GLFC 国際通貨基金(IMF)セミナーを開催しました。

11月21日(火)、IMF(国際通貨基金)日本理事の水口純さんとIMFアジア太平洋地域事務所の長岡寛さん(本校21期生)をお招きしてグローバルセミナーを開催しました。約90名の生徒が集まり、国際業務の経験豊かなお二人からIMFの仕事内容や国際機関に勤務することの魅力等についてお話を伺いました。以下に、セミナーの内容を紹介します。


◆ 「国際通貨基金の概要について」― 長岡寛さん(IMFアジア太平洋地域事務所)
 私は21期生として渋谷幕張高校に入学しました。一橋大学商学部を卒業後、東京税関を経て財務省秘書課で、財務省幹部の出張やG7、G20といった国際会議のアレンジを担当していました。その後2016年からは同省国際局において、ODA(政府開発援助)の政策や予算の立案などを担当していました。現在は東京にあるIMFアジア太平洋地域事務所に期限付きで出向しています。私の方からは、皆さんにIMFの概要を紹介し、3つの主な活動について知って頂きたいと思います。


(1)IMFとは
 まず、IMF(International Monetary Fund、国際通貨基金)とは、1944年に米国ブレトンウッズで調印されたIMF協定(条約)により、1945年12月に設立された国際機関です。活動の目的は通貨・金融に関する国際協力、国際金融システム・為替相場の安定、世界貿易の促進などです。現在の加盟国は190カ国で、日本は53番目の加盟国です。IMFは加盟国からの出資をもとに活動しており、株式会社のように出資割合に応じて組織の運営に対する発言力が決まります。現在、日本の出資額は米国に次いで2番目です。本部は、米国のワシントンDCにありますが、その他90カ国以上に拠点があり、私が所属しているIMFアジア太平洋地域事務所もその一つです。約150カ国の国と地域を出身とする約3,000人のスタッフが勤務しています。

(2)IMFの組織
 IMFの最高意思決定機関は〔総務会〕で、年1回190カ国の代表が集まって、IMFの最重要事項を決定しています。一方で、日常的な業務については、加盟国を代表する24人からなる〔理事会〕で決定しています。水口理事はこのうちの一人で日本政府を代表する立場として活動しています。総務会や理事会での決定に従い、IMFのスタッフが日々の活動を進めていますが、マネジメントとしてそれを率いるのが〔専務理事〕と〔副専務理事〕の5人です。スタッフが所属する部局は大きく3つに分かれています。①国・地域を担当する〔地域局〕、②国・地域を横断する問題を担当する専門家チームである〔機能・サービス局〕、③会社でいう総務・管理にあたる〔サポートサービス局〕です。

(3)IMFの3つの主な活動
 IMFは、以下の3つの活動を主に行っています。それぞれ、医師・消防士・コーチの仕事に例えることができると言えます。この3つの活動はぜひ覚えておいてください。
 
〔活動① 加盟国の経済・政策のモニタリング・助言〕=経済状況を診断する医師
 IMFは、経済危機発生を未然に防ぐ観点から、グローバル・リージョナルおよび国別といった様々なレベルで経済情勢のモニタリング等を行っています。
 グローバル・リージョナルのモニタリングの取組としては、経済分析や政策提言をまとめたレポートを定期的に公表しています(例:年2回公表する世界経済見通し(WEO)や地域経済見通し(REO))。国別のモニタリングの取組としては、加盟国ごとのチームが年1回、担当する国を訪れて政府や民間企業と協議し、その国の経済や政策が健全な状態かどうかを診断して必要に応じて助言を行います。また分析内容や提言はレポートにまとめて原則公表しています。

