないくらいの人生しか生きていないが、こういう科学技術の進展の 勢いには目を見張る。

さて今年の進路講演会は、DNA研究所の所長大石道夫先生をお迎えして 行われた。近年さまざまな方面で注目を集めているDNA研究だが、先生はその世界的な権威者 ということで、時代の最前線からのお話を伺えるまれな機会であった。

中学3年から 高校2年という生徒たちの年齢の幅を考慮されてか、お話は、DNAの正体を説くことから はじまり、次々に示される写真や図解と、わかりやすいお話とで、限られた時間にもかかわらず DNA研究の墓礎から応用までのパノラマが一通り展開してしまったのは篤きであった。 「DNAは化学物質である」という抽象的なことばと、電子顕微鏡写真にみる糸のようなその 実際の姿。ご自身とご家族のDNA解析の写真を示しながらの「息子のこの部分は僕から受け 継いだ部分、この部分は妻から……」という説明。形質遺伝の話では「はげの遣伝子」という くすぐるような説明。要所々々に配された当意即妙の展開も生徒たちにとって印象的であったで あろう。

講演後の生徒との質疑応答では、一方に素晴らしい可能性のあるDNA研究の、その 可能性の大きさゆえの懸念についての質間があり、それにお答えいただいたところで残念 ながら時間切れとなった。

DNA研究の裾野は広く、今後さまざまな分野で何らかの形で関連 することが増えてくることが予想されている。バイオテクノロジーとしての産業への応用や 医療技術の開発はもちろん、生物学的な面からの「個」を問いながら、アイデンティテイーを はじめとする思想的な間題にまで大きな影響を与える可能性を持っている。その意味で、今後の 世界に自已実現を達成していくべき生徒たちにとっては、その進む分野を間わず関心のあるはず のことである。

現代の加速する知識の増大は近い将来に新たなものの発見を難しくするという 予測もあるようだ。それは本当かもしれない。しかし、その膨大な新知識の影響はあらゆるところ に(しかももはや紛れもない複雑系である現代の世界に)浸透していく。その過程で無数に 播かれる発想の種には、今の我々の想像を超えた可能性があるだろう。大石先生の講演を聞いた 生徒たちの柔軟な頭脳が、将来何を見せてくれるのだろうか。


帰国生保護者会

十一月二十日(金)午後一時から、図含館二階の自習室を会場にして、附属中学校帰国生保護者 懇談会が開かれました。九月のえんじゅ祭第一日目に中高合同の帰国生保護者会を実施して いますが、中学生の親同士がさらに親睦を深めながら自由に情報交換ができる場がほしいとい いう保護者からのご要望によって生まれた催しです。

今や十一月の恒例行事となりました。今回も保護者の方々の中から 選ばれた幹事さんが、案内状の作成から会の司会進行まで、すべてにわたってお世話 くださいました。

当日は授業公開日で、午後の授業時間と重なりましたが、学校長はじめ 中学副校長・教頭、国際教育部長等が同席して、保護者の方々のご要望をお聞きしながら 意見交換を行いました。なごやかな中にも熱のこもった二時間あまりの会でした。


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平成10年(1998)12月22日改訂。