第7回東京大学研究セミナー「東大で何を学ぶ!」

1月27日(土)、GLFCセミナーの一環として、第7回東京大学研究セミナーを開催しました。今回は東京大学工学部教授の高木周先生に基調講演をお願いし、本校26期生の今村桃子(ビジネスデザイナー)さん、21期生松本信圭さん(東京大学薬学部助教)の3名を講師お招きして「東大で何を学ぶ!」というテーマで、東大で何を学び、卒業後にどのような考え方や経験をへて現在に至られたかを、それぞれの経験をベースに講演をいただきました。当日は生徒、保護者合わせて約550名(事前の登録数)が田村記念講堂に参集しました。以下、セミナーの講演とパネルディスカッションの内容を報告いたします。本セミナーは田村聡明校長も会場で聴講されました。以下セミナーの内容を紹介いたします。

■ 基調講演「流体力学(万物は流転する~海底資源揚鉱技術から脳内の水の流れまで~)」
  東京大学大学院工学系研究科教授 高木周先生

第1部では、東京大学から高木周先生をお招きして、基調講演をしていただきました。以下、その講演内容をダイジェスト版で紹介します。
◇理学と工学の違い
理学は真理の探究、例えばこの宇宙はどのようにして始まったのか。宇宙で一番小さな粒子は何かなどです。理学の研究は教科書を書き換えることにつながります。一方で工学は、理学とリンクする部分もありますが、理数系の知識を使って社会をよりよく変えることを目指す役割を担っているといえます。例えば,私の所属する機械工学は,英語ではMechanical Engineeringと呼ばれますが、油まみれの機械(Machine)に囲まれているイメージが先行しますが、元々は 「Mechanical=力学的な」 つまり「力学」に基づいた知識を活かし、社会に還元していくことを目指す学問です。東京大学の工学部は16の学科から成っていて、研究対象は多岐に及びます。

◇工学部の講義
東大の約3000にいる学生のうち約1000人が工学部に進学します。人数も多く、学科もたくさんあるので、教わる内容もまちまちですが、高校で習う“数学”,“物理”,“化学”を基にしてそれぞれの分野の専門科目を学びます。一例として、私が所属する機械工学科では、機械系4力学と呼ばれる“機械工学”,“材料工学”,“熱力学”,“流体力学”を基礎科目としていて、私は“流体力学”を専門としています。

◇模擬講義“流体力学”
<“流体力学”とは>
流体力学とは、水や空気の流れなど、私たちの身の回りにある流れについて統一的に説明しようとする学問です。飛行機はなぜ飛ぶのか。津波はどのようにして発生するのか。血液はどのように流れているのかなど、“流体力学”は理学にも工学にも深く関わっています。
<ナビエ・ストークス方程式>
水や空気の流れを表す方程式で、身の回りの様々な流れを記述できる方程式ですが,数学的にはほとんどの場合に解くことができません.ところが、スーパーコンピュータなどを用いて解くことができ、その解は実験結果と驚くべき程良く一致します。
<流体力学に関連する工学>
自動車・航空機・船舶に関連する流れ、建物の周りや部屋の空気の流れ、風車やジェトエンジン、水力発電、燃料電池、コンピュータや原子炉の冷却、石油や天然ガスのパイプライン、トイレや洗面所の配管、津波の予測、山火事の消火、台風の進路と被害予測、血液の流れ、肺での呼吸、人体内の食べ物の流れなど、私たちの周りにあるあらゆる流れは、流体工学の研究対象となり得ます。
<練習問題>
Q)水道の蛇口から流れ落ちる水に、鉛直につるしたスプーンの凸面をゆっくり近づけると、スプーンははじかれますか、それとも引き込まれますか。
A)(自宅での実験動画を見せながら)このようにスプーンは,水流に引き込まれます。それでは、この結果を利用して、飛行機が浮き上がるメカニズムを考えてみてください。関連づけられるでしょうか?

先ほどのスプーンと水流を90度回転させると、水の流れを空気の流れし,スプーンを飛行機の翼の上側と見なすことができます。スプーンが水流に引き込まれるように、翼が空気の流れに対して垂直に上向きの力(揚力)を受けるというイメージが湧いてくるかと思います。この上向きの力は,水(空気)がスプーン(翼)の表面に沿って流れ,図中の左下の方に流れが曲げられていることにより引き起こされます.

つづいて、風船にドライヤーで風を当てて風船を浮かせます。ドライヤーの風を斜めに当てても風船はその場に浮いたままになります.どうしてでしょうか。
実は、ドライヤーの風を風船の少し上に当てることで、ドライヤーの風が風船の表面に沿って曲がり,結果として風船の落下しようとする力と釣り合って浮いているのです。スプーンが水流に引き込まれたり、飛行機が浮き上がったりするからくりと同じイメージです。

