生憎の秋雨に見舞れ、生徒は
若干の計画変更を余儀なくされ
たものの、つつがなく研修活動
を行った。四日間すべて班行動
であり事前に定めた研究テーマ
に則り、一日毎に行動班が変わ
る。そのように極めて自由度の
高い活動であったが、大きな混
乱もなく、充実したものとなっ
た。偏に、研修委員が出発前に
語った「渋幕生としての自覚を
持って臨む」という吉葉を念頭
に置いて、生徒たちが活動した
結果であろう。
近年、私学を中心に、目的地
毎にグループを作り、生徒が主
体となって旅行会社と折衝し、
実施する、自由行動型の修学旅
行が増えているそうだ。その意
味では、我が校の現地集合・現
地解放も画一的になってきたよ
うだ。しかし、伝統文化に彩ら
れた歴史ある古都奈良を、自ら
の関心に従って四日間かけて探
訪した経験は、レジャーに偏
りがちな前者にはない深みがあ
る。
数々の伽藍が立ち並び、願い
の強さを感じさせる丹塗りの鳥
居が続く参道に、響き渡る力強
い念仏を聞きながら、信責山山
頂を目指した生徒たち。三日目
に訪れた浄瑠璃寺では、浄土世
界を再現したという、花香り紅
葉色づき仏塔の丹が映える境内
の厳かな美しさに感動し、おも
むろにスケッチを始める生徒の
姿も見られた。朗かな秋の午下
り、心ゆくまでいにしえの仏教
文化の粋を味わったことは、彼
らの若い心に何を残すことにな
るのだろう。生徒たちが大和路
に刻んだ足跡をここに示す。
南大門
研修委員長 斉藤
鹿たちは思い思いの場所で、
眠ったり、尻尾を振ってせんべ
いを要求したりしている。顔を
あげると目の前には、巨大な南
大門がそびえていた。
門の巨大さ、そして仁王像の
巨太さに日を丸くする。予想外
だった。写真で見て想像してい
た大きさを、はるかに越えてい
た。頭の方は、高さのせいか暗
さのせいか、よく見えない。し
かしそのことが一層、仁王像を
強く、恐ろしく見せている。金
属でも石でもなく、「木」であ
ることが良いのだろう、少し黒
ずんだ表面は作った人の思いを
感じさせ、でこぼこした肉体は、
木の塊を一生懸命のみで叩く人
の姿を想像させる。
よくこんな巨大な像を作れた
ものだ。「人」というものは本
当にすごい。ひとつのことに熱
中するとこんなものまで作れて
しまうのか。自分はどうだろう
か。自分も人生で一度はこんな
すごいことをできるだろうか。
いろんな意味で、自分が小さ
く見えた。
新薬師寺を訪れて
研修副委員長 森
研修四日目。前日とはうって
かわってさわやかな秋晴れの
中、私達はある寺を目指して奈
良の町を歩いていた。
寺の名は新薬師寺、有名な寺なので
私は他の寺のような立派な伽藍を想像していた。が、歩けどもそれらしき門やお堂など見えやしない。ただ静かな住宅が並んでいるだけだ。
「あ、ここじゃ
ない?」
不意にそんな声を開いてハッ
と顔をあげる。そして、驚い
た。住宅が延々と立ち並ぶ中そ
の一角に、周りの風景と調和し
ながらもどこか違う雰囲気をも
つその寺に。東大寺のような豪
華さも華やかさもその寺は持っ
ていないが、寺特有の荘厳さと
辺りの喧嘆とは無縁の静けさが
日本人の心を揺さぶるのであろ
うか。
「住宅の片隅に置き忘れられ
た過去の遺物」そんな形容が
ぴったりくる風景だった。
さわやかな秋晴れがよく合う
その寺は私が奈良で見たどの
寺よりも目に焼きついている。
きっとそれは、華やかさよりも
厳かな雰囲気を尊ぶ日本人の忘
れられていた精神が呼び起こさ
れたからなのかもしれない。
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