〔活動② 経済危機に陥った加盟国への融資〕=危機に駆けつける消防士
   このようにモニタリングをしていても、経済危機は起こってしまうものです。その時にIMFから加盟国に融資を行うことで、危機への対応と経済の立て直しを行うまでの猶予を確保しています。ただ、国の仕組みが変わらなければまた同じ危機が起きてしまうので、必要な政策アクションを、融資を行う条件として課すことが一般的です。極端な例ですが、支出が多ければ公務員給料を下げる、収入が少なければ増税しましょう、という具合です。次に危機的状況がやってきても自国の力で対応できるような政策を促すのがIMF融資の特徴だと言えます。新型コロナでの経済打撃の際にも各国に支援を行いました。

〔活動③ 加盟国の人的・組織的能力の強化〕=能力強化のためのコーチ
 ここまでの活動では、加盟国に対する助言等に触れましたが、せっかく受けた助言も、加盟国側にそれを実行する人的・組織的能力がなければ意味がありません。このため、IMFでは、加盟国の当局職員に対する能力開発として、専門家による統計や税務管理などの技術支援や、セミナー等も行っています。なお、日本はIMFの行う能力開発活動に対する資金貢献を積極的に行うなど、中核的役割を担っています。


(4)日本とIMFの関係
   日本とIMFの間には70年を超えるパートナーシップがあり、出資比率も第2位です。現在、約70名の日本人の専門職職員が在籍し、これまでに5名の副専務理事(現職:岡村健司さん)を輩出しました。私が所属するアジア太平洋地域事務所(OAP)は、特にアジア太平洋地域の経済動向のモニタリングや、能力開発の一環としてアジア地域の新興国の政府職員を対象とした奨学金制度運営のほか、セミナーや国際会議の開催を行っています。

※最後に、OAPが開催する、IMFのエコノミストの仕事の体験学習が可能なワークショップ(エコノミスト養成プログラム(MTP))とOAPでのインターンの機会についてご紹介がありました。 

◆ 「IMFなど国際金融機関で働くということ」― 水口純さん(IMF日本理事)
*はじめに
   日本という国は、安心安全で、豊かな国土と長い歴史・文化があり、私の外国の友人にも日本を訪れたがっている人はとても多いです。自分がアメリカの大学院に留学していた30年少し前、バブルがはじける直前の頃は大学の授業でも日本のことを相当聞かれたものですが、残念ながら最近はそこまでの強い関心を持たれているとは言い難い気がします。日本人留学生の数も当時に比べて減ってきていると思います。だからこそ、「日本頑張れ」という気持ちが強くあります。最近は日本の学生は内向きで、海外志向でなくなりつつあるという話も聞きますが、私は必ずしもそうではないと思っています。特にここにおられる皆さんは将来、海外志向の強い方々が多いと思いますので、ぜひ、日本人としてのアイデンティティをしっかりと持ちながら、世界に大きく羽ばたいていただきたいと思います。そのためには、もちろん様々なやり方があり、海外の大学や大学院に行ってそこでノーベル賞級の研究を目指すというのも、もちろんやりがいのあることでしょうが、国際機関で働くというのも魅力的な選択肢の一つだと自分は思うのです。

(1) 自己紹介
私は1987年に東京大学法学部を卒業し、大蔵省(現財務省)に入りました。その2年後にアメリカのハーバード・ケネディスクールに2年間留学し、公共政策学修士(MPP)を取得しましたが、私は帰国子女でもなく、日本の学校でしか英語を学んだことがありませんので、正直、最初は英語では苦労しました。その後、国際金融機関で3回勤務しました。まず、フィリピン・マニラにある【アジア開発銀行(ADB)】の総裁補佐官、次に、スイス・バーゼルのBISにある【金融安定化フォーラム(FSF)】事務局での勤務を経て、昨年7月よりアメリカのワシントンで【国際通貨基金(IMF)】の日本理事を務めています。開発経済・金融規制監督・マクロ経済という3つの異なる分野を、それぞれ異なる3つの地域と国際機関で経験してきたということになります。さらに、金融庁勤務時代はIOSCO(証券監督者国際機構)という証券関連の国際機関において、あまり前例はないと思いますが、4つの部会の議長職を同時に兼任していました。現在はIMFで理事を務めております。