<実験演習課題>
ヨットが風上に向かって斜めに進むことができるように、水流に逆らって進む物体の形状を設計するという実験課題です。

もちろん、水流から抵抗は受けますが、形状を工夫すると、流れに直交する方向に力(揚力)が生じ、その力を利用して水流に逆らう向きに推進することができます。大学の授業では、そのときのそれぞれの力の大きさも推定してもらっています。(講演の際には,実際の演習の様子を撮った動画を流し,学生が作った翼型模型に関して,下流に流されてしまった翼型模型(失敗例)と,うまく設計できて流れに逆らって前方へと移動していく翼型模型(成功例)の様子を見せました.)
さて実際の航空機や船舶、自動車などでは流れの抵抗を減らすことが省エネの観点からも重要となります。この際、流れに働く抵抗を減らすためには、乱流を制御することが重要になります。乱流というのは、その名の通り乱れた流れで、大小さまざまな渦が存在し、変動の大きな流れになります。水道の蛇口から水を出すとき、蛇口をわずかにひねったときに、静かで穏やかな流れが見られます。これが「層流」の状態です。これに対して、蛇口をさらにひねると、流量がある量を超えると、ばしゃばしゃと乱れた状態で蛇口から流れ出てくるかと思います。この乱れた状態は、管の中を流れている水が乱れた状態で流れているためで、この状態を「乱流」と呼びます。例えば、飛行機の翼の表面も乱流状態になっており、細かく複雑な渦構造がたくさん存在しています。船舶の船底にも同じような渦構造が存在しています。抵抗を減らすためにはこの渦構造を消してやることが重要になります。層流も乱流もナビエストークス方程式の解として存在しますが、数学的には乱流は非線形性が強く表れた状態(カオス状態と呼ばれる状態)になります。

◇研究紹介「東京大学・流体工学研究室」
(万物は流転する~海底資源揚鉱技術から脳内の水の流れまで~)
本日は、私たちの研究室で行っている様々な研究の中から、いくつかを紹介します。
<気泡を含む流れとその応用>
船底から気泡を吹き出して船舶の抵抗を低減する技術は、すでにそれを利用した船も作られていますが、そのからくりは複雑で詳細が分かっておりません。私たちの研究室では、基礎的な実験とコンピュータによる数値計算でその謎に迫ろうとしています。
<気泡流の多重スケール構造(部分と全体)>
気泡表面に表面活性剤がわずかに吸着すると、個々の気泡の運動が大きく変化し、さらに気泡間の相互作用が変化して、結果として乱流全体の構造を大きく変化させることができます。


これらの検証から、船底から出した気泡がクラスターを作ると、船底を通過する水の流れから渦構造が減り、乱流が層流化することで船舶の抵抗を低減しているというシナリオが見えてくることになります。
<海底資源揚鉱技術>
2011年、南鳥島近郊の水深6000mの海底に高濃度のレアアース泥の存在が確認されました。このレアアースを深海から持ち上げる技術の開発を国家プロジェクトとして進めています。
水深6000mまでパイプを入れて海底の泥を持ち上げる実験を1回すると20億~30億円ほどかかると試算されています。大変大きな費用がかかるため、失敗するわけにいきません。
そこで、できるだけ安価に実験できる場所をと、旧鉱山なども見て回ったのですが、数百m程度の実験が行える施設でもなかなか見つかりませんでした。ですが、ついに、筑波の産業技術総合研究所にある地下200mの立型水槽を使わせてもらえることになりました。
さて、実際に深海底から泥水を引き揚げることを考えると、普通のポンプでは、ポンプを海底に沈めなければいけないため、壊れた際に引き揚げなければならず、時間もコストもかかります。

そこで、私たちが研究しているのがエアリフト式で、泥を持ち揚げる管と気泡を注入する管を海底に沈めるだけで、操作する機器は船上にあるのでメインテナンスや修理が楽にできるメリットがあります。一方で、エアリフト式ポンプの問題点は、普通のポンプより多くのエネルギーを必要とする点に加えて、気泡が上昇するにつれ水深が浅くなると水圧が下がり、それに伴い気泡が膨張して気泡同士が合体することで管の中心部を空気のみが上昇し(環状流)、泥や海水を持ち上げることができなくなる点です。ところが、地下200mの水槽を用いた実験をして面白いことが分かってきました。懸念される環状流は安定して維持することはできず、結果として大きな気泡に分裂し、気泡と気泡の間に泥水が挟まれた状態で持ち上がってくるために、環状流にはならず、泥を持ち上げられるというデータが得られています。
<超音波を医療に活用する>
私たちの研究室では、「超音波とマイクロバブルを用いたドラッグデリバリーシステムの開発」や、「深層学習による新しい超音波診断技術の開発」など、超音波の医療応用に関連する研究も行っております。
一般的に、超音波による診断画像は、CTやMRIなどと比べて解像度が劣りますが、超音波による計測は圧倒的に安価であるというメリットがあります。解像度の悪さについてですが、水族館でイルカが泳ぐのを見ていると、流体力学的にはその泳ぐ速さに驚かされるとともに、イルカは超音波を使ってモノを見ており、すごい速さで障害物をよけているのに驚かされます。イルカは超音波を使って解像度よく瞬時に世界を見て反応していると思われます。私たちがその技術を持っていないだけです。ところが、AIの登場によって超音波の解像度を上げる可能性が見えてきました。日本の税収70兆円に対して医療費が40兆円を超えている現状を考えると、医療機器に関して将来の医療破綻を避けるためのキーテクノロジーは、超音波だと私は強く思っています。
次に、私たちの研究室で取り組んでいる未解決問題について紹介します。
<未解決問題1>超音波ニューロモジュレーションに関する研究
こちらは、国立精神・神経医療研究センターの関先生らとの共同研究になります。大変興味深い実験結果が得られているのですが、からくりがわからず、うまく進んでいない研究の紹介となります。麻酔をかけて眠っているラットの頭蓋骨越しにそれほど強くない超音波を当てると、瞬間的に足が動きます。超音波(圧力の振動)という力学的な刺激を脳神経系に与えて反応させるという技術を確立すれば、リハビリその他に応用できることが期待できます。ところが、この後に論文が出て、こちらの論文は、ラットより小さいマウスに関する実験データとなりますが、超音波が刺激を与えているのは運動野ではなく、聴覚野だという結論でした。つまり、眠っているマウスの耳元で大きな音(超音波も波長が短い音)をたてると、びくっとなって反応しているという主張です。

