1月7日(土)「自調自考」を考える 第297号

二千拾七年、平成二十九年、暦注の干支では丁酉の年となる。
 十干の丁は陰の火を表し植物が成長してきて安定した状態に達したことを意味する。十二支の酉は陰の金を表し、果実が成熟の極限に達した状態を表すとされている。
 紀元前十七世紀頃の中国に起因する哲理として陰陽五行説がある。これを年、月、日に当てたものの大きな柱となるものが干支である。古代中国の考えでは万物を「陰と陽」の二つの要素に分け、全てを「木火土金水」の五要素からなるとした。日本では陰陽を兄弟に当て十二ヶ月の月の順を十二支とし、もともと使われていた日数十日ごとを甲乙丙丁……とまとめて数える為の呼び名十干を組み合わせて十干十二支の干支を作り広く使われている。
 万物と云えば近代科学では「元素」が全ての構成要素と考えている。元素の名前はいろいろ由来があるが神の名、物質の色、地名、人名の外、国由来もある。フランシウム、アメリシウムそしてニホニウム。一昨年十二月に認定され、理化学研究所のチームが名付けた113番元素である。アジアでは初とのこと。
 十干十二支は暦注(歴史に記入される事項)とされるが、外にも天象、七曜、二十四節気などがある。酉は十二支の十番目。動物では鶏が充てられている。酉の字は酒の古字。酒つぼを描いた象形文字。鶏が家禽となったのは四千年昔インドからといわれる。『十二支物語』(諸橋轍次)によると、中国最古の詩篇といわれる『詩経』に名作「鶏鳴の詩」がある。そして中国では元旦を鶏の日として大変目出度く祝う。鶏は肉、臓腑だけでなく血は大夫の盟に、骨は大切な占いに用いられ更に羽根は鶏冠と云われるように飾りに有用で大変人間に近い動物である。
 尚、韓国のことを「鶏林八道」と云うがこれは新羅(古代朝鮮王朝の名稱)だけの異稱であったのが後に全体の名となった。鶏によって新羅王朝が形造られた故事による。八道とは江原道、慶尚道、平安道、黄海道、京畿道、忠清道、全羅道、威鏡道のこと。このような故事来暦を知ることは面白い。なかでも暦はあるかないかでその古代文明の優劣の判定がなされるというもの。長い歴史のある暦にも一層関心を持ちたいもの。
 今年は酉年。「金鶏暁を告げて」素晴らしい年となることを望む。
 水鳥の鴨羽の色の青馬を   今日見る人は限無しといふ 万葉集 右中弁大伴宿禰家持
 さて、旧年中は世界が大激動であった。英国のEU離脱Brexitからはじまって、米国トランプ氏の大統領当選、伊での新首相出現、そして今年は欧州で続いて仏大統領選挙、独の連邦議会選挙も予定されている。何が起こるかわからない。何が起きても不思議ではない。特にグローバリズムとナショナリズムの対立相克は先行きの見通しを大変困難にしている。若者達にとってはまことに厄介な世界が展開しようとしている。
 そこで、新年に当たって若者達に「知的生産の技術」という言葉を届けたい。中一の校長講話の第一回目に取り上げている。『知的生産の技術』(梅棹忠夫)は一九六〇年代、第二次大戦後の人間観、社会観をめぐるパラダイムの転換期に“知の組みかえ”の理論や方法論を示し、今日の情報化社会を準備した名著であることは誰もが認める。学者が学問の方法論ないし技術をトータルに開陳した我国では稀有なものである。その中で梅棹先生は湯川秀樹博士から「一種の技術ではないか」と云われ、題名を「勉強の技術」や「研究の技術」では少しもの足りないのでもっと創造的な知的活動の技術だというつもりで、「知的生産の技術」ということにしたと述べている。そしてこの知的生産の原動力は旺盛な知的好奇心や開かれた探究精神にほかならないこと、そして目先の知育や実利偏重ではない創造の為の知的生産を継続していくことを強く主張する。
 自調自考生諸君、君達は今はこの先人の言葉を参考に沈着冷静に将来に向けて「知的生産の技術」で自らを磨こうではないか。単なる知能だけではない本物の知性を身につける為にも。
 自調自考生、どう考える。