(2) IMFの役割
IMFの主な役割については長岡さんの先ほどの説明にあったので省きますが、最近IMFは活動の幅を広げ、変化する世界経済や課題に機敏に対応していることを付け足しておきたいと思います。例えば一例を挙げますと、女性活躍の分野です。日本も例外ではありませんが、STEMと言われる科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の分野で女性にいかに活躍していただくか、さらに、より一般に、女性の労働市場への進出をどう促進していくか、国の経済全体を発展させていく観点から、IMFは助言や提言を行っています。さらに、気候変動に対応するための資金や、デジタル通貨に関する分野などでも各国の取組みに対する助言やサポートを行っています。そもそも、皆さんはIMFという国際機関をご存じでしたか。日本では、高校の教科書の記述でのみご存じという方々も意外に多く、また、IMFという機関は、映画“Mission: Impossible”においてトム・クルーズが演じていたエージェントが所属していた“Impossible Mission Force”という秘密部隊のことですか、などと冗談交じりに言われたこともあります。同じく教科書に載っている大きな国際機関として「世界銀行(World Bank)」がありますが、こちらはその活動が一般的にわかりやすく、例えば、その一つの役割として、橋や道路といったインフラの整備や経済開発のための長期の資金を貸すといった役割があります。それに対して、IMFは国の経済を全体として立て直し、成長率等を引き上げていくといったマクロ的な課題に対応するための短期(3、4年くらい)の資金を貸し出すことを役割の一つとしている機関です。実はこの2つの国際機関は、ワシントンDCでは通りを挟んで向かい合う場所にあるのですが、その役割については相互に補完しあう関係にあります。

(3) IMFで働くためには
   IMFにおいて、いわゆるエコノミストとして採用されるには、世界の主要大学でマクロ経済学の博士号を取得するのが一般的ではありますが、経験者枠として金融セクター出身者や大学等から採用するルートもあります。日本人は職員比率では全体の約2.7%ですが、出資比率に比べてまだまだ低く、さらなる増加を目指しています。IMFは多様な国籍や文化的背景を持った様々な職員から構成されていて、それぞれがマクロ経済、金融などのエキスパートです。ここには、そういう仲間と共に成長できる機会があります。皆さんもIMFで世界経済や国際金融を支える仕事を一緒にしてみませんか。

(4) 国際機関で働いてみて感じたこと
   これからお話しすることは、全て自分のこれまでの経験に基づいた個人的な所感や雑感といったもので、また、3つの国際金融機関という限られた自分の経験に基づくものですので、あくまでその前提で聞いていただければと思います。
・ まず最初は、言語、文化、国籍、人種が違ってもみんな同じ人間であるということです。
先にお話ししたように、私は、アジア、ヨーロッパ、アメリカにある3つの国際金融機関で仕事をしてきました。その自分の体験から改めて感じた基本的なことは、言語、文化、国籍や人種が異なっても、結局はみんな同じ人間だということです。こちらの写真は、今年10月にモロッコでIMFの総会があった時に、IMFの有志チームとモロッコのナショナルチームのOBの方々でサッカーの親善試合をしたときのものです。真ん中に写っている女性はIMFのトップの立場にある方ですが、ここで申し上げたいのは、言語や国などが異なっても、詰まるところは同じ人間であり、逆に言語等が違うからこそ、お互いに円滑なコミュニケーションがむしろ大事になるということです。最近ではコロナ禍の影響もあり、IMFでもリモートワークの機会が格段に増え、反対に、対面コミュニケーションの機会が減ってきています。相手方の言語・文化、考え方等が異なる場合、相手の表情などでその考えや感触を補完的に読み取るということもできると思いますが、ウェブの画面越しですと、それは決して容易ではありません。IMFでは、2階の昼食用カフェテリアのソファーでコーヒーを飲みながら仕事の話をすることがよくあるのですが、お互いのオフィスで畏まって話すよりもインフォーマルな雰囲気で話すことができ、そのような会話の中で思わぬアイデアが生まれることもあります。さらに、初対面の場合や、特に込み入った難しい話の時ほど、笑顔を交えて話すことが大事だと自分は思います。いつもしかめ面をしている人に、他の人はなかなか近寄ってきません。もちろん笑顔ですべて解決するわけではありませんが、笑顔というのは世界共通で、実際に笑顔自身が語ることも多いと思いますし、意思疎通も滑らかになります。さらに、例えばIMFでは年に1回の職員運動会を含む様々なイベントがありますし、私は週末にIMFの職員とよくバドミントンをしますが、職場でのポジションや立場に関わりなく、幅広く交流をはかり、コミュニケーションの機会を持つことはとても有意義なことだと思います。


