令和4年度進路講演会

いっしょに日本をつくりませんか~日本と海外の“地域”を歩く官僚からのメッセージ~

11月11日(金)、総務省の官僚として、地方の活力の向上に取り組まれている、南里明日香さんをお招きして、表記のテーマで、進路講演会を開催いたしました。南里さんは本校の17期生。中高の6年間は「ラクロス部」に所属、明るくアグレッシブな性格で周囲の信頼も高く、充実した学校生活を過ごされました。本校卒業後は東京大学経済学部に進学、官僚として総務省に入省され、徳島県庁や滋賀県庁、さらには外務省への出向なども経験されて、現在の富山県・地方創生局長に就任されました。こうした南里さんの経験をベースに「日本をつくる」というテーマでの講演を実施いただきました。当日は、中学3年から高校2年の全生徒、希望の保護者、教職員を合わせ1000名以上が聴講いたしました。
以下、講演の様子を紹介いたします。

◆ 総務省とは
私が総務省を選んだのは、日本をもっとよく変えていくには地方、地域を変えることが必要と考えたからです。個性のある地域に彩られた、絵の具箱のような魅力ある日本をつくりたい、生き方の選択肢がたくさんある多様な価値観を認め合える豊かな社会をつくっていきたいと考えています。
総務省は現場主義で若いうちから現場(地方自治体)に派遣されます。官僚は若いうちから地方自治体の管理職を経験させられ、マネジメント能力を鍛えられます。そして、地方自治制度とは「国の統治機構のあり方」そのものであり、総務省はそうした省庁や自治体の仕事を行う上の基盤となる「制度」をつくる官庁です。

◆ 総務省から地方の制度を創る ~未来投資のための地方債制度の提案~
私はかつて地方自治体が債券(地方債)を発行して資金を調達することを支援する仕事を行っていました。実際の国と地方による資金の調達と配分には問題があります。それは集権的分散システムと呼ばれ、地方が実際に行っている行政サービスは多岐にわたっており、年金と国防を除いた、教育や社会保障、社会資本整備などの本来の国の業務も、現実は地方公共団体が担っています。ところが徴税の部分では国と地方の割合は約3:2であるのに対し、歳出部分は約2:3と逆転しています。その差額を補うものが補助金や国庫支出金ですが、それでも地方の財政計画で不足する分は、地方債を発行して調達します。ところが国債に比べて、この地方債の発行の条件には地方財政法で厳しいルールが課せられています。地方財政の破綻防止の観点からですが、財産として残せるインフラ整備にしか発行することはできません。
 ところが、コロナ禍が発生して困ったことになりました。外出が大きく制限されたことで、消費税の税収が大きく減少してしまいました。そのため1年間だけ特別に減収補填のための地方債の発行を認めました。他にも、災害の激甚化・頻発化の対応として、河川の氾濫防止のために堆積土砂の撤去等(浚渫)のための地方債の発行も認めました。こうした今の時代に必要なことは何かを考えて、制度を変えていく仕事は、役人冥利に尽きるものです。
 また地方債は公的資金以外に、民間等資金として、主に地元の銀行に購入してもらうことが一般的ですが、時には購入をしてくれない場合もあります。このような場合は、日本全国や外国人投資家(アジア系銀行など)に購入してもらう方法があります。私も昨年、県知事とも相談をして、地方債(富山県債)を日本全国に公募して買ってもらう取り組みを、富山県として初めて行いました。いずれにしても商品として魅力ある地方債であることが肝要です。

◆ 地方から日本を創る ~北陸の十字路富山県からの提案~
ところで富山県には人口減少という大きな問題があります。バブル期はそれでも人口増がありましたが、リーマンショック以降、人口は減少を続けています。特に若い人、大学生が戻ってきません。でも、よい話もあります。コロナ禍の影響もあり移住者が近年増えています。移住のためのセミナーもオン・ラインで行う様にしたら参加者が増えてきました。また富山県は女性の就業率が高く全国3位です。それから中山間地域(自然豊かな県境地域)の人口の減少比率が高いのですが、移住者は逆にこの地域で増えています。移住者は地方都市という視点ではなく「気合の入った自然」をより求めているということが分かります。日本全国でも山村や離島への移住希望者が増えています。
そして、次は観光政策。とくにインバウンドの再開をうけて、外国からの観光客の誘致を考えています。かつては台湾から多くの観光客がありましたがコロナ禍で激減しました。台湾・中国からの観光客の復活は見込みが立ちません。そこで新たに取り組んだのがヨーロッパの富裕層の誘致です。今月の初めから5日間、ロンドンに行ってきました。現地では、金沢は有名なのですが、近くなのに富山は誰も知りません。現地でのキャンペーンでは、富山の誇る自然景観、「雪の大谷」、「立山連峰」、「世界遺産・五箇山」などを紹介、仏具の職人さんも帯同して実演を披露してきました。
いま富山県では「幸せ人口1000万人」というキャンペーンを行っています。富山県の人口は103万人です。その富山県の出入りの活性化、つまり富山県と関わる人1000万人を幸せにする(well-being)キャンペーンを展開しています。
しかし、そうは言いながらも富山県の財政は厳しい状況にあります。6,000億円の予算の半分は人件費などの必要な義務的経費、その他も法令で定められた事業の必要経費ですし、自由にやりくりできる費用は200億円程度しかないのが現状です。

◆ ワークショップ ~総務官僚 登竜門 X県の財政課長として自治体を経営しよう~
 最後に皆さんにX県の財政課長として、以下の予算請求に対して来年度の予算の査定を行ってもらいます。

※ 下記の予算案の項目を解説する資料が提示され、下表の査定案の作成を生徒全員で行いました。

ワークショップの生徒たち
        
※ 10分間程度で査定が行われ、南里さんから5名の生徒が指名され、それぞれの査定額と、査定案の考え方が説明されました。個々の説明は省略いたしますが、特に新規事業への対応には個々の考え方が異なり、個々の発想の違いが示され興味深い結果でありました。

こうして予定された90分があっという間に過ぎていきました。講演会は南里さんの熱い語りと、ワークショップを含めたテンポのよい展開に、生徒たちはぐいぐいと引き込まれていきました。

この後、田村校長からの御礼の言葉に続いて、生徒の代表から花束が贈呈され、盛大な拍手に送られて南里さんは舞台をあとにされました。そして、そのまま東京駅に向かわれ、富山に戻られました。多忙の中、後輩たちの為に来校して、素晴らしい講演をいただいた南里明日香さんには心より感謝を申し上げます。