私たちは動物の大きさが異なることもあり、その結論に納得ができず、脳のサイズが大きなマカクサルで同じ実験を行いました。しかし、麻酔で寝ているサルの頭部に超音波を当てましたが、残念ながら足は動きませんでした。それでも納得できておらず、悔しい思いもあり、基板上に培養した神経細胞群に超音波を当てる実験をしてみることにしました。すると、超音波で刺激を加えた瞬間に、培養した神経細胞内でカルシウムイオンの放出が見られました。このことから確かに、超音波という力学的な刺激によって脳神経系の細胞が反応していることが分かったので、現在、そこを調べている最中です。
<未解決問題2>グリンパティックシステム
脳にはリンパ管がありませんが、脳内にはリンパの流れがあると言われています。これに関して、2012年に発表されたグリンパティックシステムと呼ばれる新しい概念がありますが、そのからくりがあまりよく分かっていません。脳の血管の周りには血管周囲腔と呼ばれる水が通れるすき間があって、その周りには水分子を1分子だけ通すアクアポリンチャネルと呼ばれる通路があり、それが重要な役割を果たすと考えられています。水分子の一分子レベルの振る舞いと脳全体の水の流れの両方を見てやらないとからくりがわかりません。脳内の水の流れが減少すると、アミロイドβが沈着してアルツハイマー病につながるといわれており、脳内の水の流れを見ることはアルツハイマー病の予防や治療に役立つことが期待できます。

◇自己紹介とメッセージ
・大学時代はテニスに明け暮れ、熱中できるものを探して様々な勉強をする中で、“乱流”の卒論テーマで流体力学に出会い、空気や水の流れを記述する簡単には解けないたった1本の方程式に惹かれました。
・大学院修士課程では2ヶ月間デンマークで研修し、麦わらを使った発電に関する研究をする中で、当時すでに風力発電が広く使われていることに感銘を受け、豊かで多様な自然エネルギーに触れる素晴らしい機会となりました。
・修士課程修了後、アメリカのJohns Hopkins大学に1年間滞在し、様々な国から来た優秀な学生たちに刺激を受け、英語での講義と大量の宿題にしょっぱい思いをたくさんしながら、一生懸命努力したのが、とてもいい経験となり、今に活きています。
・学位を取った後、色々な研究をやってきましたが、2007年からはスパコン“京”のプロジェクトで東大から3年間の予定で理化学研究所に出向しました。出向中に政府の事業仕分けがあり「世界一でなくてはだめなのか?」と責められ大変な思いを経験しながら、様々な分野から集ったエキスパートたちと世界一のソフトウェア開発を目指し、必死にがんばりました。その“京”を使って血流シミュレーターなどのソフトを開発するなどの成果を上げました。
<大学で得られるものは何か>
・知識はもちろん必要ですが、それだけでは不十分です。世の中は答えのわからない問題ばかりです。そのような問題を解決する人材の育成を大学には求められていると思います。そのために大学で学ぶべきことは何でしょうか。多様なバックグラウンドを持つ人が専門知識を駆使して様々な観点から検討し、合理性の高い結論へと導くための論理的思考法と合意形成の方法、そしてそれを実践する方法を習得する場として、まさに民主主義の原点を体現する場として大学はとても重要な存在だと思います。そしてそのようなことができる素養を持つ人材が様々な分野から集まっているということが、東京大学で学ぶメリットだと思います。
<Diversity & Inclusion ( D&I ) について>
Chat GPTの回答「・・・・・ダイバーシティ(多様性)を認識し、それを受け入れ、活用することで、組織や社会全体がより包括的で成果の高い環境を作り出すことができるという考え方です。・・・・・」
と出てきますが、これ本当に実現できているでしょうか? 実際にやろうとすると、違う文化や価値観の人たちと一緒にやっていくことが必要で、日本人はそういうのが余り得意でなかったりします。東京大学では、大学院生向けのサマーキャンプのときなどに、世界中の著名な大学の大学院生たちといっしょに課題に取り組み、様々な意見をぶつけ合いながらも合意し、課題達成のために前に進んでいく能力を高めるというD&Iの重要性を実際に体験することができます。このように色々な国から多くの人が集まって意見交換をし、合意しつつひとつのものを作り上げていく、この経験をできることこそが大学が持つ一番の強みだと思います
<メッセージ>

