「自調自考」を考える 第344号

学校は今、春を迎え「卒業式」そして「修了式」を終え、新学期の準備が始まっている。
 三月、弥生。春分。太陽が真東から昇り、真西に沈む日。この日を中日に前後三日間を含めた七日間が春のお彼岸。
 日本では先祖の霊を供養する仏事が行われるが、同時に古来より固有信仰による農事始めの神祭りが多くなされる。子ども達が藁を集め丘の上で焚く北秋田地方の「万燈日」などが有名。

 毎年よ彼岸の入に寒いのは
正岡子規

 万葉時代にあかときと云い、平安以降、あかつきに変わった夜明前の春暁は、まさにこの春直前の時期を指す言葉として使われる。
 『枕草子』清少納言の有名な一節「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて」の曙は暁より少し時間的に遅れた、ほのぼのと明けようとするころのことである。
 暦には、大きく分けて、太陽暦、太陰暦、太陰太陽暦の三種類がある。太陽暦、グレゴリオ暦は約365.25日で太陽を一周する地球の動きを基にした暦。「新暦」と云われる。季節のずれが出にくい暦で現在国際基準となっている。しかし四季の変化豊かな日本列島に生きる私達は、旧暦=幕末に使われていた「天保暦」(太陰太陽暦のこと)。世界で最も精度が高く生活者にとって生活や労働がしやすいと云われる暦=の示す季節感、そのなかで育った豊かな感性を持つ日本文化をいよいよ大切に残したいものである。
 そして旧暦では、春は次候、山桜の春となる。

 春雨のしくしく降るに高円の
  山の桜はいかにあるらむ
    『万葉集』巻八
春雑歌河辺朝臣東人

 日本の暦が、世界基準である太陽暦に変わったのは、明治五年十一月九日「改暦令」による。「十二月三日をもって明治六年一月一日」となる。暦の改変による庶民の生活の影響は大変なものであったろう。よく云われる「グローバリズム」による大激変である。こうした経験はこれからいよいよ展開される地球規模のグローバリズムを乗り越える為のこととしても良い経験となるだろう。
 ところで、北京五輪のスノーボード男子で金メダルに輝いた平野歩夢選手のコメントに私は大変興味を持った。「人はいろんな負荷がかかればかかるほど身軽になれる。」東京五輪スケートボード男子の競技が昨年八月五日にあり、平野選手は、半年後の北京五輪の本番前に、あえて参加挑戦した。結果、代表の座をつかみ「夏冬二刀流」の夏の挑戦は十四位に終わる。
 そして半年後の今回、調整の遅れの心配を乗り越え見事、逆転の「金メダル」。仲間との交流の授賞式、自分の未来を計画し、実現を夢み、準備する青年にとって実に参考になる。自己に対する無限の信頼を基盤とする現代人の典型的人間像を描いたとされる名作に『ロビンソン・クルーソーの冒険』がある。無人島に漂着したクルーソーが生き抜く様を描写することで現在の人間が生きる上に必要な二つの至言を伝えてくれる作品という。一つは人間は社会によってしか生きられない動物であること、そしてもう一つは、いかなる知識をもってしても未来を完全に予想することは不可能であるということである。それ故、人は未来に対して、常に祈り、互いに助け合おうとする。平野選手の一連の言動には未来に対する透徹した計画が裏打ちされており、友や仲間との信頼が窺える夢みる青年達には勇気付けられる行動、コメントと思うが。
 自調自考生、どう考える。