舞台俳優 岩崎MARK雄大さん(17期卒)のセミナーを開催しました


11月26日(金)、舞台俳優の岩崎MARK雄大さんによるGLFCセミナー「『好きなこと』と『得意なこと』で社会とつながる」が開催され、中2から高3までの希望者約50名が参加しました。岩崎さんは本校17期生で、東京大学文学部を卒業後、舞台俳優として活動され、最近では森田剛主演『FORTUNE』や高橋一生主演『フェイクスピア』などに出演されています。また、帰国生で英語が堪能であることを生かして、通訳・翻訳・英語教育者としても幅広く活躍されています。
 
 「今日みんなはどんな内容を期待してきましたか」。そんな岩崎さんの問いかけからセミナーが始まり、まずシェイクスピア「ロミオとジュリエット」でジュリエットに想いを伝えるロミオのセリフを実際に演じてくださいました。マスク越しではありましたが、岩崎さんの声が第2啓発室中にしっかりと響き、あたかも劇場にいるかのような、否、ロミオが今そこにいるかのような雰囲気に包まれました。と、そこで岩崎さんは「心が動いて感じることって何なんでしょうね」とこのセミナーのテーマを示されました。
 以下、岩崎さんのお話の概要を紹介します。

◇「自分にとっての幸せと、社会で果たしたい役割から考えるいくつかの生き方について」
(A) 既存の社会システムの一部となって社会の役に立つ
この生き方は家族を大切にして、安定した環境を手に入れることにつながる。おそらく多くの保護者は我が子のためを思い、こうあってほしいと望んでいるのではないか。
(B) 変化する社会に合わせてシステムを更新していく人
これには先を見たり、現状に対する批判的な見方やエネルギーが必要になってくる。旗振り役として目立って恰好いいが、反発も多く、極めて孤独な戦い。
(C) システムに疑問を投げかけて、そこからこぼれ落ちる人を救う人、あるいはシステムの外側から創造活動を行う人
NPOやNGO、また、アートの役割もここではないか。
(D) 一点集中で何かを突き詰める人
研究者。たとえば、海外に出て世界の第一線で何かを研究する人など。自分の友人にもこういう生き方を選んだ人がいる。
 
◇「『感じること』を大切にするための方法について」
 「感じる」ためには自分の心をたどっていく。そこにヒントがある。日常を生きているなかで感じる違和感を大切にしていくと、それが自分の個性となり、やりたいこと、好きなこととの出会いにつながる。
 たとえば、中高時代のテストは「感じる」の真逆で、設問の文学作品を読んで感動していたら時間内に解けなくなってしまう。高速の情報処理も大切だが、盲目的にその一面ばかりを磨いてしまうと、中学生から高校生になり学年が上がっていくにつれて「感じる」ことができなくなってくる。テストは大事だが、心のひだが感じることを大事にして、すぐに答えの出る問題のほかにも目を向けてみることが大切。

◇「自分のやりたいことが見つかったらどうするか」
 自分のやりたいことが見つかると今度は心配になることが出てくる。たとえば演劇の場合は、親の心配だとか、才能の有無だとか。
 大学1年生のときに参加していた国際政治・経済のゼミで、参加学生が自分の将来設計の発表をする合宿があった。そこで、どうしても一つに決められず、いくつかの将来の生き方のルートを並べて発表した。そのときゼミの先生から「岩崎君は本当は俳優になりたいんじゃないの」、「ある分野で一流になるためには一つの分野を選ばないといけない」とアドバイスされ、それが転機になって俳優の道を志すようになった。
 それから、1つ1つ納得して行動したのがよかった。ほんの一握りの天才以外の才能はほぼ努力。努力の積み重ねで自分の中に経験のクラウドができて行き、必要なときに突然それがパァーッとつながりふっと降りてくるイメージ。センスを磨き続ける作業が大切。

◇「得意なことで社会とつながる」
 自分は帰国生で英語が得意だった。それと、人に何かを教えることも得意だった。演劇をやっていたこともあってコミュニケーションや、言葉と呼吸と身体について向き合って学んできた。英語と教えることと演劇が思いもよらず結びついて、英語を教えることになった。
 世の中にはいまや全く新しいことというのはあまりなくて、新しいものは、何かと何かの新しい組み合わせということが多い。舞台俳優と通訳や翻訳、英語指導はバラバラの仕事だが、組み合わせてみると改めて発見することも多かった。振り返れば、かつての自分はクラウドを広げようと、苦手なことをできるようになろうとばかりしていた。だが、得意なことを活かすと、比較的早く人の役に立てるのだと気づいた。

◇ 「中高時代の友達について」
 中高時代の友達とはゆるくてもよいからある程度付き合っていた方がよい。少なくとも今の感覚だけで拒絶はしない方がよい。20年越しで再会して初めて仲良くなることもあれば、お互いにすごいことになっていたりすることもある。

◇「常識は〈いつ〉と〈どこ〉で変わりうる」
 生きていく上で常識だとされていることに違和感を感じることを大切にしてほしい。たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大があって、常識とか世の中のしくみがどんどん変わっている。今の40歳代から50歳代の人がつくったシステムに対する「おかしいな」とか「こうした方がよいのでは」という違和感を手放さないこと。その違和感が、新しい時代を作る原動力になる。

◇「『感じること』の意味」
 他者から求められることに応えていくのではなく、自分が何に対して心が動くのかじっくり向き合い、そこから行動していくと意味がある、オリジナルなものになる。
 大人になると「感じること」を忘れてしまう人が増える。しかし、自分から何かを積極的に取りにいくことが必要で、そのとき教養やアート、何かを感じるひだの部分が大切。演劇を観たり、美術館に行ったりとか、正しい見方があるわけではないそういうものに触れて、「正しさ」からかけ離れた妄想を楽しむことに、本質と出会うヒントがある。

 セミナーの締めくくりにシェイクスピア「リア王」のセリフを演じてくださり、エンディングのエドガーのセリフを紹介してくださいました。
エドガー この悲しい時代の重荷は、我々が背負って行かねばならない。
言うべきことではなく、感じたままを語り合おう。
 (松岡和子訳『リア王』ちくま文庫より)

 講演終了後は質疑応答に対応してくださり、またセミナー終了後にも多くの個別質問に一人ひとり丁寧にお答えをいただきました。
 お忙しいなか後輩たちのために時間をとっていただいた岩崎MARK雄大さんに厚く御礼申し上げます。今後の益々のご活躍を、生徒教職員一同祈念申し上げます。

※ 本セミナーは田村校長先生も聴講されました。