流体力学と関連して私の大好きな絵です。「荒波にもまれてしょっぱい経験をして、大きく羽ばたこう!」
<推薦図書>
・『ゼロからの大学物理 1 ゼロからの力学 I・Ⅱ』(岩波書店)
著者 十河 清 , 和達 三樹, 出口 哲生
(中学生から理解できる大学で習う力学の考え方が書かれてます。)
・『部分と全体 私の生涯の偉大な出会いと対話』(みすず書房)
DER TEIL UND DAS GANZE (PHYSICS AND BEYOND)
著者 ヴェルナー・カルル・ハイゼンベルク  訳者 山崎 和夫
(流体力学に関係ないが,量子力学の歴史を通して、新しい学問を作り上げるというのがどういうことか感じ取れる本。)
・『ラプラスの魔女』(角川文庫)
著者 東野 圭吾
(ナビエ・ストークス方程式と乱流について書かれているミステリー小説。)

■講 演 「300年かけて実現したい社会のためにー研究・官僚・外資企業ではないビジネスデザイナーという選択肢」
今村 桃子さん (Business Designer 工学部都市工学科/大学院工学系研究科都市工学専攻修了 26期生)

◇ビジネスデザイナーの仕事
まず、ビジネスデザイナーという職業について説明します。デザインという言葉は、プロダクト(椅子、iPhoneなどモノ)の形や色、素材を定めることだけでなく、より多くの物事を対象にするようになりました。デザイナーが絵を描くとき、プロダクトをデザインするときの創造的な思考をほかに転用できるようにしたのは、スタンフォード大学が開発したDesign Thinking(デザイン思考)が有名です。日本企業がものづくりで栄華を誇った高度経済成長期は終わり、いまや失われた30年は40年になろうとしています。なぜ、日本は技術先進国から転落してしまったのでしょう。改善思考が得意な日本企業に、創造的思考を取り入れることの重要性は広く認められています。たとえば、日本バイオデザイン学会ではデザイン思考を医療の領域に持ち込み、医療機器のイノベーションリーダーを国内で育成しています。研究成果を実用化させる領域は、企業の事業開発・サービス開発と距離が近く、中には企業の中で研究職に就く方々もいます。

今の社会には、もっとこうなったらいいのにと思うことがたくさんあります。経営面で優れた組織である企業たちが、地球にとっても、会社にとっても、人間にとっても持続可能な仕組みを生み出すことを目指し、様々な領域の専門家、研究者の方々と共に日々ビジネスの機会を考えています。

◇大学とその後の活動
東京大学は工学部都市工学科都市環境工学コースを専攻し、そのまま大学院に進みました。都市環境工学は東南アジア各国の現地調査や相互の人材交流が盛んで、学生の半分が外国籍(ベトナム、タイ、ドイツなど)だったこともあり、講義はすべて英語でした。タイとインドネシアに半年ほど滞在し、現地の産業を担う工場や上下水道、廃棄物の焼却施設、埋め立て処分場など人々の生活を支える基盤となる施設や設備の訪問、都市部や都市周辺部、スラム地域に暮らす人々へのインタビュー調査を実施しました。都市環境工学では、豊かな自然の中に人間が造った都市において水や電気、大気などが人間にとって暮らしやすい状態なのか、そうでない場合はなにが要因なのか等を研究します。産業の影響を評価しますが、研究の立場からできるのは提言まで。そこで、フィールドワークの経験を経てビジネスの世界に移行することを決めました。

修士課程後、外資系のコンサルティングファームに就職。日本企業の事業変革に伴うシステム導入やAI、Robotの導入設計、新たな事業領域に展開するための技術リサーチに従事しました。その後、よりよいビジネスを生み出すための組織設計と個々人の内面を取り扱う技術の普及を目的に一般社団法人の設立や自身の起業を経験しています。ビジネスデザイナーとしての仕事は、情報法制研究所(JILIS)の研究員という肩書を持ちながら続けており、並々ならぬ知識量と好奇心の突出した研究者の方々の洞察を、いかに社会実装に取り込めるかに挑戦しています。近年の活動成果を少し紹介します。インターネットが抱えるデータプライバシー問題に関してビジネスフレームワークを開発した2022年には、カナダの研究者とオランダのベンチャーキャピタルの代表の方と共に、米国テキサス州で開催される世界最大のテックカンファレンス「SXSW」に登壇しました。東京大学未来ビジョン研究センターの前身組織の開催するシンポジウムで共同研究候補の企業を招待する事務局、筑波大学で開催された高校生対象のアントレプレナーシッププログラムの講師、BBT大学の講師を務めました。また、最新のテクノロジーが人々の暮らしをどのように変えるかを仲間と語る音声メディア「TOKEN TALK」をSpotifyで配信しています。

◇ 社会で起きていること
母校での講演ですから、中学時代を思い出して話すと、私はあの頃から資本格差が拡大する仕組みが気になっていました。資本家がさらにお金を増やすのは比較的簡単ですが、そうではない人々の持つ資本は簡単には増えません。個人の努力の域を超えて、富裕層・純富裕層の資本は近年も拡大し、マス層の資本割合は減っています。

