えんじゅ:166号
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バスで20分程。レストハウス に着くと早速寝覚ノ床へ向か う。薄暗い階段を降りて建物の 反対側へ。川岸なので土地が低 い。緩やかな坂を下ると、ぱっと 明るい景色が飛び込んできた。 紅葉にはまだ早い木々が青々と 寝覚ノ床を囲んでいる。大きな 岩の間を流れる木曽川は、あま りにゆっくりで湖のようだ。
![]() 寝覚ノ床は、木曽川の激流に 花崗岩が浸食されてつくりあげ られたものだ。トラックくらい の大きさの岩がゴロゴロとある から驚く。しかもそれらは直方 体や立方体で、断面は人為的に 削られたかのように滑らかであ る。さらに私を驚かせたのが木 曽川の流れの色だ。淡い灰色の 花崗によく映えるハナダイロ。 水面(みなも)には太陽の光が反射してキ ラキラしていた。前日のバスの 中、ガイドさんが「川底が龍宮 城へつながっている」と上松で は言い伝えられていると話して いた。それに寝覚ノ床には浦島 太郎伝説がある。浦島太郎とい えば海辺の話なのだろうが、こ この川は伝説の1つや2つあっ てもおかしくないような、神秘 的な雰囲気を持っていた。 しかし、私たちは寝覚ノ床の そばにある臨川寺へ行ってがっ かりするのだった。プレハブの 宝物館では、ガイドブックによ ると浦島太郎が愛用していたら しい釣竿を見たが、どう見ても ただの木の竿。さらに受付の方 によると浦島伝説はこの地のも のではなく、中山道の宿場町、 上松に遠いくにから旅人が運ん できたのではないかということ だ。その話が地元の人の間で発 展したのだろう……。
![]() 午後、手打ちきし麺で遅い昼 食を済ませ外へ出ると、日は山 へと傾いていた。帰りのバスま での時間、温泉に入った。温泉 から外の風景に目をやり、ふ と、伝説について思った。ただの つくり話と言ってしまえばそれ までだが、そんな伝説ができた のも、上松の地理的条件や人々 の関わりあいがあったからこそ だろう。伝説は嘘だとしても、 何だか私は温かいものに触れた 気がして、充分に満足していた。 | ||
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「どこから来たの?」 鵜原駅の改札を出たところで、 切符を買っていたおばあさんに いきなり声をかけられた私は、 少し戸惑いながらも、「千葉市 の幕張からです。鵜原理想郷と 勝浦海中公園を見に来たんで す。」と応じた。 「そう。いい所だからね、ゆっ くり見ておいで。」 そう言って、おばあさんは私達 に優しく微笑みながら、駅に 入っていった。突然声をかけら れ驚いたが、何故だか温かな気持 ちに包まれたことを覚えている。 駅を出て歩いていくと、小さ な売店があり、そこにいた男の 人に、理想郷への道に迷ってい た私達は尋ねてみることにした。 その人は実に快く教えてくれた 上、「気をつけてね。」とも言っ てくれた。その後、再度道に 迷った私達は、別の店でもう一 度道を尋ねたが、同じような親 切な答えが返ってきた。 町の人々のおかげで無事理想 郷に辿り着く。理想郷には結構 勾配が激しい箇所もあり、前日 の鋸山登山が脳裏に浮かんだ。 途中、道に迷ったりもした が、だんだん登って行くに連れ 視界が開けていき、頂上からは 勝浦の海が一望できた。波は荒 かったが素晴らしい景観だった。 10月の海から吹き付ける海風が ひんやりとして気持ち良い。私 達は景色を楽しみながら昼食を とった。
![]() 昼食後、頂上の近くを歩いて みると、あちこちにおじいさん おばあさんが歩いている。擦れ 違う時に、「こんにちは。」と声 をかけてみると誰もが皆、とて も嬉しそうに、「はい、こんに ちは。」と返してくれた。清々 しい気持ちで一杯になった。 午後は理想郷を出て海中公園 に行った。そして鴨川に戻って シーワールドを見学して、研修 の2日目、クラス別行動は終 わった。 この1日で、勝浦・鵜原の 人々の心の温かさに触れること ができたと私は思っている。ま だ失われていない心の温かさを ”学ぶ”というよりは実感した。 勝浦・鵜原の人々との触れ合 い、そしてそこから学んだ様々 なことを大事にしていきたいと 思う。
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平成16年(2004) 1月 8日改訂