えんじゅ:151号
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第17回生諸君、卒業おめで とう。この門出に当って、諸君 の前に開かれている稔り多き道 を、元気に、根気よく歩んでゆ かれるよう祈ります。 いつの頃からか私は、卒業と いうと、遠くへのびる一本の道 に沿って並び立つ電柱の姿を思 い浮かべるようになっている。 その1つは、シルクロードの 旅でのタクラマカン砂漠。この 日本列島がすっぽりはいるとい う砂の海に点在するわずかな数 のオアシス。それらを結ぶ一筋 の道は、行けども行けども右は 天山の岩肌であり、他はすべて 砂漠である。この道にそって唯 一の構築物である電柱が並ぶ。 ポプラの幹の素朴な柱であるが、 わずかな土地の起伏を忠実に表 わし、砂嵐にもめげずに砂の上 にしっかりと電線を張って黙然 と立つ姿は健気でさえある。 この線の行く手に電燈が点り 夜の間が克服され、それぞれの 生活が営まれる。送電されて電 燈までは文明の所産であるが、 それから先は文化である。モン ゴル草原でもトルコの 荒野でも、その先には 昔懐かしい民族文化が 息づいていた。 中国の作家で晩年は 反共のレッテルをはら れた林語堂は、西洋文 化と東洋文化を対比し て、「あなた方は価値 を精神的と物質的とに わける。ところが吾々 はこれを1つのものと して混同している」、 また「あなた方の精神 の故郷は天上にある が、吾々のは地上にあ る」と説明した。 もっともこれは50年以上も 前の言葉であるが、文化の本質 は革命後も変らないと思われる。 むしろ、その50年以上もの 間、豊かさの文明に専念したわ が国で、改革、変革が求められ つづけ、その一方で悲観的な問 題が続出しながら、事態の好転 がはかどらない。これには不況 やグローバリズムヘの対応とい った背景もあるにせよ、改革の 対象が文明の先の文化にかかわ る、林語堂のいう「混同」の特 質が含まれるから、と考えると その困難さが理解できよう。 しかし、事が文化にかかわる からといって、それ が文化の否定を意味 するとはいえない。 文化の成立には多く の因子が考えられよ うが、不変ではなく 長い眼でみれば変容 もする。 現在の事態はいず れ結着し、それなり の効果もあろう。し かし、その成否の鍵 を握るのは人、とく に創造性に富む若人 である。 本校は創立以来、 時代を先駆ける教育 実践に努めてきた。その眼目は 諸君の若さへの期待であった。 諸君の明るい眼と心は、適確に 明日を感ずる力をもつ。 どうぞいつも元気で、明るく。
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父は、生前、どこかの日本企 業が、世界市場を席巻する製品 や技術を開発したという記事を 新聞紙上に見つけると、喜んだ ものであった。そして「たいし たものだ」と言いながら、私た ち家族にそれを読んで聞かせた。 父は、日本の技術力と、その結 晶であるメイド・イン・ジャパ ンの製品を、深く信頼していた。 あれから30年、状況は大きく 変わった。冷戦構造は崩壊し、 世界市場は均一化されつつある。 私達の暮しにも、メイド・イ ン・チャイナ、コリア……世界 中の物があふれている。日本発 の製品が世界で最も優秀である 時代は終った。では、現在、何 が日本から世界へ向けて送り出 されているのか。それは、人材 ではないだろうか。野茂に始ま ったメジャーリーグヘの挑戦は、 イチローや佐々木に受け継がれ、 さらに多くの若者が続こうとし ている。サッカーでも同じこと が言える。スポーツ界だけでな く、日本の枠を越え、大胆に競 争の中に身を置こうとする者は 少くない。本校の卒業生には、 マライア・キャリーのバックダ ンサーで、世界を飛び回ってい る者がいる。これからは、君た ちの活躍の舞台は世界なのであ る。今は、そこで自分を試す時 代、すなわち人材の時代と言え るのかもしれない。更に、その 次はどうなるのか。もう私が心 配する事ではないのかもしれな いが、おそらく日本が世界に向 けて発することができるのは、 平和を尊ぶ日本人の心や良識で はないか。それが世界をリード できたら素晴しい。したがって 今、緒についたばかりのアフガ ン復興や、京都議定書が提起す る環境問題で、今後世界に貢献 できたら良い。君たちは、どう 考えるか。いずれゆっくりと語 り合う機会を持とうではないか。 壮年になった君たちと、老人の 私とで。
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