私たちを取り巻く社会の状況を見てみましょう。近代工業は大量生産・大量廃棄を続けてきましたが、それらが永続的なありかたではないことから、企業は対応に迫られています。また、日本の労働生産性はOECD諸外国の中で低位に位置します。国内では深刻な労働力不足がすでに予測されており、生産性を高めるための技術導入や職場環境改善が急務です。暮らしに目を向けると、孤立した生活環境が子育てのしづらさや老老介護、ヤングケアラーといった負担として現れ、困難なことに立ち向かうにも足元がしっかりしないことから、一生のうち5人に1人が精神疾患になることも頷けてきます。

生活に欠かせないものとなったインターネットにも、改善の余地があります。エンジニアのあいだでインターネット空間は「暗い森」と化したと揶揄されるように、ユーザーにプライバシーがないことや情報の氾濫、偽情報や誤情報、悪意ある情報の取り扱いなどが現在進行形で議論されています。

◇ どのように社会を眺めるか

都市環境工学で学ぶ「DPSIRモデル」を、熊本県水俣市で起きた水俣病の発生メカニズムを用いて紹介します。Driving Forcesは、化学工場の稼働でした。工場が有害な化学物質を排水し(Pressures)、河川及び周辺湾の水質(State of the environment)を汚染しました。その水域に生息する魚介類の体内に有害物質が蓄積され、釣った魚を食べた周辺住民の全身の痙攣、難聴、視野狭窄といったImpact が現れます。そこで、これらの事象の Driving Forces を特定し、対応策を打つ(Responses)ことで「DPSI」の一連のシステムを弱める必要がありました。熊本県水俣市で起きた経緯を見ると、化学工場が操業してから胎児やネコにも様々な負の影響を与えていたもののDriving Forcesの特定に30年かかりました。現代は複雑系社会と呼ばれ、出来事の背景を紐解くのはそう簡単なことではありません。複数の事象の因果関係を捉えて、根本的な課題はなにかを見出すような思考をSystem Thinking(システム思考)と言います。地球温暖化のメカニズムを紐解いたことで注目され、企業を取り巻く概況の分析やビジネスの社会インパクト創出の仕組みづくりに応用されています。後輩のみなさんには、システム全体を眺めて根本課題を解決する力をつけてもらえたらと思います。

続いて、『Whole Earth Catalog』で有名なスチュワート・ブランド氏の1999年の著作『The Clock of the Long Now』に掲載した Pace Layering を紹介します。Pace Layering には、変化するペースが異なる6つの要素が提示されました。私の解釈を混ぜて話しますが、地球資源の生成や蓄積、生物の進化(Nature)はゆっくり進んでいます。一方で、企業による商業活動(Fashion/Commerce)はシーズンごとにトレンドが変わり、あるいは買わせるために新しいトレンドを作りだし、変化が目まぐるしい領域です。商業活動(Fashion/Commerce)はその下の要素(Culture, Governance, Infrastructure)の影響を受け、3ヶ月ごとの四半期目標を達成するために動いていたり、5年間の中期経営計画の予算枠で当初の計画通りに行動していたりします。これでは、地球資源や生物のゆっくりとした再生力を捉えることができません。分かりやすい目標を追い求めるだけでは、大切ななにかを見落とすことになります。自分たちの暮らしを支えるメカニズムが持続的であるために、長い時間軸で物事を見渡す視点を失わずにいていただけたらと願います。

◇ 後輩へのメッセージ
今、知識経済への転換が進んでいます。ものづくり中心の工業社会から、知識や情報をもとに新たなサービス、新たな体験を創り出す社会への変化です。知識経済で活躍してほしいという願いを込めて、私のキャリアを振り返りながら、みなさんにメッセージを残したいと思います。

私のキャリアの変遷は、サステイナブルな社会に向かうための探求とともにあります。4つの転換点がありました。
1. 東南アジアの都市で暮らす人々のローカルな生活を間近に体験したことから、サステイナビリティの限界に直面し、新たなビジネスモデルの創造が必要だとして外資系コンサルティングファームに入社しました。
2. そこでは、よりよいサービスを提供するためには、ビジネスモデルに連動した組織構造の設計が重要であること、働く人々は組織で歓迎される行動に特化していくことを知ります。そこで、人間の社会認知や自己成長、組織開発を探求するためにフリーランスとして実践を積み、技術を習得していきました。
3. 中でも、企業の経営層に対するコーチングサービスを通じて、社会貢献の意志があっても、その企業の既存の慣習や KPIで評価されないビジネスを新たに構築するのは至難の業でした。そこで、事業変革に直結する仕事に再び軸足を変えます。
4. 情報や知識を価値とする経済社会において、データは資産です。このデータの取り扱いが、社会に対する人々の能動性を損ねている要因であり、この問題を解決に向かわせるための技術と実証実験の進展を確認しました。ブロックチェーンや分散型IDなどのテクノロジーをインフラに導入したサービスの新たな可能性を広げ、実装することに機会を見出し、ビジネスデザインに携わり続けているのが今の現在地です。

私には目指している社会があります。考えを表明して挑戦し、失敗と成功を経験して再び次の考えを表現する。そんな個人の集積した社会であり、一人一人が、自身を幸せにする主体者である社会です。簡単なことに思えるかもしれませんが、この社会を実現するのに300年かかると予測しています。理想の社会に向かう兆しと潮流がすでにありますから、楽観的に、自分自身の人生も楽しみながら取り組んでいます。

