えんじゅ:160号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCLII)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

二月、如月「日脚伸ぶ」「風光る」といった季語が使われる。 「春は名のみの、風の寒さや」(早春賦)の時、春を迎え、微妙な光の変化を見逃さない 日本人の季節に対するデリケートさ。その新しい春に、渋谷幕張中、高校新入生が決定した。 そして三月、弥生、植物の芽生え、草木のいよいよ生い茂る月「いやおひづき」。 日平均気温が五度以上となる「植物期間」を迎え、新しい芽生のとき、自調自考の十八期生を送り出す。

冬薔薇の長き愁眉を開きにけり           有馬朗人
新しい出発を寿ぐ如く、記念行動の前庭には、「イエローフェアリー」手造りの薔薇園が 馥郁と新春の薫りをただよわせている。

さて、卒業生達を含め、今若い人達の人気ナンバー・ワンとして名高い緒方貞子さんが近著 「私の仕事」で、「最近日本全体が内向きになっています。しかし、日本は国際的基盤なしには 暮らせない国です。このグローバルな時代、モノもカネもヒトも危険も動く。隣の国、周辺の国、 あるいは遠い国の政治状況が自分の国にかかわっていることを意識することが非常に重要です。」 と述べ話題となっている。

国連難民高等弁務官として十年活躍した世界的にも著名な人の発言として、大変重みのある言葉である。 そしてその中で、若者へのメッセージとして、「人間は仕事を通じて成長していかなければなりません。 その鍵となるのは好奇心です。常に問題を求め、積極的に疑問を出していく心と頭が必要なのです。」 と強調している。

日本人は本来大変好奇心の強い民族であると言われている。

現在大阪歴史民俗博物館で没後二百年記念として「なにわ知の巨人・木村蒹葭堂展」が開かれている。 大化改新の詔が発せられた難波宮跡地に作られた博物館での展示は、日本のパスカルと芥川龍之介が 評した木村蒹葭堂=本名木村吉右衛門、蒹葭は葦の意。大阪の「考える葦」。=の事跡を網羅している。 万巻の書を読み、詩文、書画、煎茶に通じ、本草学(薬学)を修め、蘭学を学び、貝、意志を分類し鯨の 一角の研究もし、その知を慕って日本各地から文人、画家、学者が訪れ、その名は朝鮮に迄響いていた。 その風貌は知友谷文晃筆の肖像画(重要文化財)で知られ、伊能忠敬も北海道測量に出る前に訪ね、 当時殆ど知られていなかった蝦夷地の知識を教えてもらっている。大阪商人(酒造家)である蒹葭堂は、 商人は読み書きそろばんで充分とされた当時の風潮の中で、自ら学問芸術の世界を求め、いろいろな成果を 残している。 「前後に比類なき、森羅万象ありとあらゆるのを取って、己が趣味好事の対称とした」大知識人は、 その原動力を「己が好奇心」から得ている。日本人の好奇心も大したものだ。自調自考の幕張生諸君 どうですか。


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平成15年(2003) 3月3日改訂