GLFC東京大学ロボットセミナー「人とロボットの共生できる社会」

11月27日(月)、東京大学のベンチャー・ジェンチャン教授と内山瑛美子助教をお招きして、GLFCプログラムの一環として「東大ロボット工学セミナー」を開催しました。中3から高3までを対象にしたセミナーで、約90名の生徒が参加しました。 以下セミナーの様子を報告します。

◆ ロボティクス研究の世界探訪:サイエンスフィクションから現実へ
講師:ベンチャー・ジェンチャン先生(東京大学工学系機械工学専攻教授・産業技術総合研究所クロスアポイントフェロー)
2022年、フランスより国家功労勲章を授与。

ロボットという言葉は、チェコ語で強制労働を意味するロボッタに由来します。チャップリンの映画が風刺したように、産業革命以降は人間がまるで機械のように働いていました。現代になると、(SONYの)ペットロボットAIBOのような、モノつくりのためだけではない、「人に寄り添う」ロボットが登場しました。
私はロボットと共生する社会を実現するために研究しています。日常生活や学校、自宅、職場などで人間が相互に作用するロボットを作りたいと思っています。例えば、荷物を運ぶのを手伝うロボットが楽しい表情で一緒に働いてくれると、ユーザーは気楽に感じるようになるはずです。アニメーションの構築を研究するために使用される心理学PADモデルでは、数式のパラメータを変えることで、表現豊かな動きを作り出すことができます。
ロボティクスの研究対象は、ロボットだけでなく人間も含まれます。人間が凸凹の地面を歩くときの足首の変形を分析し、体への負担を軽減する仕組みを調べ、ロボットが人間のように滑らかに動くためにはどうすればよいか、計算シミュレーションを用いて分析します。 また、人間との非言語コミュニケーションを可能にする研究も行っています。例えば、複数の商品が並んでいる前で人がどれを選ぼうか迷っているとき、その人がどの商品に興味を持っているのかを、人の全身の動きや顔の表情からロボットが察知し、商品を選んで人に手渡しするロボットを開発しました。

SDG’sの理念に基づき、環境にやさしい「紙からできた」ロボットの開発も行っています。東京農業大学と協力して、ナノセルロースとセルロースを使用した2種類の新しいタイプの紙でロボットの製作を行っています。
つまりロボティクスは、機械工学や情報工学のみならず、心理学・材料工学・デザインなど、複数の異なる領域にまたがる学際的な分野なのです。
私は昔から研究者になりたいと思っていましたが、どの研究分野を選べばよいのか悩んでいました。カオス理論が面白いと思って流体学を勉強したくなったものの、入学した大学ではカオスを扱う研究室がないことが判明し、がっかりしたこともありました。でも大学の授業でロボットの機械学が一番面白かったので、ロボット研究に興味が湧き、いまに至ります。

◆人の心・脳の働き・世界の見方を知りたい!
講師:内山瑛美子先生(東京大学工学系研究科ベンチャー研究室助教)

実は私は、高校2年生で留年して中退し、高卒認定を取得してから東大に入学するという変わった経歴を持っています。留年の理由は、朝早く起きることが苦手だったからです。当時の高校の先生には、「遅刻して来たのだったらもっと急ぐそぶりを見せなさい」と叱られたこともありました。東大では工学部機械工学科に進学しました。博士課程のときに結婚し、新婚早々から愛知と東京の別居婚、さらに就職と出産が重なるなど、紆余曲折ありました。現在は家庭と研究の二兎を追って、自分の「好き」を追求しています。
高校生だった当時は、文化祭実行委員になったり、演劇をやったりして楽しんでいました。勉強は得意ではなく、英語や物理が好きだけど数学はいつも赤点、模試の学年順位はビリから2番目をとったこともあります。文章を書く事は好きでした。ある時ニュースで「脳波で動く車いす」を目にして、「かっこいい、やりたい!」と思いました。開発したのは理化学研究所の研究者の方だったので、理化学研究所を訪問しました。その時に会った研究者の方の紹介で、ロボット学会の研究専門委員会を見学させてもらうことになりました。先生たちとの議論や発表がとても面白く、「研究者ってこんなに自由なんだ」と感激しました。
志望校を東大にした理由は、「総合大学ならいろんな分野を学べるかも」と考えたからです。私は数学が苦手だけど、理系なら数学が得意な人がいっぱいいるし、助けてもらえるかもしれない。両親が医者だったので、医者の道も考えました。心理学のような文系の進路にも惹かれていました。人の心や脳の働き、世界の見方が知りたくて、文系と理系を迷った末に理系を選択しました。 大学では、ロボット開発を目的とした「人が世界をどう見ているのかを理解する」ための研究に取り組みました。博士論文は「人間情報学による高齢者の転倒予防」をテーマに執筆しました。人の奥行の感じ方が足運びにどう影響するか、また実際に転倒した人はどんな人なのか…お医者さんと共同研究して調べました。脳波の特徴を詳しく調べて、他のデータセットと合わせて心身の虚弱指標を見つける情報学的研究も行いました。  今は、AIの理論を使ってヒトの知能と運動を理解し、ロボットに役立てるための理論を、心理学者や医師、理学療法士、建築学者の方々と一緒に作っています。

◆ 質疑応答
セミナーの終了後も様々な質問がベンチャー先生や内山先生に投げかけられ、それぞれ丁寧に回答をいだきました。

◇ ベンチャー先生への生徒の質問 「なぜフランスではなく日本で研究しようと思ったのですか?」
A:ホンダの二足歩行ロボットASIMOを見て感激したのも理由のひとつですが、日本で研究者として働くことを決めたのは、日本では自分のやりたいように自由に研究できるというメリットがあったからです。フランスで研究すると、上司の指示を守って動かなければならない制約があるのです。また、日本以外の国でのロボット研究は軍事利用が主な目的ですが、日本は平和的利用のために研究できるという点も魅力的でした。

◇ 内山先生への生徒の質問 「苦手な数学に向き合うためにはどうしたらいいですか?」
A:私も数学が苦手でしたが、研究のために数式を読まなければならず、苦手でもずっと続けていると読めるようになりました。
やりたいことがあったら諦めず、時間をかけて続けることが大切です。

他にも、「これからの新しい研究テーマについて」・「研究をしていて心が折れそうになった時の対応」 といった質問がありました。

講師のお二方の明るく気さくな話しぶりに、生徒も教員も引き込まれてあっという間の2時間でした。ご多忙の中、講演いただいたベンチャー・ジェンチャン先生、内山瑛美子先生、並びに東京大学の関係者の方々に深く感謝申し上げます。