繰り返しになりますが、みなさんが生きるのは知識経済社会です。知識とは、理論や客観的事実のことだけを指しません。それはAIにも任せられます。知識には、感性も含みます。あなたがなにかを感じたこと、それも事実です。生活していて嫌だなと思うこと、違和感を覚えたこと、こうなったらいいなと想像したこと、こうした感性こそが重要です。自分自身の考えを大切にしてください。

■ 講 演  東大にどっぷり浸かる
松本信圭さん(東京大学大学院薬学系研究科助教 21期生)

◇私の経歴と東大への興味
21期生の松本と申します。今回、皆さんにお話しできる機会をいただきとても楽しみにしておりました。今日のセミナーでは、私が東大を目指した背景、東大での楽しい思い出、少し悔やんでいること、そして、東大での学びから今の研究職につながっていることを、卒業生の立場からお話ししたいと思っています。
私は千葉市で生まれで、渋幕には2000年に入学しました。同期生にも同じように、大学の教員として活躍しているメンバーが何名かいます。私が東大に関心を持ったのは、高校1年生になって、数学についていけない自分に焦り、何とかしたいと思って、イトーヨーカドー幕張店のくまざわ書店で本を漁りました。そこで手に取ったのが「だれでも天才になれる・脳の仕組みと科学的勉強法」(池谷裕二著)という本でした。私はこの本に衝撃を受けました。その内容の一つが「6時間以上の睡眠が学習の鉄則」であるということ。私はいつも一夜漬けばかりでした。さらに「記憶は海馬で製造され大脳皮質に保管される」ということに、目くるめく感動を覚えました。この本を読んだ感動を誰かに伝えたくて、担任の先生に「池谷裕二先生に会ってみたい!」と話しましたら、「そしたら、ノブ、東大行っちゃう?!」と言われて「目指しちゃうますかね!」とその気になりました。その後、一浪を経て2007年に、東大に進学しました。東大入試で思ったことは「周囲の人からの応援への感謝」と「最後の1秒まで諦めない!」という気持ちが大事だということでした。

◇東大での生活
こうして東大での生活が始まりました。私は東大に本当に入りたかったので、入学してキャンパスを歩くだけで、ワクワクぞくぞくして「勉強を頑張ろう!」と思いました。しかし、すぐに周囲の友人の優秀さに怯みそうになりました。その時に思い出したのは、渋幕の中1時代に「友達に追いつけ追い越せ」で頑張った時の経験でした。そして、せっかく入学したのだから楽しもうと考え直しました。
駒場キャンパス(教養課程)での授業環境は、トルコ語やラテン語、憲法からゲーム理論まで多種多様な授業を受けることが出来ることができて、日々新たな事を知る面白さを感じていました。そして東大での学びの中で感じたことは、前期教養課程があることで、自分の可能性と選択肢を狭めることが無いこと、全国の猛者と友達になれて刺激を受けること、「選択と集中」を迫られることが少ない環境であること、などが挙げられます。その中でも特に理系科目は厳密な論理で一般化、抽象化されていて、数学などは用語もかっこよく、ついていくのは大変でしたが楽しかったです。そして最も感動したのは、薬学部の各分野の先生による「薬学研究の最前線」の授業でした。神経細胞の自発発火の動画を見て、動画にも原理にもとても感動しました。こうして脳のことをもっと知りたいと思って、入学前の意志のままに薬学部に進学をしました。
薬学部は授業やレポート、イベントが多い一方、学内で最少人数の学部(80人)で、仲が良いという特徴があります。友人が優秀でもっと勉強しておけばよかったと後悔することも何度もありました。そして、大学3年の終わりに、件の池谷裕二先生が准教授(当時)をつとめる薬品作用学教室に配属が決まりました。この研究室の標語は『薬を使って脳を究める』(分子から個体まで、ミクロの解像度でマクロに解析する)でした。

◇研究する生活
研究室で研究テーマを決めるときに「カルシウムイメージングで記憶に関わる神経活動を見てみたい」と希望しましたが、今年はその予定が無いと言われ、「電気生理学」をテーマとすることになりました。私は物理が苦手だったので鬼門の分野でした。研究室に入って最初に課された研究テーマは、パッチクランプ法(ひとつの神経細胞から、発火や閾値に達しない膜電位を記録する)という手法を用いて、マウスの脳に直接に電極を差し込んでニューロン(脳の神経細胞)の膜電位を記録し、解析するという内容でした。この研究で2016年に、膜電位振動が特殊な神経細胞を発見し、論文化しました。そして2017年に博士号と薬剤師の免許を取得し、研究の世界に残ると決めました。
その後、大阪市立大で博士研究員として研究をおこない、2018年から今に至るまで東大薬学部で研究を行い、現在は助教をしています。今は、行動中のネズミからの神経活動の記録を解析する研究を行っています。このような研究者の側面もありますが、もちろん大学の教員としての仕事も行っていますので少し紹介します。例えば、授業や実習の準備、学生の研究指導、学会発表・運営、論文執筆(英語)、入試など「文系」のような仕事も多くあります。

