えんじゅ:149号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXLI)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

 渋谷幕張中学・高等学校の2学 期が終了する。

 冬休みが終り、再び登校する時は 21世紀2年目となる。

 21世紀最初の年を送ろうとし ているこの時、ノ ーベル賞受賞作家 大江健三郎氏が本 学園を再訪される ということがおき た。

 今年は10月に野 依良治教授が「有 機化合物の右と左 の作り分け」をテ ーマとして昨年に 続いてノーベル化 学賞を受賞した。

 2年続けての受 賞でノーベル賞に ついての日本中の関心は一層高ま り、人々にこの賞の目的である<人 類の福祉に最も具体的に貢献した> ということの重要性を意識させてい た。

 9月11日の米国を舞台とする同 時多発テロ=21世紀最大の人 類社会の課題となることが予測され る南北問題(或は富の偏在問題) が一挙に暴発した事件=によって世 界中に暗い薄灰色の幕が垂れこめて しまったような処に、一筋の光が射 しこんだような気がした受賞であ る。

 そのような状況では、<文学の分 野で理想主義的傾向をもつ最もすぐ れた作品を生んだ人>に対して授与 される「ノーベル文学賞受賞者」が 昨年に続いて来校されたのは特別な 意味をもつことであった。11月1 3日、半日に亘って、中学生を中 心として(一部高校生も含め)「読 む、書く、生きる。あれから1年」 の題の講演と生徒諸君の「なぜ子ど もは学校に行かねばならないか。な ぜ勉強しなければならないか=自分 の木の下で」の読書感想文を添削、 講評して下さった。

 講演では、『文章を読み、書くこ とは生きることそのものである。生 きることにピンチがあると、それは 書く文章に表われてくる。具体的に は句読点、行かえ、文法の乱れや分 節化=Articulation=の問題として 表われる。今世界はピンチ(危機) にある。ここで大切なことは、一人 一人が”注意深くあること”(シモ ーヌ・ベイユ)。その為に大切なこ とは苦しんでいる人に対し”どこが 苦しいの”Quel est ton tourement ? と言える人になることだ。

 そこで人は「祈る」準備が出来た と言える。

 そして Hardi Petit !勇敢にふるま おう』と述べ次の世代に伝えたい言 葉とした。

 それから最後に、大江氏が教育と いう作用にとっての、良いモデルを 示すことの重要さを指摘して、「こ の学校はまさにその良いモデルの最 も適切な実例です。」と誉めてくだ さったのには吃驚したと同時に大変 嬉しくこれからの21世紀に生き る勇気をつけられた気がした。

 今この暮れ、話題になっている演 劇としてマイケル・フレイン(英) 作「コペンハーゲン」がある。

 ノーベル物理学賞受賞者のニール ス・ボーアと妻マルグレーテそして 弟子であった「不確定性原理」のノ ーベル物理学賞受賞者のヴェルナー ・ハイゼンベルグの3人による3 時間の会話劇である。英国・米国 で大ヒットし日本でも超満員の大ヒ ット演劇である。一方でハリーポッ ターの魔法の童話が読まれ、他方こ の演劇のような量子力学、不確定性 理論、コペンハーゲン解釈、相対性 理論という言葉の飛交う劇が満員。 21世紀世界はどうなっていくの だろう。そこで最も重要なことは、 言葉で言えば「人間の動機」という ことになろうか。(教養教育続)


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平成13年(2001)12月25日改訂