えんじゅ:156号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXL[)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫


 今年も、学園最大の行事 「槐祭(文化の部)」が無事終 了した。テーマはICT(イン フォメーション・コミュニケー ション・テクノロジー)時代の 若者らしく「アットマークシブ マクドットカム」 @しぶまく.comeとした。

 「受信型」に とどまらず、「発 信型」を求めた、 若者達の創造的 表現学習活動の 成果が素晴らしい 効果をもたらし た。

 来会者のために 用意した7000部の パンフレットが午 後2時にはなくな って、結局どれほ どの方が入場されたのか、正確 に把握出来なくなるほどの賑わ いであった。

 演劇、吹奏楽、室内楽、合唱 には、どれも感動させられた。

 理系、文系の積極的なクラブ 活動の紹介、楽しい天文部、ク ラス参加の諸活動。エジプトの ヒエログリフ(聖刻文字)の精 密な模写展示はシャンポリオン を思い出させる。美術、書道両 部の展示、日本伝統の茶道部の お手前、励田学生による自国紹介 は国際色豊かな本校らしい催 し。クッキング部、図書委員 会、そして今年も見事な歓迎 門。そして校内ボランティア有 志「イエローフェアリの校内バ ラ園展示」には、感動。

 現在、校内は熱気溢れた槐祭 から、一転して2学期の学校生 活に集中した静けさにつつまれ ている。

 この切替と集中力の発揮は本 校の特徴の1つであるが、槐祭 のあの熱気とその経験は生徒を 大きく成長させたことを実感し ている。

 私はこの学園祭をプログラム 巻頭文で述べたように、「オー ケストラ演奏」にたとえている。 各パートナーが上手、下手関係 なく懸命に演奏し、それが全体 として独特の雰囲気を醸し出 し、聴衆および演奏者の気持を 昂揺させ、素晴らしい創造的効 果を生み出すところが学園祭と オーケストラがよく似ていると ころである。

 詩人、長田弘は、学校という 所を、学ぶ場所というだけでな く、学校は「ここに、共に在 る」ことを学ぶ場所であると言 っている。そして「ここに、共 に在る」というのは、こことい う場を、必要な他者と共にする ということだと述べ、言い方を 換えれば、プルーラル・アイデ ンティティ(他者のいる、ある いは、他者あっての、独自性) Plural Identityを、進んで自分 に担うということを意味してい ると説明している。

 著名な法哲学者恒藤恭への 手紙の中で、親友の作家芥川龍 之介は、「自分は一高生活の記 憶はすべて消滅しても君と一緒 にゐたことを忘却することは決 してないだろうと思う」と書い ている。

 プルーラル・アイデンティテ ィとは、「そこに一緒にいる」 という感覚あるいは「一緒にい た」という記憶でもあるのであ ろう。

 そして人と人とが「共に在 る」という感覚の上に育ってい くのが、『人の自由』なのであ ろう。

 自調自考の渋幕が、学ぶ場所 だけでなく、「ここに、共に在 る」という感覚を育てる場所で もあってほしいものだ。槐祭が きっかけとなって。


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平成14年(2002)10月15日改訂