えんじゅ:162号
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入学式は4月7日(月)、青く澄 んだ空の下、校門脇の染井桜は 満開でした。先ずは君たちの新 しい門出を、喜びと期待を込め てお祝い致します。 3月6日は啓蟄(けいちつ)でした。冬ご もりをしていた虫が外に出るこ とを意味する言葉ですが、この 頃になると、新しい生命の息吹 が感じられて、春遠からじと人 は思うようです。まして桜の開 花は自然の営みの確かさを知ら せてくれます。
(大岡 博) この歌のように、木草は、そ の時を間違うことなくとらえて 芽を出し花を咲かせ、実を結び ます。人は、これらの事象から 学んだのでしょうか、その時に あった催事を考え、生きる楽し さ、これから先の生活の励みと して、折々の式典や祭を産み出 したのでしょう。入学式を4月 の花の季節で行うのも、自然の 万物が各々の生命を輝かすよう に、新しい門出に立つ若い人び とが、それぞれの個性を豊かに、 自己実現の花を咲かせ、実を結 ぶよう、そんな旅立ちを願って のことでしょう。 この時に当たって、私は次の 2つのことを伝えておきたいの です。その1つは
中学生になる君も、高校の門 に入った君も、共に1つレベル の上がった地点で、新しい教科 内容を学んだり、新しい部活動 やさまざまな体験をすることに なります。未知の世界の扉を開 けると、そこには宝物がいっぱ い横たわっています。好奇心で 胸がドキドキ、どれを取っても いいのですが、石ころのように 見えるものもあるので先生に教 えてもらう必要もでて来ます。 その教えを糸口にして、自ら調 べ自ら考える授業や体験が始ま ります。そうした過程を経て、 手にする宝物を1つ1つと増や して行きます。その行為が人間 としての知性を深めるというこ とです。手にする宝物が異なる ことから、その人ならではの個 性が作られていきます。自己実 現とはそうした営みを言うので す。他者とともに立つ私たちで すからこの自己にこだわって、 他者を忘れてはならないのです。 知を深めることは、自らを豊 かにするだけではなく、他者を も幸せにするものでなくてはな らないのです。君たちが入学の 時、イラクのバグダッドでは、 都市や宮殿や住居、自然やメソ ポタミアの古代遺跡などが破壊 され、幼子を始め武器を持たぬ 人々まで、ハイテク兵器で虫け らのように殺されました。私は 太平洋戦争の敗戦の中で、正義 の戦争が無いことを学んだので すが、戦争を正義のためと主張 する知性は持って欲しくないと 強く望んでいます。その2つは、
中国の春秋時代(紀元前8〜 5世紀)に、管仲(かんちゅう)と鮑叔牙(ほうしゅくが)と いう2人の仲の良い幼馴染がい ました。管仲は糾(きゅう)に鮑叔牙はそ の弟小白に仕えました。後に、 この兄弟は王位をめぐって相争 い管仲と飽叔牙も互いに敵とし て戦いました。小白が勝利をお さめ、糾を殺して斉の国王とな りました。後の桓公です。小白 は管仲を殺そうとしましたが、 鮑叔牙は、管仲は世にも得がた いすぐれた人物であるから管仲 を用いるように進言し、自分よ り高い地位につけて桓公に仕え させ、斉を大国にしたと言いま す。いかなることがあっても友 を信頼し、生涯強い友情で結ば れることを、管鮑の交わりと語 り継がれています。このような 友はこの学園にもいます。今は 見えないこうした友を得るには、 君は自らの知性を磨き、他に対 しては君の心を開いて、その長 短を秘すことなく、友の群に飛 び込んで行くがよい。友あり来 たる。
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入学して日も浅く、1年生の 緊張はまだ相当なものです。不 思議なもので、人は緊張が高ま る程、周囲と同じように行動し たり反応したりして、大勢の中 に自分を隠そうとします。それ は群れをなす動物に共通するも のなのかもしれません。そもそ も本校に集まる生徒は、厳しい 中学受験を経て、高い能力と自 信を身につけているという点で 共通性は多いのです。このよく 似た生徒たちが緊張から同じよ うに行動したとしたら、おそら く自分らしさを失い、学校に向 かう足取りは重くなるでしょう。 そこで、まず、学校に慣れるこ とが今求められます。具体的に は、通学を楽しむこと。そして 学校では男女の別なく話をする こと。とりあえずクラスの全員 と話をしてみましょう。次に、 自分の中にある興味や関心、積 極性を授業で少しでも出してみ ましょう。さらに係・委員会、 部活動や研修の中にも出せれば 大丈夫です。学校生活にすっか り慣れ、元気に毎日を送れるこ とでしょう。ポイントは人と話 すことにあります。つまりコミ ュニケーションです。コミュニ ケーションは双方向のやり取り があって成り立つものです。自 分の考えを述べ、また人の意見 も聞かなければなりません。似 た者同志の中では違いはわかり にくいものです。みんな自分と 同じだと思い込んではいけませ ん。十人十色と言いますが、話 してみると色々な考え方、感じ 方があるものです。その違いが わかること、そして、それを受 け入れ、自分の考え方を一層深 められれば素晴らしいと思いま す。人間の大きさ、心の広さ、 懐の探さはそういう経験の中で 養われるのではないでしょうか。 これから君たちが互いに違いを 認め、より個性的になってくれ ることを、そして、その能力を 充分に発揮してくれることを期 待します。6年後に、びっくり するぐらい大人になった君たち に出会えることを願っています。
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中学3年間は身体の成長がよ く見えます。それに比べて高校 3年間に育まれる心の成長は、 外からは容易にはわかりません。 しかし3年間に周りで起こるさ まざまな出来事は、心の栄養と して確実に蓄えられていくでし ょう。日々机を並べ共に汗を流 す友達が、あるときは大人びて 見え、またあるときは幼く見え る。そうした繰り返しの中で、 いつしかお互いの成長を感じ合 える日が来ることと思います。 3年後の高校からの巣立ちは 中学までのそれとは大きく違い ます。自分は何をしたいのか。 自分をどう社会に役立てていく のか。そうした疑問に自分で出 した答えを胸に抱いて、確実で はないかもしれないという不安 を飲み込んで歩み出していくの です。 進路を「切り拓く」という言 い方を聞くことがあると思いま す。この作業は繊細な気持ちで 自分を見つめ、大胆に挑んでい く強さが求められます。いろい ろな分野の学習を通じて自分の 興味を知り、積極的な行動力で 見聞を広める3年間を過ごすこ とが、次のステップヘの基盤と なります。高校での目標は、進 学といった目先のことだけでは ないのです。自分としっかり向 き合うことから得られる強さを 身につけることなのです。 目の前を通り過ぎる出来事の 中に、自分を大きく変える何か が潜んでいるかもしれません。 過ぎた事を見つめなおすと、成 長した自分にとって、そのとき には気づかなかった何かを見出 すかもしれません。そうした発 見は楽しさを感じさせてくれま す。皆さんは高校に何かを期待 して入学してきたはずです。そ の期待に応えるのはもしかした ら自分自身なのかもしれません。 自分の成長はその時に実感で きるものかどうかはわかりませ ん。しかし、振り返って初めて 気づくものだとしても、そのと きには高校は楽しかったと言え るでしょう。皆さんが本当の楽 しさに出会えることを祈ります。
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平成15年(2003) 5月19日改訂