えんじゅ:269号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCCLX)


幕張中学・高等学校校長

田 村 哲 夫

 

    三月、弥生。四月、卯月。
   この時期の学校は、二十九期生を送り、新入生を迎える準備に忙しい。
   日本では、一年の季節の移り変わりを二十四節気と分ける。立春からはじまり、春分、夏至、秋分、冬至の四つの時期(二至二分)に春夏秋冬のそれぞれの盛りを迎え、大寒で締めくくって一年としている。
   この時期は季節は「春分」、「桜始めて開く」の次候となる。
   七世紀奈良時代、大和の葛木山にいたという役者小角=役行者=(続日本紀)を開祖とする修験道と云われる日本民族古来の宗教の聖地吉野山金峯山寺の桜が日本を代表するものとして有名である。
   歌人西行法師はその桜を愛するあまり、三年ほど庵を結んで吉野に住み、その西行に憧れ松尾芭蕉は二度も訪れ、又国学者本居宣長も桜を愛しこの地に訪れている。
   春といへば、誰も吉野の花をおもふ心にふかきゆゑやあるらむ(西行法師)
   蔵王権現と桜で有名な吉野金峯山寺では、桜は神木として、桜一本首一つと云われて大切にされてきた。明治維新の際の神仏分離令(明治元年)、修験道廃止令(明治五年)により、山伏に代表される宗教活動は一時廃絶されている。然し今までの千三百年に亘る修験道活動によって全山桜の素晴らしい景観が残っている。世界遺産としても吉野大峯、金峯山寺等が登録されている。
   本校でも、吉野の山桜とはちょっと違うが、江戸時代末、染井(東京駒込)で生まれた染井吉野(第二グランド)と八重桜(第一グランド)が順次開花してゆく姿が楽しめる。
   謡の名曲「田村」の一節に「よしありげなる姿にて、玉箒を持ち、花かげを清め給ふは、花守にてましますか」とある。

     一里はみな花守の子孫かや
       松尾芭蕉

   「日本人と桜」はまことに面白い。
   ところで「桜」便りと一緒にちょっと考えさせられる「知らせ」が突然届いた。
   『アメリカの反知性主義』(みすず書房)の復刊の通知である。
   西暦二〇〇〇年となるのを意識して私は名著『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター著(ピューリッツァー賞受賞作品)を翻訳し、所謂みすず書房ホワイトカバー本で出版した。
   アメリカでは刊行以後、「反知性主義」という言葉がアメリカでの社会全般に亘るアメリカ人の自己評価に使う最も重要な形容詞となったので有名でもある。日本でも翻訳、出版時の反響は大きかった。五版出版されてきた。その後十数年も経てここで突然再版の話が出たのは近年日本いや世界をも覆い出している所謂「反知性主義的状況」が原因となって本著作『アメリカの反知性主義』が買い求められるに至ったからだと考える。事実私も調べたが、なんと〝AMAZON〟でも売り切れ、在庫無しの状態であった。(三月一日現在)
   「反知性主義」の話題は昨年十二月、社会学者竹内洋氏(関西大学東京センター長)がネットの「書評空間」に本書を取り上げ、時代に影をおとす「反知性主義的な空気が台頭している」状況に対する警告を述べられたことから始まったようである。その後、今年になっても、週刊誌、各種論調の中で「反知性主義」に対する警鐘と主張がなされ続けられている。(作家佐藤優氏、フランス現代思想研究者内田樹氏等)
   『アメリカの反知性主義』を翻訳した者として、アメリカ人の考える「知性」「知能」そして「知性的生活」を紹介し、歴史学者R・ホーフスタッター氏の希望している人間の生き方について次回述べてみたい。それまでに自調自考生よ「反知性主義」をどう考えるかな!


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平成26年(2014)4月5日改訂