えんじゅ:216号


進路講演会

 「顔学」という学問分野があ るのをご存知だろうか。占いの 類を想像されるかもしれない が、そうではない。東京大学 でも真面目に研究されている立 派な学問なのである。十一月 十二日(水)の進路講演会では、 この顔学の第一人者であり、東 京大学大学院情報学環教授であ る、原島博先生をお招きし、講 演をしていただいた。
 このあまり馴染みのない顔学 だが、コンピュータを使って 創ったモナリザの泣き顔や、東 大生の平均顔、想定される未来 の顔など、非常に興味深い画像 を交えてのお話に、多くの生徒 が引き込まれていた。特に、あ る職業に就いている人達の平均 顔の画像から、それが何の職業 かを予想するクイズは大いに盛 り上がった。銀行員とプロレス ラーの平均顔の違いに笑い、女 性アナウンサーとキャビンアテ ンダントの平均顔は、どちらも 確かに「アナウンサーらしい」、 「キャビンアテンダントらしい」 顔であり、職業によって顔に違 いがあることが実感できた。
 普段誰もが見ている「顔」。 しかし、実は最近まで、ほと んど研究されていなかったよう である。原島先生はかつてテレ ビ電話の研究をしていたことか ら、顔に興味を持ち、一九九五 年に日本顔学会を立ち上げら れた。これは多くの専門家の興 味をひき、思いもよらぬ横の繋 がりを形成するに至った。つま り、原島先生のような工学者だ けでなく、心理学者、人類学者、 哲学者、警察関係者など、様々 な分野の専門家が集まることに なったのだ。
 原島先生は、この横の繋がり がこれからの研究には不可欠で あると、ダ・ヴィンチを例に挙 げて強調された。ダ・ヴィンチ とは、ご存知の通り、芸術家で あると同時に、数々の発明をし た万能の人である。当時と比べ、 様々な学問が飛躍的に進歩した 現代では、一人でダ・ヴィンチ になることは難しい。しかし、 顔学の例のように多岐に渡って 異なる専門家が手を繋ぐことで、 集団として「現代のダ・ヴィンチ」 になることができるという。
 原島先生によれば、このよう な横の繋がりを持つためには、 専門分野での深い学識だけでは 不十分なのだ。加えて、隣の分 野の人と手を繋ぐことができる ほどの幅広い見識、そして人か ら信頼される人間性を養うこと が大切なのだ。
 これを実現するために、中高 生の頃に出来ることとして、原 島先生は、以下の二点を挙げら れた。一つは、新しい分野への 好奇心を持つこと。そしてもう 一つは、とにかく友達をたくさ ん作ること。
 最後に、原島先生は夢につい てこのように語られた。夢とは 時に人に笑われたり、荒唐無稽 なものであったりする。しかし、 どんな夢でも捨てずに持ってい れば、いつかは前触れもなく追 い風が吹く。その時夢を実現で きる可能性が生まれる。しかし、 夢を捨ててしまった人は追い風 が吹いていることにすら、気が 付かない。追い風を受けるため にも、「夢のストック」を増や していくべきなのだ。


卒業生による大学ガイダンス
            


 進路の最終決定を目前に控え た高校二年生を対象に催す恒例 のイベントである。  京都大学医学部人間健康科学 科一年の小山優美子さんは、発 表一番手の重圧と闘いながら、 「センター試験で大失敗し、止め どなく湧いてくる絶望感に耐え きれず、周囲に当たり散らす毎 日。ところが、ある日突然にそ んな自分が子どもに見え、大人 にならなきやと自然に思えた。 その日から猛然とやる気が出て きた」と赤裸々に語ってくれた。 一橋大学経済学部経済学科一 年の越村大督さんは、高校サッ カー部の中心選手として、最後 まで勉強との両立に努力する も、あと一歩及ばず。「妥協しな いで浪人したことを、一度も後 悔したことはない。受験勉強は 孤独で辛いけれど、人間的に成 長する絶好のチャンス。別に浪 人をお薦めしているわけではな いですよ」と笑いも誘った。  東京大学理学部地球惑星環境 学科四年の水鳥末那人さんは、 理科系大学生の定番ファッショ ンの話で、一気に場の視線を引 き寄せると、映像を交え、東大 の表・裏を大公開。「何かに悩ん でいる暇があったら、勉強する か遊ぶかすべき」とのアドバイ スに、校長先生も領いていた。  東京大学法学部四年で司法試 験に合格し、弁護士として活躍 中の末廣裕亮さんは、「今の仕事 は会社の将来やそこで働く社員 の人生を左右する。絶対にミス が許されない」というシビアな 話に空気が引き締まる。陸上部 での六年間の経験に触れて、「一 つのことに頑張れる人は全部に 頑張れる。自分のために頑張れ ない人が、どうして人のために 頑張れるのか」と静かに、そし て熱く語ってくれた。  先輩の言葉は、どうしてかく も自然に心に浸みるのか。会場 を後にする生徒達の目は、安堵 と確信に満ちていた。

 

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平成21年(2009)1月28日改訂