・ 常なる誠意と情熱の大切さ
これは何も国際機関に限ったことではないと思いますが、常に誠意と誠実さを持って人に接し、チーム全体で共有の目標を立てて、それに向かって高い熱量を持って仕事をすることが同僚の信頼を勝ち得る早道ではないかと思います。是が非でも必ずやり抜くんだという強い意志と高い熱量でやることで初めて信頼が得られように思います。もちろん、人が元来持っているパーソナリティや流儀はなかなか変えられないでしょうし、むしろ変える必要もないと思いますが、自分らしさや自分のスタイルを大事にしつつ、自分なりのやり方や流儀で、目標を立て、ぶれずに実行していく方がよいように思います。“Where there is a will, there is a way.”、これはリンカーン元米国大統領の言葉と言われていますが、まさに、「意志のあるところに道は開ける」と信じてやろうと決心しなければ、物事は始まらないし、進みません。また、交渉においては、まず相手の話を忍耐強く聞き、その真意を確かめ、相手を知ることが大切です。自分が話したいことを一方的に話すだけでは相手には伝わらず、けして有利な方向に進むとは言えません。また、不思議なもので、信頼関係が形成されてくると、仕事は求めずとも自然と向こうからやってくるものです。先ほど申し上げたように、私は金融庁勤務時代、証券関連のIOSCOという国際機関で、部会の議長を4つ同時並行で務めましたが、その中には外国当局の同僚から是非やってほしいと頼まれて引き受けた議長職もあります。逆に、一旦、忙しさを理由に断ってしまうと、よい仕事は次回からなかなか来なくなります。金融庁における自分の国内担当業務と兼務の中での国際業務でしたので、けして容易ではありませんでしたが、外国当局の同僚から頼まれること自体がとても名誉なことであり、また、日本のためにもなると思い、全て引き受けました。結果的に、具体的な成果も出ましたし、また、気持ち的にもとても充実していたと思います。

(5) 国際金融機関での働き方
最後に、国際機関で働くということの実際について、IMFでの例を中心にいくつかご紹介したいと思います。
・ 働く上での姿勢と評価
国際機関で働く上で、自分が特に大事だと思うのは、自分の付加価値とは何かをしっかりと見定めたうえで、それを組織で積極的にアピールしていくことです。自分と同じような資格や資質を持っている職員が多く存在する中で、上司からの仕事を待っているだけでは、なかなか良い仕事は与えられません。積極的に仕事を取りに行くために、自分が組織のためにどう具体的に貢献できるか、何ができるかを考えなければなりません。IMFにおいて、優れたマクロ経済の分析能力といった資質はIMF業務の特性からしてわかりやすい強みですが、その他にも、例えば、プロジェクトの企画立案や関係者の調整に秀でているというのも一つの重要な能力だと思います。IMFでは一部の新人エコノミストを除いては、何年もかけて組織内で人材を育てるというよりは、直ちに即戦力が求められ、また、そのパフォーマンスについて上司・部下、同僚からの360度評価を受けます。また、他部署への移動や配属は上司から一方的に指示されるのではなく、空きポジションに自ら応募する形で応募者間での競争となり、人気のあるポジションほど激戦となります。上司たる管理職も常に優秀な部下職員を求めていて、自分のチームの成果を上げるためにも、能力が高く優れた部下を得るために必死です。

