マスメディアセミナー2021

2月17日(水)、進路部のGLFCセミナーの一環として「マスメディアセミナー2021」を実施しました。例年このセミナーは12月の期末考査後に、東京の汐留にある共同通信社の本社を直接訪問させて頂いて実施をしていますが、本年はコロナ禍もあり訪問を断念、共同通信社から本校に講師の派遣をいただき、学校を会場にセミナーを開催いたしました。
一般社団法人・共同通信社は、国内及び世界各地でニュースの取材、編集を行い、全国の加盟・契約新聞社に情報を発信する日本を代表する総合国際通信社です。本年度開催予定の東京オリンピックでは国内公式通信社に選ばれています。当日はおふたりの講師を派遣いただきました。

 中村 博文さん:現総務局企画委員 本社内政部記者(デスク)として霞が関(官公庁)の取材を担当。その後、前橋支局長、名古屋支社次長などを歴任
 井上千日彩さん:現ダイバーシティ推進室 外信部、経済部などで勤務後、バンコク特派員として海外勤務

最初に中村博文さんより標記のテーマで講演をいただきました。

◇ マスコミ業界の現状と将来(要約)
・マスコミ業界(新聞・テレビ・ラジオ・広告代理店)は近年、大きく経営環境が変化している。例えば出版業界はインターネットの普及により17年間で売り上げが半減している。広告代理店も近年の売り上げの上位には、ネット媒体を利用するインターネット広告代理店が入っている。マスコミ業界と言っても職種の範囲は広い。記者、編集者、プロジューサー、ディレクターやアナウンサー、他にも営業や企画、技術など様々な職種がある。職種も含めて、何を目指してマスコミ業界に入るのかをしっかりと考えよう。
・インターネットやスマートホンの普及により、メディア各社は情報媒体の電子化を加速している。新聞業界の紙媒体での発行はこの20年で5300万部から3500万部へと大きく減少している。誌面における広告収入も大きく減少し、インターネット広告だけは伸びている。新聞・通信社の従業員はこの20年で32%減少。取材記者も15%減少したが、女性記者の比率は逆に22.2%と倍増している。共同通信社でも女性記者の採用数は男性よりも多くなった。これからのマスコミ業界は情報媒体の多様化がますます進むことが予想されている。
・インターネットのポータルサイトの情報は通信社や新聞社からの記事購入で発信されている。いわゆるオンライン新聞というものは、結果として成り立たなかった。日本の新聞社も電子新聞の発行に取り組んでいるが、まだまだ紙媒体のニーズはある。取材して記事を書くという記者の仕事そのものは変わらない。
・ジャーナリストの仕事は、正確なニュースを確実に伝えることにある。それは民主主義を守る役割を果たす社会インフラでもある。速報性と並行して、人の気持ちに寄り添うような記事を書くこともできる。相手の気持ちを考えて一本の記事を書く、それが社会を変えるきっかけとなる。それが記者としてのやりがいである。

続いて井上千日彩さんより標記のテーマで講演をいただきました。

◇ 女性記者としての経験とダイバーシティへの取り組み (要約)
・記者の仕事とは、「人に会い、世の中の変化を見つめ、背景を考え、社会や世界の動きを記事という形で読者に伝える事」。そのためにどんなニュースの現場にも駆けつける。
・記者を志した理由は、朝鮮半島に興味があった(大学で朝鮮語を専攻、韓国に1年間留学した)事、人と会うのが好きな事、多様なテーマを取材できて勉強になる事、外に出られる仕事である事、海外で働くチャンスがある事、記事を書くことで社会貢献できる事。どんな仕事についても、一日8時間は拘束される。それなら少し忙しくてもやりがいのある仕事をした
いと考えた。
・2017年から昨年までバンコク支局に特派員として勤務。タイ語は出来なかったが、現地スタッフに英訳してもらい記事 を作成した。タイ以外にミャンマー、ラオスを担当。出張先はアジア全域に及び、13か国を訪問した。政治、経済、社会、文化など、どんなテーマでも取材した。タイ北部の洞窟に閉じ込められた少年サッカーチームの取材ではその洞窟の前で2週間詰めた。他にもミャンマーのロヒンギャ難民、アウンサンスー・チー政権、インドネシアの津波、スリランカのテロ、軍政から民政に移行した時のタイの総選挙などを取材した。
・タイの赴任には2歳の子供と新聞記者の夫が帯同してくれた。現在は復職しているが、夫は所属する会社の「育児退職制度」を利用して専業主夫としてバックアップをしてくれた。海外赴任をしたのは、今後の自身のキャリアを考えて、いろいろな経験を積みたかったから。こうした経験が現在のダイバーシティ推進室の仕事にも繋がっている。
・記者の仕事は自分が興味を持ったことを取材でき記事にできる面白い仕事、大変だがやりがいも大きい。

お二人の講演に続いて、参加した生徒たちからの質問にお答え頂きました。

◇ 参加した生徒からの質疑応答
お二人の講演に続いて、参加した生徒たちからの質問にお答え頂きました。質問の内容は多岐に及び、「印象に残った取材について」、「社内の勤務先の配置について」、「新聞の紙ベースの発行数の減少をどう考えるか」、「記事の正確な編集や公平性をいかに保証するのか」、「大学は文系、理系どちらがよいのか」といった内容が投げかけられました。講師のお二人から、それぞれの視点で丁寧な回答をいただきました。

こうしてあっという間に予定の2時間が過ぎてしまいました。質問も中々途切れず、断腸の思いではありましたが、下校時間となりマスメディアセミナーは終了となりました。参加した生徒たちはとても充実した時間を過ごすことができました。
今回のセミナーの開催にあたり、ご尽力を賜りました中村さん、井上さんをはじめ、共同通信社の皆様には心より御礼を申し上げます。次年度以降、コロナ禍が終息し「見学セミナー」が再び開催できますことを祈念いたします。