◇高校の学びから今にどうつながっているのか
これは私が考えた高校の授業の相関図です。あくまで私の考えであることを添えておきます。

どの教科が大事ということではなく、どれも繋がっていますのですべてが大事というのが私の結論になります。そして「好き」「得意」が多いに超したことはありません。さらに、これらが実際にどのように繋がってきたのかを、研究者の事例として説明します。例えば「理科」と「芸術」。

これはゴーギャンの「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」という有名な絵画です。この絵の左側には、間もなく死を迎えようとしている老人が描かれています。この絵画から、死と神経活動の関係を調べてみたいと考えました。2つめは「理科」と「体育」。これは実家で高校時代の資料を整理していたら、渋幕時代のスポーツテストの結果が出てきたことがきっかけです。その中で、私はで反復横跳びが、全然出来ていない事が分かりました。そこで、接地の繰り返しと神経活動は何か関係があるのかもしれないと考え、「繰り返し運動における接着時の神経活動」というテーマの着想に繋がりました。そして「理科」と「数学」では、マウスの海馬の脳波におけるフーリエ変換という解析手法(三角関数の応用)に繋がります。さらに「理科」と「国語」と「英語」。英語での論文作成には英語力は必要ですし、研究費の申請書の作成には国語力が必要になります。
そして、学校生活は勉強ばかりではありません。他者との適切な関係も中高生の青春には大事ですので「恋愛×脳神経」の研究もしたいと考えました。特別な異性と昼間にデートした後、夜も眠れない時に、その異性をどのように脳内で表現しているかを考えてみました。そこでプレーリーハタネズミという一夫一妻制で、父親も育児を行い、特定の異性とだけ交尾をするという特徴を持つネズミのオスの神経活動を研究してみました。そして同棲テストという行動実験をおこなって、「夜眠れない」ことの神経科学的な理由を考察しています。今皆さんは一番若くて、暇で、体力があり、柔軟です。勉強は、世界をより彩って見るための眼鏡です。そして青春を楽しんでください。時間は常に一方通行で「今」は二度と来ません。

◇皆さんへのメッセージ
私は選択に困った時、「When you were born, you cried and the world rejoiced. Live your life so that when you die,
the world cries and you rejoiced. 」というチェロキー族の言葉をいつも大事にしています。後悔のないような生き方をしたいといつも考えています。そして腹をくくったなら、とにかくガンガンめっちゃ没頭するようにしてください。ありがとうございました。

■ パネルディスカッション
講演に続いて、3名の講師をパネラーとして、パネルディスカッションを行いました。

パネラーの回答の要点だけを紹介いたします。
①東大に入学して良かったことは何ですか。また逆の経験があれば教えてください。
今 村
→ めちゃくちゃ面白い人に出会えたこと、卒業しても面白いネットワークが作れることがあります。それから東大のプログラムを使って世界中に行くことができました。損した事というか、東大生というと変にラベリングされてしまうことがありました。
松 本
→ やはり優秀な人が周囲に多かったことがあります。研究の面でも資金的には東大は恵まれています。文系の人や、面白い人、留学生も多く、多様な人に出会えることができました。ただ学会などで、知らないことがあると、東大に所属しているのになどと揶揄されることがありました。

高 木
→ 私は中高一貫校の出身で、東大の教養課程も工学部の学部時代も男子ばかりで極端に偏った世界だったと思います。アメリカの大学に留学した時に、国際的に活躍している女性の姿を見て、東大の女性が少ないのはどうかとは思いました。

②研究の合間のリフレッシュメント(気分転換)の方法を教えてください。
今 村
→ 企業の中にも商品や新規事業の開発をするような、大学の研究者に近い人がいます。それらを、しっかりと提供するためには、仕事と普段の消費者としての活動が一体となっている必要があると思っています。私もその領域にいる人間として、時間があれば、消費者の視点で、いろいろな体験するようにしています。
松 本
→ 研究が進まない時は、逆に早めに大学を離れ家に帰ります。ある神経科学の実験で、同じ漫画を2つのグループに同時に読んでもらうのですが、片方のグループは、割り箸を口に銜(くわ)えながら読み、もう片方は普通に読むと、割り箸を銜えたグループの方が面白く感じたという結果でした。つまり無理やりにでも笑った表情だと楽しい感情が湧くということです。この実験からも、私は体が脳を支配していると考えていますので、体を使えば脳はリフレッシュすると思います。後は友達と遊ぶ約束をして早く寝ます。
高 木
→ 子供のバスケットボールの練習相手になることはリフレッシュになっています。大学の仕事が忙しく、研究がむしろリフレッシュになっています。それから研究以外の勉強も好きで、渋幕の先生が、小学生向けの新聞で書かれている理科の記事などを楽しく読んでいます。