・ ワーク・ライフバランス
  これは職責や従事する業務内容によっても異なりますが、一般的に職員は上司から求められた具体的なアウトプット(分析結果など)を指示された期限までにペーパーで提出すればよいので、その意味では、与えられた業務の難易度にもよりますが、一般的に、勤務時間などの点で柔軟な働き方が可能なので、その点は国際機関のよいところではないかと思います。IMFは本部の1階に保育所も設置していますので、幼い子供さんを預けて働く人もいます。他方、国際機関ですから、欧米アジアの当局とオンライン会議をすることも多く、時差の関係で必然的に米国の早朝、日本時間の夜といった時間帯に設定されますが、こればかりは仕方ありません。

・ ダイバーシティ(多様性)の推進
  IMFはアメリカにある国際機関ですが、アメリカの会社ではありません。アメリカの組織に日本人が働いているということではありません。言い換えますと、アメリカ社会に存在しながらも、アメリカの組織ではないインターナショナルな機関と言えます。人種や国籍などによる待遇上の差別はなく、個人の能力主義が基本であることに加え、過小代表となっているグループ層を可能な限り引き上げていこういう動きが見られます。その意味では、日本人にとって、むしろ働きやすいという見方もできるのではないでしょうか。IMFにおいて、日本は、出資比率と比べて日本人職員比率が大幅に少ない、いわゆる過小代表地域の一つです。このため、従来より、日本人職員数の増加とともに、幹部職への昇任を推進していくことは大変重要と考えています。いま、IMFでは人種や国籍による差別はなく、個人の能力主義が基本と申し上げましたが、他方、やや逆説的なのですが、海を越えた海外だからこそ同じ国の職員の結束が重要になる場面もあります。日本人が結束して集団として相応のパワーを持っていると他の人々に感じさせることも大事です。IMFでは個人のメリット主義をベースにしつつ、過小代表地域からの採用・登用を推進していますが、日本人職員が、個々にではなく、まとまって行動しないと、実際には過小代表改善に向けた全体的なアピールにならないので、やはり数は大事であると思います。さらに、IMFにおける女性職員比率は高いと思います。IMFにおける女性職員の新規採用に占める割合は現時点で46%で、目標の50%に徐々に近づいてきています。また、トップを含めた5人のマネジメントのうち3人は女性であり、また、局長・次長クラスの幹部職員は3分の1が女性です。ワークライフバランスや勤務のフレキシビリティを大事にしていて、女性職員にとってIMFは環境として大変働きやすい職場と言えるのではないかと思います。

・ 英語力
  自分は24歳でアメリカに留学するまで、恥ずかしながら、国内線も含め飛行機に乗ったことさえもありませんでした。また、初めての外国留学先のボストンでハンバーガー店の”Whopper”というハンバーガー商品の正しい発音ができず、正直、注文もよく通じないところからのスタートでした。ところが、帰任後、何と大蔵大臣の外国要人面会の際の逐語通訳を務めることになりました。国際機関ではアウトプットをしっかり出すことが大事と申し上げましたが、それは英語でデータに基づき論理的にペーパーを書くということに他なりません。英語でペーパーを論理的に書く訓練は3つの国際機関勤務中に積みましたが、論理的に表現する能力は言語の違いにかかわらず基本的に同じで、日本語ペーパーの作成についても同様のことが言えると思います。また、英語で話すことに関しては、金融庁時代の国際交渉やIOSCOの議長時代には、どうやったら相手を効果的に説得できるか、また、多くのメンバーの間で発散しがちな議論をどうまとめて簡潔に総括するか、などを常に考える能力が鍛えられたように思います。


