起業セミナーを実施しました

6月22日(火)日本政策金融公庫の佐藤俊太氏を講師に迎え、起業セミナー2021を開催しました。今回のセミナーには高校1年生の50名を中心になんと84名が参加しました。以下セミナーの内容を紹介いたします。

セミナーは、参加者に対する次のような質問から始まりました。「皆さんはなぜ勉強するのでしょうか?」。何人かの回答をまとめると「将来のため、いい学校に行き、いい会社に入り、いい収入を得ること」になります。そうした方が幸せになれると考えているからです。
日本は資本主義の国です。世界を見ても、資本主義経済が時代をリードしています。資本主義では、物の価値をお金で評価します。もちろん、お金がすべてではありません。しかし、「お金がすべてではない」という話を、何も考えずに受け入れてしまうと、そこから始まるのは「搾取」という現実です。
世界を変えることは難しいですが、世界の仕組みを理解し、その仕組みを応用することで、自らが望む結果を得やすくなります。今日皆さんに一番伝えたいことは「お金と向き合うこと」、つまりお金の話です。

◆ 学生時代の起業体験
私は高校生の時にアルバイトが禁止されていました。「アルバイトは禁止されているけれども、商売(ビジネス)することは禁止されていない!」と考えて、小さな起業をしたのが私のビジネスの始まりです。当時、スマホはなく、まだインターネットも普及しきれていない頃でした。この起業は、今でいうところの売りたいと買いたいを繋げるマッチングビジネスを基盤としたプラットフォームビジネスの走りのようなもので、開始当初は学生を相手にした本当に小さなものでしたが、のちには複数地域の商店街等を巻き込み、大型店舗の相次ぐ出店によりシャッター通りとなりつつあった商店街の活性化に繋がる取組みになりました。大学ではいくつかの学生起業のプランにメンバーとして参加したほか、留学生による出身国のPR活動を収益モデル化することで活動規模を大きくすることなどに取り組んでいました。
これらの活動経験により、ビジネスが持つ現状を変える力、お金を稼ぐことで規模が拡大できることや収益が続く限り継続した課題解決に取り組めることに関心を得ていました。

◆ なぜ「勉強はできるのに会社では役に立たない」といわれる人が出てしまうか
私が「公庫の人で珍しい経歴」と言われるものに、民間印刷会社での勤務経験があります。社長室という部署で全社的な企画・管理を担当していた時、ある日社長から「営業部門の受注力を高めてほしい」と指示を受け、営業部や企画部門の担当役員等と頭を悩ませていたことがありました。私は社員教育に原因があると考え、営業担当社員と終日同行するなどして、一次情報を集め分析する中で、「できるビジネスマン」に共通する特徴があるのではないかと考えるようになりました。それは「Input」と「Output」に隠されている、あえて言うならば、「Think-out」ができているかというものでした。
勉強ができるというのは、いわゆるInputとOutputが早くできる人です。用意された回答をいち早く、正確に導き出せる人とも言い換えられます。しかし、ビジネスにおいて回答が用意されていることは極稀なことです。回答が用意されていないビジネスにおいて、答えを出すこと以上に大事になるのは、適切な仮説により適切な課題を見つけ出す力です。印刷会社にいた時は、この「適切な仮説により適切な課題を見つけ出す力」を「Think-out」と名付け、例えば訪問先について、自ら考え、自ら仮説を立て、答えを導き出すような訓練をさせるようにしました。昭和の高度経済成長期であれば、指示されたことをその通り実行する力は重宝されましたが、今は、自ら考え、自ら調べ、仮説を導き出し、検証する力が求められます。それはまさしく、渋谷幕張中高の校訓である「自調自考」の精神そのものです。

◆ ビジネスとは
「ビジネスとはなにか」という問いに様々な回答はありますが、公庫が実施している高校生ビジネスプラン・グランプリでは「理想と現実のギャップ(課題)を埋めることによって対価を得ること」と表現しています。対価を得ることによって、収益が続く限り、永続的に社会課題を解決できることが、ビジネスの一番の魅力です。ビジネスアイディアとは、「何が世の中に求められているか」という適切な仮説と課題設定から始まります。
ここでいくつかのビジネスの考え方をご紹介しましょう。最初にご紹介するのは「Market in」と「Product out」という考え方です。平たく言うと、「Market in」とは「顧客が求めている商品を調べ、提供すること」であり、「Product out」とは「作りたいものを作って売る」という和製英語のマーケティング用語です。買いたいという人がなければ、モノやサービスは売れません。どのようなニーズがあるか調査し、ニーズを満たすものを提供することも重要ですし、今はニーズを感じていなくても、新しい価値を提供することにより、潜在的なニーズを呼び起こすことも、市場を拡大する上で重要です。いずれにしても、適切な現状把握と課題設定が必要になります。
次に紹介するのは、「Fabless」と「Foundry」です。主に半導体業界で使われていた用語ですが、今では他の分野でも言われるようになりました。一般に「Fabless」とは「工場などの生産設備を持たない製造業」であり、「Foundry」とは「製造を専門的に請け負う製造業」を指します。現代では、企画立案する会社とそれを実際に実行する会社が分かれているケースが多くなってきました。生産設備を整えようとすると莫大な資金が必要になり、リスクは大きくなります。今はアイディアさえあれば、ビジネスを実現できる環境にあると考えることもできます。
この「Fabless」「Foundry」による成功例に、現在、世界最大のタクシー会社である「Uber」があります。「Uber」は自社で1台も車両を保有していません。他にもApple社の「iphone」も例として挙げられます。企画やシステム設計、デザインはアメリカのApple社で行いますが、実際の製造は中国などで行われています。日本でも「ラクスル」という企業は、印刷機を持たない印刷会社です。ラクスルは、日本に稼働してない印刷機がたくさんあることに気付き、印刷業界全体の生産性を向上させるため、ラクスルは営業に特化し、受注後は日本全国の稼働していない印刷会社に印刷を依頼するようなビジネスモデルを構築しています。ラクスルは「仕組みが変われば世界が変わる」を企業理念に掲げています。社会課題をビジネスアイディアで解決するため、今では印刷に限らず様々な分野に進出しています。

