えんじゅ:148号

校長先生講話


「自調自考」を考える

(そのCXL)


幕張高等学校・附属中学校校長

田 村 哲 夫

 2学期。秋酣(タケナワ)。

 アメリカでは子ども達が "Trick or treat"と言って近処に菓 子をねだって廻る日=Halloween. 10月最後の日=を楽しみ、そし て11月、第4木曜 日の収穫感謝の日 =Thanksgiving Day= を過ごす時期であ る。収穫祭の色彩 を持つハロウィー ンは近年では欧州 特に英国でも一般 的に祝う日となり つつあるという。

 日本でも秋にそ の年の五穀豊饒を 祝う「秋祭り」を豊 穣祭(ホゼマツリ)と言い、感謝 の気持を表わした 祭りがありその後、日本各地の 神々は出雲地方に集まると言う。 10月を神無月と言い、出雲では 神在(カミアリ)月と言う所以(ユエン)。11月は霜 月と言って、全ゆる生物がその 活力を失うとされ、その活力を 人間に吹き込む為の神事=霜月 祭り=が日本各地で行なわれて いた。このように私連日本人の 先祖は自然との調和のなかで年 ごとの人生を充実させる生き方 を工夫してきた。

 学校でも、これに倣ってか、 2学期のこの時期、学校生活に 新しい活力を吹き込む為にも意 味のある行事が行なわれるのは、 まことに興味深いものがある。 本校では、槐祭文化の部、研修、 修学旅行がこれで、加えて昨年は 20世紀最後のイベントとして、 「ノーベル賞受賞者による教育フ ォーラム」が実施された。

 第2次大戦後、私達の日本で は、先進国である欧米諸国に追 いつけを目標に全ゆる活動が計 画され、実行されてきた。この 「ノーベル賞フォーラム」もその 1つで、社会人、又は大学生を 対象に実施されていたが、21 世紀を目途に、これからの時 代に活躍する中学生を対象に 「教育フォーラム」と衣更えさ れ、その第1回が本校で実施さ れたわけであった。

 そして、今年の秋は、「あれか ら1年」と題して、昨年「教育 フォーラム」で指導された文学 賞受賞者大江健三郎先生が再度 来校されるという、中学生諸君 にとっての望外なプレゼントが 実施されることになった。

 昨年の本校中学生(当時の中 3生、今の高1生も含め)との 対話によって触発された大江先 生が、elaborateされた結果とし ての著作『「自分の木」の下で』 の生徒達の感想文をもとに、「読 む、書く、生きる」の題での講演 と生徒達との対話を中核とした 目もくらむような生徒達にとっ ての成長のチャンスが提供され るのである(11月13日(火))。 この文が皆さんの目に触れる時 には行事を終了しているが、自 分のアイデンティティの確立を 発達課題としている中学高校生 達にとって、「生きる」ことを深 め考え、自己の成人としての 「人格的同一性」と「歴史的連 続性」を認識する為の大きな経 験となることが期待される。ま さに肯定的アイデンティティ(エ リクソン・E)の確立になる。

 前号で教養教育について述べ たが、「知識を自分を変えるも の」として受けとめ、刻一刻と 変化するシステムとしての自分 の将来(成人)を社会との歴史的 位置づけのなかで意識する自我 の確立を考える力を持つことが 教養(Bildung)であり、教育の目 標であるなら、今回のこのイベ ントは最高の教養教育なのだ。


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平成13年(2001)12月 3日改訂