・自分が日頃から心がけている心構えや習慣
  国際的業務に携わるにあたり、自分がこれまで有益と感じたことを幾つかご紹介したいと思います。まず、自分は経済に関する国際分野の仕事が多かったのですが、それに関連する英字新聞のFinancial TimesやThe Economist誌などに目を通すことは、国際ビジネスマンであれば基本的に皆さんやっておられるので、毎日、毎週自分もそのようにしています。また、日本語に翻訳または要約された2次資料はもちろん便利なのですが、他人のフィルターを通したものなので、自分の頭で理解・確認するために、必ず英語の原典や一次資料を読むようにしています。さらに、国際機関では膨大な情報が、特に職位が上の職員に集まりがちなので、情報の整理と優先順位を素早くつけつつ、具体的な成果に向けたイメージを常に持って前向きに思考すること、そして、一度に全てを成功させようとするのでなく、小さな成功を毎日少しずつでも積み重ねようと意識することも大事にしています。また、能力や識見が高く尊敬できる同僚や上司に会ったら、完全にその人の真似をすることはできなくても、どうすればその高みに少しでも近づくことができるかを考え、努力するようにしています。
 
 ・キャリア形成とは
  キャリアには自分で自ら切り開いていく要素は当然強いわけですが、他方、常に自分の思うようにいくとは限りません。結局は、日々の小さな努力と成果の積み重ねが結果としてキャリアにつながっていくのではないでしょうか。また、様々な所で人の縁はつながり、そして発展していきます。そして、いま自分の置かれた状況でやるべきことをやり、かりに難局に直面しても、むしろそれを成長のチャンスであると積極的に捉え、どうせ同じ時間を使うのであれば楽しむつもりで、やってみてはいかがでしょうか。

・ 「日の丸」を背負う意識
 国際交渉や国際機関の理事会において、自分は「日の丸」を背負っているという意識をもって働いています。国際協調や国際連携は重要ですが、とは言っても、国際社会は主権国家同士の集まりですから、時として、自分一人が孤立してでも日本のために主張し、頑張らなければならないこともあります。国のために頑張るという意識と気概を持ってやらなければならない、と自分を常日頃から鼓舞しています。やりがいのある職場だと思いますので、皆さんもぜひ国際機関の仕事も将来の選択肢の一つとして考えてみてください。

▼ 質疑応答
質問 現状のIMFで日本人の職員数が少ない原因は何だと考えていますか。
回答 IMFのエコノミストを目指す場合、マクロ経済学を学ぶ必要があります。資本の大きな動きや国の収入支出などを対象にする学問です。エコノミストはその博士号(Ph.D)を有していることが期待されます。例えば、経済危機を起こしたような国の方々は、自分の国がどうなるのかという危機感から、マクロ経済を学ぶ動機があると思いますが、日本はそういう状況にはないので、必然的にマクロ経済に関心を持つ方々も少なくなっている事情もあるのかもしれません。

質問 IMFは新規採用の約半分も女性職員がいるそうですが、なぜ、そのようなことができたのでしょうか。
回答 IMFでも、少し前までは、必ずしも多くはありませんでしたが、目標を決めて意識的に取り組んだ結果、次第に志願する女性も増えて、今のような状況になりました。

質問 IMFで、日本の経済の調査を担当する担当チームは、どのような構成になっているのでしょうか。
回答 日本の経済の調査に当たって、中立性や公正性を保つ必要という要請があり、ほぼ日本以外からの出身で、多様なバックグランドを持った職員の方で構成されています。

▼ 他の質問(回答は省略)
・ 国際機関の職員として働くというのは国を代表する働き方が多いのか、ニュートラルな一般職員の立場が多いのか、どちらなのでしょう。
・ 国連で働きたいです。大学でどう学ぶのが良いでしょうか。
・ 国際機関を3つ転職したきっかけは何ですか。
・地道な事務作業と、人前に立つ華やかな仕事との比率はどれくらいですか。
・日本では当たり前だったことが留学してみたら違っていたという経験はありますか。

ご多忙の中、本セミナーの開催のために格別の配慮を賜りました、IMF水口純理事と、後輩の為に尽力を頂いた、IMFアジア太平洋地域事務所の長岡寛様には心より感謝申し上げます。全体のセミナーの終了後も、多くの生徒が直接質問をするために会場に残りました。多くの本校生徒がいつの日か、IMFのような国際機関の職員として、世界を舞台に活躍する姿を楽しみにしたいと思います。