◆ ベンチャー企業を担当していて思うこと
公庫では企業に融資するか(お金を貸すか貸さないか)を判断します。ベンチャー企業の融資審査をする際の鉄則があります。それは「作れるか」・「売れるか」・「儲かるか」の3点を確認することです。
「お金を借りる」ということは、当たり前ですが「お金を返す」ことが必要になります。審査とは、簡単に言えば「貸したお金が返ってくるか」を判断することになります。特にベンチャー企業では、提供しようとするモノやサービスが本当に提供できるものなのか、確認する必要があります。提供しようとするものが実際に生産などできるのかを確認する段階が「作れるか」になります。また、作ったものが売れなければ、お金が入ってきません。どのようにして対価を得るか、対価を得るためにどのような方法をとるか、これを確認する段階が「売れるか」になります。たくさん売れたとしても、利益が出なければ手元にお金は残りません。利益が出なければ借入金の返済はおろか、事業継続すら危ういものとなってしまうでしょう。これを確認するのが「儲かるか」というものです。様々なベンチャー企業があり、商品やサービスにかける想いが強すぎて、売ることや儲かることを考えていない企業や、逆に儲けることに意識が行き過ぎて、絵にかいた餅のような商品やサービスになってしまっている場合や、時には実際の効果等とは異なる詐欺まがいの広告を出そうとする企業もあります。
適切な仮説や課題設定により、社会課題等を永続的に解決する手段としてビジネスの手法を取り入れることは素晴らしいことですが、この3つの基本を忘れてしまうと、到底ビジネスとは言えないものになってしまいます。

◆ 起業の考え方は、起業しなくても役に立つ
たとえ起業しなくても「ビジネスとして成り立つか」や「適切な仮説や課題設定」という考えができるかどうかは、会社に就職した時でも、医者、弁護士、国家公務員などの仕事に就いた時でも必要な能力になります。そもそも会社はビジネスをしている組織であり、ビジネスの考え方ができなければ使い物になりません。
アメリカでは本当に優秀な人は、大学卒業後の最初のキャリアに起業を選ぶのが当然になっています。起業まで行けない人がいわゆるGAFAMに就職し、GAFAMに行けない人がレガシーと呼ばれる、いわゆる古くからある大企業に就職する流れができています。起業に失敗したとしても、その経験や能力などを評価され、多数の企業が彼らを求めます。
日本政府が主催する成長戦略会議において、「自分は起業に必要なスキル・知識を有しているか」という質問に対し、「スキル等を有している」と回答した日本人はわずか14%しかいませんでした。インドでは85.2%の人が、先進国でも多くが50%以上であることに対し、極端に低い数字です。もちろん、日本の奥ゆかしい国民性もあるとは思いますが、起業に対する意識が低いことは、ビジネスの考え方が浸透しにくい素地を作り出しています。みなさんは客観的な視点から見れば、学力水準が高く、まさに「いい大学に行き、いい会社に入る」可能性の高い方です。起業しなくても、起業に必要な知識・スキルは持っておくべきです。
また、日本で起業するときには大学時代の交友関係や、大きな会社との人脈などが重要になるとも言われています。大学卒業後に起業を選ばず、いわゆる大企業に就職したのちに独立し、成功する起業家もいます。まずは良い大学に行き、良い企業に就職するという旧来の考えも、現実的には有効です。私も大学時代は色々なことにチャレンジし、とても楽しかったので、皆さんも受験勉強はぜひ頑張ってください。

◆ 最後に
「お金があれば好きなものを買える」「お金があれば何でもできる」など、そう思う人は多いでしょう。極端な例を除けば、概ねその認識は正しいと言わざるを得ないのが現実です。しかしながらそれは「個人の望みを満たすため」だけではなく、「社会の望みを満たすため」でも当てはまります。何をするにもお金が必要な社会です。寄付や国から予算を得て実行するだけでは、資金供給が止まり次第、課題を解決し続けることができなくなります。しかしビジネスであれば、対価を得ることにより、利益が続く限り永続的に課題を解決し続けることができます。
いきなり起業するのはハードルが高いですし、リスクがあります。まずはビジネスプランを立ててみましょう。公庫では高校生ビジネスプラン・グランプリを主催しています。提出いただいたビジネスプランには、一つ一つコメントを書いて返しています。ある程度、量に比例してプランは良くなっていきます。今のうちから「自調自考」の精神を発揮し、ビジネスプランの作成にチャレンジしてみましょう!

※質疑応答と個別相談
この後、全体での質疑応答が行われ、様々な視点で多岐にわたる質問が投げかけられ、一つ一つに丁寧に回答を頂きました。セミナーの内容への質疑や、将来の起業に向けての心構え、さらには、起業のために必要な書類を問いかけた生徒もおりました。さらに全体でのセミナーの終了後も、個別の質問を求める生徒の列が長く続きました。佐藤さんのおかげでとても充実した時間を参加生徒は過ごすことができました。深謝申し上げます。