3月2日(月) 「自調自考」を考える 第325号

三月、弥生。歳時記によると、この時期は雨水とも呼ばれ、降る雪が雨へと変わり、氷が解け出すころ。農耕の準備がはじまる。
 雨水、草木萌え動くとある。緑あざやかな菜花は春の訪れを告げる。因みに菜花は千葉県の県花になっている。古来、私達日本人は自然の季節の変化を敏感に感じとり楽しむ文化を育ててきた。

 春の野にすみれつ摘みにとこ来しわれそ
  野をなつかしみひとよ一夜寝にける
山部宿禰赤人
万葉集巻八雑歌 一四二四

 春のすみれは季節の観賞、食用・薬用・摺料にもなっていたようである。渋谷教育学園幕張高等学校は三十五期生の卒業を祝う。「槐」同窓生壱萬数千人。意気軒昂の春。
 卒業式には「仰げば尊し」が付き物だが、私の経験でも、大学の卒業式より年齢を考えると、ナイーブな感性で歌えるのは高校が最後かと想える。古風だが教訓や感傷性を超えた何かがある良い歌。

 菊の根を分ち終りて素読かな
高浜虚子

 前回は「未来の一現在」を生きる若者達へと考えて、青少年にとっての国連の提唱した「持続可能な開発目標SDGs2030」の重要性を述べたが、今回は昨年夏、中間発表された「OECD教育目標2030」の概要について考えてみたい。報告ではOECDは新しい用語「エージェンシィ」Agencyを使って「教育目標」を解説している。
 この言葉は、辞書(ランダムハウス英和大辞典)によると「サービス機関」とか「代理店」という意味で使われるが、一方で「行動」「作用」「働き」という意味を持つ用語としても使われる。
 用例として、 the agency of Providence(神の摂理)、by the agency of the human brain(人間の頭脳の働きで)がある。
 「教育目標」として使うエージェンシィは、当然後者の意味が考えられる。つまりは、「何事にも、自分のこととして、集中して考えられる働きを手に入れること」とでも云えようか。この姿勢こそが、教育のOECDの2030達成目標であると云っているのである。
 近年、重要視され提唱されている「アクティブ・ラーニング」はまさにこのことの実践例であると考えられる。
 確かに「未来の一現在」を生きている若者達にとり、未来を予測してその為の準備を用意しなければならない必要がある以上、エージェンシィの重要性は明らかであると云える。
 未来社会は、ビッグ・データとAI(人工知能)が活躍し、人々の生活はその影響のもとで展開される。そこでは、読み書きそろばんの現代版、数理、データサイエンス、AI教育の必須なこととその重要性は、強く意識されることである。
 例えば、AIの働きを正確に理解し活用するには、「線型代数」(行列式)と微分積分、そして新しく登場したデータサイエンス(統計学)の学問的理解が不可欠となる。
 しかしながら、AIが、人間が作り上げて来た学問的業績の上に制作されたものであることについての学問的理解を身につけることは必要であるが充分とは云えないということを云いたいのである。充分と云える為に必要な資質がOECDの報告書の云うエージェンシィであるということなのだ。
 このことはAIが最も苦手とするものがSense of Agency(当事者意識)であることからも理解出来よう。
 人の人たる所以は、人の「心」にあり、この「心」ヒューモアこそがイノベーション(創造性)の源泉である。そしてその力を育てる為の必要な態度が、「人権意識」つまり人格的自律権を中核とする基本的人権を尊重していく姿勢が、いよいよ重要となってくる
時代であるということなのだ。偉大な先人たちの遺した歴史を学ぶ重要性がいよいよ増す。自調自考は中核的また決定的に重要であるようだ。
 自調自考生どう考える。