えんじゅ:149号

ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム…「あれから1年」
大江健三郎先生との再会

 11月13日、ノーベル文 学賞の大江健三郎先生が来校さ れた。ちょうど1年前、大江先 生と化学賞のハロルド・クロー ト博士を囲んでのフォーラムが 開催されて以来の再会である。

 今回は、「読む・書く・生き る」がテーマの基調講演と、代 表生徒たちとの懇談という2部 構成である。

 先生をお迎えするにあたり、 中学生全員と高校1年生が、 先生の著書 『「自分の木」 の下で』の感 想文を提出し た。そのうち の約30編を 先生にお読み いただき、添 削指導をお願 いしたうえで、 講演の内容を 構成していた だいた。

 講演会は、 作品等での硬 派で哲学的な 印象と違い、 優しさに満ち た語り口と内 容であった。 人間を信じ、 人間社会が永遠に続くことを前 提として「ピンチの時こそ注意 深くあれ」との訴えに、うなず く生徒も多く見られた。講演の 後、ご自身で黒板を消して降壇 される姿に、人間大江を感じた 生徒も多かったはずである。

 懇談会では、感想文の添削指 導をお願いした生徒一人一人に 声をかけていただいた。笑い声 が絶えない和やかな雰囲気のな かで、生徒との会話を心からお 楽しみいただいたご様子であっ た。気がつくと予定の時間を倍 も過ぎての散会となったが、名 残の尽きない別れであった。

 なおこの様子は、NHK「お はよう日本」ほか多くのメディ アで紹介された。

 以下、大江先生に添削指導を 受けた生徒の作品を掲載しま す。

「どうして生きてきたのですか?」を読んで    2−7  中澤

 私はこの問いかけを見て、 「夢や理想を追いかけるため」 ではないかと思いました。私は 「あんな人になりたい」とか「あ あいうふうに生きたい」という 理想を常に追いかけるように生 きていると思うので、今の私の 生き方はそう思えるのです。

 そんなことを考えながら大江 さんの文章を読むと、生きるこ との意味が何となく理解できそ うな気がしました。

 私たちの年齢の時は、自分が 良いと思う生き方をしてきた大 人や、尊敬する人から、様々な ことを吸収するべきだと思いま す。特別「あんな人になりた い」と思う人の生き方には、何 か他の人とは違った輝きが見え るはずだから、それをうまく吸 収したいと思うのです。そして、 吸収するということは今しかで きないことだと思います。

 大江さんの文章を読んだり、 小澤さんの音楽を聴くと、若い ときに色々な良いものを吸収し てきたのだなあ、と実感します。

 また大江さんや小澤さんのよ うに「(自分が人生で得たもの が)自分のいなくなった後で、 若い人の胸の中に新しい命とし て生き続けたら、と夢見るこ と」ができるのは、自分にしか 作り出すことのできない文章や、 音楽を持っているからなのです。

 それは若いうちからずっと積 み上げてきたかけがえのないも のであり、生きていくうちで経 験したことや考えたことが、す べて凝縮したものであるように 思えます。

 今、大江さんや小澤さんたち は、若い人である私たちに向け て、小説や音楽を通して自分の 積み上げたものを伝えようとし てくれています。私はそれを感 じとり、吸収して自分のために 生かしていきたいと思いました。 色々な人から吸収した良いもの で心を豊かにしたうえで、自分 にしかできない、消え去ること のない何かを人の心に残す− そんな生き方をしたいと思いま す。


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平成13年(2001)12月25日改訂