えんじゅ:191号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCLXXXll)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫

 

 平成十八年、二〇〇六年、渋谷幕張中学高等学校の二十三期生を迎えての「夢」に満ちた新学年が始まっ た。

 春休み期間、中三のニュージーランド研修の他、英国、シンガポール等海外研修を多くの生徒諸君が経験 し、多様な体験を胸に新学年が始まっている。

 虔みて 釈奠に侍し 学徒たり

            坂田苳子

 未来そのものである青少年にとって将来の見通しが立てにくい時代ほど厄介なことはない。

 二十一世紀は、国際化、グローバリズムによって「多様性」Diversityそして何がおこるかわからない時 代だと考えられている。そこでは、多様な価値観・何が大切で、何がそうでないかについての考えかたが錯 綜している。

 そして時代を支配するイデオロギーも、偉大な思想も存在しない。

 このような時には、一人一人が、人間らしく、自分らしく生きることを心掛けることが肝要である。現在 が「こころの時代」と云われる所以であろう。

 第一次大戦に反戦を唱え、第二次大戦では、ヒットラーに好ましくない作家として迫害されたドイツの詩 人・作家へルマン・ヘッセ(’46年ノーベル文学賞)の著作は、効した「こゝろの時代」を生き抜くに大 変有益なものである。

 ヘッセ自身、「告白的自伝」と述べている「車輪の下」で、詩人になることを夢見た、青春の挫折を経て、 文筆家として身を立て「自分らしく」「人間らしく」生きることを明らかにした。そして代表作「デミアン」 では、精神と自然の対立に悩む自己の内面を厳しく追及し、晩年の大作「ガラス玉演戯」で精神的ユートピ アを描いて円熟調和の境地を示した。

 「ベートーベンの生涯」「ミケランジェロの生涯」「ジャン・クリストフ」で有名なロマン・ロラン。ナ チスに対し果敢な抵抗を続け、作品「魔の山」で民主的ヒューマニズムを世に問い掛けたトーマス・マン。 共にヘッセと同じ悩みを伝えてくれる作家である。ヘッセが「自分らしく」「人間らしく」生きる為一番大 切にしたのが「読書」であった。彼の著作「読書術」に「書物」という詩がある。彼の読書についての考え 方を知るには良い詩なので紹介する。


 書物    ヘルマン・ヘッセ
               岡田朝雄訳


 この世のどんな書物も

 きみに幸せをもたらしては

           くれない

 だが それはきみにひそかに

 きみ自身に立ち返ることを

          教えてくれる

 そこには きみが必要とする

           すべてがある

 太陽も 星も 月も

 なぜなら きみが尋ねた光は

 きみ自身の中に宿っている

           のだから

 きみがずっと探し求めた

             叡智は

 いろいろな書物の中で

 今 どの頁からも輝いている

 なぜなら今

     それはきみのものだから

 「読書の世界は面白いぞ。」

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平成18年(2006)5月8日改訂