えんじゅ:129号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXXII)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

 本年も、学園最大の行事である槐祭(文化の部)が終了した。

 今年のテーマは、「シンカする渋幕的思考回路〜進化そして深化〜」。

 現代は、あの十八世紀的な主観的自由主義や理性的個性主義(=これ等の思想が現代を支配しているのであるが)が行きついた矛盾のゆえに苦悩している時代と云えよう。

 十八世紀を代表する哲学者イマヌエル=カントは、人間とは何であるかを問い、「自ら考え、自ら探求し、自らの脚で立て!」と学生によびかけた。

 批判の哲学を書き、道徳的自由=わが内なる道徳律=を主張することによって、本当の人間らしい人間の社会をつくりあげようとしたカントはまた、強く主張している。「勉強のない批判は空虚であり、批判のない勉強は盲目である。」と。次の時代二十一世紀を生きようとする渋幕の青少年達が、その手がかりを「(自調自考の)渋幕的思考回路のシンカ」というテーマに求めている姿を感じとって、私は強い共感をおぼえ感動した。

 強風にもびくともしなかった意外にしっかりした(外見からは想像できなかった)歓迎門をくぐった来客数は7000人余と、天候が不順であったにもかかわらず最高記録を更新し、渋幕槐祭への社会的期待が実証されたようであった。

 恒例の中三生諸君による学年演劇コンクール、ディベート招待試合(今年は御父母の参加もあって大いに盛り上がる)、室内楽コンサート、合唱、国際色豊かな国際部展示、卒業生諸君の参加もあった美術部エクレクティック展等々他にあまり例を見ることのない興味深い素晴らしい表現学習の成果が示されていた。特に今年は、理系展示・天文・化学・物理ロボット・電気の数々は例年になく充実し、来校者の多くの興味をひいたようであった。

 ところでカントは、理性・悟性・判断力の三つを区別して次のように説明している。

   理性 = こうすればこうなると知る力
   悟性 = これが良いか悪いかがわかる力
  判断力 = どちらが良いかがわかる力

 いわゆる三批判書の「純粋理性批判」「実践理性批判」「判断力批判」の三作により、カントは、「人間は何を知りうるか=物事の筋道を立てる能力」「人間は何をなすべきか=人間の道徳や倫理観を支える能力」「道徳と自然との調和=より良いものを選別する能力」を、よりよい人間社会の創造に求められる資質として明示してくれた。

 矛盾と混乱、さらに不安に満ちた今日、今後を自信を持って生き抜くには、十分な勉強に裏打ちされた批判、批判精神を持って勉強するしかない。その為には、「伸びていこうとする力」「能力を持とうとする意志」「知らないことを知ろうとする”健全な好奇心”」つまり青春の生の根底にあるべきものをいきいきとさせ、無数に転がっているチャンスを学校生活の中でつかみ取って欲しいのだが。自調自考の幕張生諸君、どう考えるか。


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平成11年(1999)10月22日改訂