えんじゅ:135号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXXXV)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

 平成12年、渋谷幕張高等学校は18期生、附属中学校は15期生を迎え希望と夢に満ちた新しい学年をスタートした。

 新しく「自調自考」生の道を選択した新入生諸君に心から期待するものである。入学は「一つのゴール」だが同時に「新たな始まり」である。

 「自分の生き方をじっと見詰め考える勇気を持ち、自分なりの答えを出し、その為の良き準備をする。」「自分よりいろいろな面で優れた友人たち、将来色々な分野で活躍する可能性を秘めた友人たちと出会い、その友情が生涯を通じての貴重な財産となる」生活がこれから始まるのである。21世紀に活躍する人材の育成を目指して開校されたこの「自調自考」の幕張中、高生の生活を通して、国内的ブランドのみならず幅広く異質の魅力を発見し、自分のものとして欲しいものだ。

 ところで、21世紀という大きな時代の境目を迎え、不確実で不透明な新たな世紀を自らの手で切り開き、先導者として歩を進めるためにとして、この春「産業構造審議会」(通商産業省)が答申をまとめた。

 この中で、「今後求められる人材の質は、創造性、専門性、国際性である」とし、中学・高等学校教育には「創造性・独創性ある人材、特に与えられた課題の正解を早く見つけるよりも、主体的に問題を発見し、課題を自ら設定する能力、他者に自分の考えを説明し、討論を通じて相手に理解される情報伝達能力(コミュニケーション能力)の高い人材育成を重視すべきである。情報化社会では暗記した知識や情報自体よりも情報を取捨選択し、処理する能力が求められ、自ら考える能力が求められ、自ら考える能力の涵養は更に重視されよう。」と注文をつけている。

 まことに重要な指摘である。

 そして更に、「厳しい国際競争の下、技術改革等を担う人材の質が問われる中にあって、学齢期のゆとりよりも、生涯にわたるゆとりある生活のための基礎能力づくりこそ初等中等教育の根幹との認識が重要である。」と厳しく注文している。然し「新しい学力観」「生きる力」を求め、「ゆとり」(Latitud room for growth)を学校生活に実現するということは、まことに大切なことである。ここで米(1995年)、独・日(1996年)の年間博士号取得者数を比較してみよう。法経分野では、5,993人、2,651人、388人、理工分野では、19,226人、10,085人、5,769人である。

 この3つの国の人口比を考えても、日本の異常とも思える少なさは学校生活のゆとりのなさが原因なのではないだろうか。

 基礎・基本をゆるみなくしっかりと身につけた上での「ゆとり」ある学校生活そして生涯学習こそが求められているのだ。

 21世紀の「自調自考」生には、豊かな好奇心と飽くなき探求心をもって自己の限界に挑戦しゆとりをもって生涯を考える生活をおくってほしい。

 一人ひとりが高度で多様な専門的能力を身につけ、競争力のある多参画社会が形成されることが21世紀の日本の課題なのであるから。


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平成12年(2000) 7月25日改訂