大江健三郎氏を偲んで

先日亡くなられたノーベル文学賞受賞者の大江健三郎氏は平成12年と平成13年の2度にわたり本校を訪れ、ご講演と生徒の文章指導をいただきました。

平成12年11月25日、『2000年ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」』(読売新聞社主催)のプログラムのひとつ、教育フォーラム「君たちに伝えたい言葉」が本校で開催されました。
大江健三郎氏(1994年ノーベル文学賞受賞)とハロルド・クロート教授(1996年ノーベル化学賞受賞)が基調講演を行い、大江氏は「なぜ子供は学校にいかなければならないか」というご自身の文章への生徒の感想をもとに、どうすれば考えを魅力的に正確に伝えることができるか、についてお話しされました。文章を書き直す練習は自分の心、精神を鍛える、そして、大人と子供は続いているのだから「今」の自分のなかの「人間」を大切にしてほしい、と伝えられました。このフォーラムは、のちに「読売ブックレット 君たちに伝えたい言葉」としてまとめられ発行されました。

平成13年11月には2度目の来校が叶い、「読み、書き、生きる」と題する基調講演と、自著『「自分の木」の下で』への生徒の文章の添削会を催されます。
文章が正確で無駄がない、これは作文担当の先生方の能力の高さだ、とお褒めのお言葉をいただくとともに、句読点を正確に、改行をしっかりと、書き出しをよく考えて魅力的な文章に、などのご指導をいただきました。

当時、顔を寄せて赤ペンによる添削指導をいただいた生徒のひとりは、現在2度の直木賞候補となる作家になっています。また、田村校長(当時)が「渋幕に大江健三郎が来た」と自慢するのを何度も聞いて、将来校長が自慢するような人間になりたいと精進されたひとりの生徒は直木賞を受賞しました。

かつて、氏によって蒔かれた種が芽吹き、今素敵な花を咲かせ始めました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。