えんじゅ:167号校長先生講話 |
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「自調自考」を考える(そのCL\)幕張高等学校・附属中学校校長田 村 哲 夫 |
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渋谷幕張中学・高等学校の2 学期が終了する。 冬休み後、再び登校する時は 21世紀4年目となる。 20世紀末の所謂(イワユル)世紀末の混 迷から21世紀新しい世紀を迎 えても、いまだに 抜け出せないでい る人類社会。 私達の国日本も、 ハンチントン教授 の指摘した”文明 の衝突”(キリスト 教文化とイスラム 教文化の対立抗争) の狭間(ハザマ)で迷い悩ん でいる最中である。 前回こうした時 代を生き抜く若者 達に、「歴史」を学 ぶことの重要性を 述べた。今回はその続きとして 「本を読むこと」の重要さ、そし て「言葉」を大切にすることの重 みを考えてみたい。私達は言葉を はっきりと使って頭の中を整理す ることで「自立」して成長してい く。更に他の人と協力するにも、 はっきりした言葉や云い方が何よ りも大切である。その為「言葉」 を使う本を沢山読み考える訓練を する必要がある。 今年暮(クレ)、私が長年かけて訳した 本が出版された。「アメリカの反 知性主義」(Anti-Intellectualizm in American Life) リチャード・ ホッフシュタッター薯(みすゞ書 房)。 コロンビア大学歴史学教授の書 いたこの本は、’60年代から’70年代 にベストセラーとなったピュー リッツア賞受賞作(米)。「アメリ カ人は、智能(マインド)は大好きで智能のあ る人には尊敬を払う。然し知性(インテレクト) は、嫌悪して、知性人は嫌う。」 「智能と知性は重なるが、智能に 信従と遊び心が加わると知性とな る。」「人類社会は、知性によるこ とがなければ危機に陥る。」「この ような著述をすることに、私は恥 ずかしいことをしているという感 じを持つ。然し恥ずかしさを敢え て公表するのも、アメリカという 国に育ったアメリカ人の知性のカ だと考えている。」……これ等は 著者の云っている言葉だが、使用 されている「言葉」は1つ1つ吟 味して意味を確認して読む必要が ある。(その為本文の1/3くらいの 索引があり訳すのが大変であっ た。) 又、本校に再度にわたって来 校、講演されたノーベル賞作家、 大江健三郎さんが年末、「200年 の子供」を上梓(ジョウシ)した。こゝには、 次の世代に生きる子供たちへの メッセージが満載されている。 「いまを生きているようでもい わばさ、いまに溶けこんでいる未 来を生きている。過去だって、い まに生きる私らが未来にも足をか けてるから意味がある。思い出 も、後悔すらも…」…… ここでは、3人の兄弟妹が、会 話することで人間社会の基礎構造 を理解し、「新しい人」になって いく過程が描かれているが、使用 される「言葉」1つ1つの意味を 充分に理解することで、面白さが 激変する。例えば、「新しい人」 という言葉が使われているがこの 言葉には、ポール・ヴァレリー (仏・詩人)の思想の影響がある と判ると理解の深さ、面白みが何 倍にもなる。 冬休み中、未来を支える自調自 考生よ、未来の社会が知性に乏し く知的に費しい社会でなくする為 にも、じっくり読書し「言葉」を 考えようではないか。 「言葉」を整理し使い理解する ことで人は「自立」していくのだ から。
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平成16年(2004) 1月 9日改訂