③グローバル化やAI、Chat GPT等の発展など、変化の激しいこれからの社会(VUCAの時代)で生き抜いていくために必要な力は何だと思いますか?
今 村
→ 流れ星を人工的に流すという面白い会社があります。人の生活を一瞬だけ彩るということを事業として行っている会社です。何かワクワクしませんか。日常の中で新しいものをつくるのは大変なことです。そこで必要な力は、「仲間をつくること」、「資金調達力」、「人を巻き込む力」、そして、そのための「胆力」と「提案力」を持つことだと考えます。社会に対する能動性やそれを楽しめるかも大事だと思います。
松 本
→ 私の同僚が、ルールが予測不可能な課題をネズミに解かせる実験をおこなっていました。一連の実験の結果から私が考えたのは、「試行錯誤」を何度も体験するほど、ネズミは適切な解をより早く見つけられるのではないかということです。予測不能な状況を打破するには試行錯誤する力が大事だと思います。
高 木
→ 先ほど取り上げた海外の大学(米 ジョンズ・ポプキンズ大学)のパブリックヘルスで学んでいる女性というのは日本人で、 国連やWHOなどの国際協力活動で活躍をされました。この人たちは、すごく強い意志を持っていますが、他者には寛容を尽くします。これがポイントで、今の世界の不安定な状況の中で大事なのは、違った文化を許容できて、強い意志を持つことだと思います。

④最近よく聞くようになってきた「アジャイル(agile 臨機応変の能力)」という考え方をどう思われますか。
今 村
→ アジャイルという概念と相対する概念に「ウォーターフォール」があります。それは初めから計画の全体を設計して工程ごとに進めるという手法です。これは実際に計画の途中で後戻りできずに、エンドユーザーの顧客ニーズに対応できないという状況が起こります。この理論は企業における組織構造でも使われます。経営層の考えだけでなく、実際に手足を使ってモノに触る感覚を大事にしないと、企業経営もうまくいきません。
松 本
→ この言葉を臨機応変という意味で捉えた時に、コンピュータと人間の脳を比較してみます。人間の脳は「まちがえる」とか「忘れる」ということがありますが、コンピュータは正しい答えだけです。でも脳は、ある人物に体調や顔色の変化が多少あっても、曖昧さを許してくれるおかげで、昨日、今日、明日の人物を同一人物と分かりますが、コンピュータは別々に認識します。脳には臨機応変に対応できる柔軟性が元々備わっていると思います。個人レベルで考えると、私が学生に申請書の内容をアドバイスする時、私の意見を聞きすぎる学生と聞かない学生の中間で、私の意見を適度に聞いて適度に聞き流すくらいの柔軟な学生が一番うまくいく気がします。
高 木
→ 結局のところ危機管理能力が大事であると思います。その状況に応じてベストの選択を選ぶ能力は大事だと思います。東大生を見ていて、ペーパーテストの評価が一番フェアだと思っているようですが、これは与えられたテーマに対応することでアジャイルとは違うと思います。今の時代はアジャイル的発想が大事だと思います。

⑤将来のために、今、中高生時代にやっておくとよいことは何でしょうか。そして、渋幕生に期待があれば是非伝えてくれますか。
今 村
→ まずは学校生活を楽しむことだと思います。私はチアリーディング部に所属して、全国優勝を目指して最後まで部活と勉強を両立させました。やると決めたことをやり通す強さやスローガン「短期集中」を掲げた目標達成の経験はその後も役に立ちました。打ち込めるものがまだない人は「100分de名著」を読んで、社会に対する見立てを深めるのをおすすめします。

松 本
→ 最近の渋幕の入試問題を見ましたが、とても難しく、勉強のことは心配ないと思います。敢えて言えば、できるところから始めて、得意になれば他にも波及すると思います。そして、自分の今の生活を考えるとコミュニケーションが大事だと思います。それと、私は今でも渋幕の友人たちとは楽しく付き合っていますが、友人とうまくやる力も大事です。そして挨拶。挨拶は出来た方がいいです。学校のSHRでの挨拶は基本的なことですが本当に大事です。
高 木
→ 東大にはいろいろな学校からの入学生がいますが、特に優秀なのは地方の進学校からの学生です。使命感というか学問に対する気持ちが違います。いわゆるトップ校の生徒は、学校内で比較してしまうのか、自分はこんなものだと値踏みしてしまうような気がします。これはすごくもったいない気がします。渋幕生は、どうか自分に拘って欲しいです。まずはスポーツでもなんでもやりがいをもって頑張ってもらいたいと思います。

パネルディスカッション終了後、工学部の大学院(工学系研究科)について質問がありましたので追記いたします。
Q. 工学部を卒業した学生は、その後、どうするのですか?
高 木
→ 8割以上の学生が大学院修士課程(2年)に進みます。修士課程を修了した後に、多くの学生は就職し、一部の学生は博士課程(3年程度)に進みます。中には、大学院(修士課程・博士課程)から海外の大学に行く学生もいます。就職先も実に様々な業種にわたっており、色々な選択肢があります。ちなみに、私たちの機械工学専攻(機械工学科の大学院)では、大学院の講義の半分以上が英語の講義になっています。私自身も、大学院では、応用数学(Applied Mathematcis)と数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)の講義を担当していますが、英語で行っており、大学院では日本人だけでなく、海外からの留学生も多く、まさしくDiversity & Inclusionを実感できます。)

◆ こうして4時間に及ぶセミナーになりましたが、講師の皆さんの情熱にあふれたお話しに、参加者
は引き込まれ、あっという間の時間でした。本校生徒のために素晴らしい講演を実施いただいた3名の皆様に心より感謝を申し上げます。さらに今後の益々のご活躍を祈念申し上げます。