第4回東京大学研究セミナー

 本年度も東京大学より熊田亜紀子先生(大学院工学系研究科教授)と社会人の卒業生3名をお招きして、東京大学研究セミナーを開催しました。本年はコロナ禍での開催となり、参加数も約200名と例年よりは少ない人数での開催となりました。セミナーは第一部として熊田先生による基調講演、第二部として卒業生によるレクチャー、第三部では熊田先生と卒業生によるパネルディスカッションを実施しました。

◇ 第一部・基調講演
 第一部では熊田先生から、ご専門の電気工学の分野から「高電界現象を極め世界を変える」というテーマで講演をいただきました。

 前半では、中高生向けに東京大学の工学部の学びの紹介や、実際の東大生の大学での学びの様子の紹介をいただきました。
・ 工学とは「人類の福祉、安心、安全のために、新しいモノをつくる学問体系」であるという前提から「社会のニーズを明確にとらえ未知なる分野に挑み社会を変える駆動力」であることを意識して、ただ研究するだけではなく社会や経済の仕組みなど広い学問分野の学びの必要性がある。
・ 近年の東大の学びの特徴として、最先端の知識を社会ですぐにでも役立てたいとの願いから「ベンチャーマインドの養成」や他の学問分野も包括した「分野総合型教育プラグラム」といった講座が学部のカリキュラムとして用意されている。
・ 東大生の生活の様子や、工学部は大学院にほぼ9割が進むのが実態、大学4年からは研究室に入り、大学院では企業との共同研究や国際会議での発表も行っている。

 後半は、先生の専門分野である高電圧研究についての講演が行われました。
・ 先生の研究テーマの「再生可能エネルギー(風力や太陽光など)の主力電源化」は、電力の大変革期における新たな電力システムの開発を目指すもので、具体的には、「新たな電源により発電された直流電源を、いかにして既存システム(交流電源)と併用できるか」、にあり世界でもアフリカや中国などで大規模なプロジェクトが進められている。
・ この研究のキーワードは「直流電流の遮断技術」。それは(遮断時に発生する)アーク放電を断ち切る技術の開発がポイントになる。
その為に、アーク測定のためのレーザー測定法の技術開発が、先生の研究室で行われている。
・ 先生の研究室の学生により作成された映像によるそれらの研究の様子の紹介。
・ 他にも、「放電の抑制ための技術」や「高電圧に耐える絶縁材料の研究」などの興味深い研究が行われている。

 最後に先生は、工学研究の醍醐味を「あったらいいな」、「解決したいな」というテーマに対するモチベーション、未知の領域を(神様の領域)を垣間見る楽しさ、そして自分の研究が社会を変革する駆動力になることの三つにまとめられました。東京大学の充実した研究施設や産学協同の研究の様子なども紹介され、参加生徒の学びのモチベーションが向上した、とても充実した時間になりました。

◇ 第二部・卒業生レクチャー
 第二部として3名の卒業生(27期生)により「渋幕の学びから東京大学の学びに、そして社会人として」 というテーマでレクチャーを頂きました。

* 西山里美さん(医学部総合健康学科卒) 
本校には高校から入学、通学時間も長く、最初は緊張したがすぐになじむことができたこと、一度他大学に籍を置いたが、心機一転して再受験して文科Ⅲ類に入学、当初はグローバルに関心があり国際関係を学ぼうと考えていたが、教養課程で学んだ環境科学の授業に触発を受け理転したこと、学部在学中には様々な海外研修のチャンスを得て、ハーハード大やスタンフォード大などで学んだこと、現在は健康に関わる仕事をしたくて大手化学メーカーに就職して四年目、材料調達の業務をしていて海外との交渉も多く日々新たな経験をしていること。などが語られ、後輩に向けて「いろいろな機会を自分から取りに行くことが大切。待っていても機会は得られない」とのメッセージを頂きました。

* 国吉竜太さん(大学院社会基盤工学専攻修了) 
本校在学中にニュージーランド研修や模擬国連などで活躍する同級生に刺激を受けグローバルな世界での活躍を意識するようになったこと、自分の進路については迷いもあったが「国際性」と「インフラ」を自分の進路のキーワードとしたこと、交換留学でのミュンヘン工科大学での経験や、インターンシップで参加したベトナムの鉄道敷設の現場経験、大学院での電力分野における研究などから、現在勤務する政府系の金融機関への就職を決めたこと、現在は海外の大規模発電所建設のプロジェクトに関わっていること。などが語られ、後輩に向けていろいろな体験をすることの意味と、「物事にはいろいろな関りがあり、広い視野で考えることが大切」とのメッセージを頂きました。

* 新見豪太さん(経済学部卒) 
本校には高校から入学しサッカー部に入部、在学中はそのほとんどの時間をサッカー部での活動に費やし、その経験や同期の仲間は一生の財産となっていること、だが自分自身は不完全燃焼で大学でもサッカーを続け、東大サッカー部の強化するため、強化部という組織を部内に自ら立ち上げ、優秀な部員を獲得するために方策を考察し全国を奔走したこと、そして高大でのサッカー部を通じた経験が現在の会社でのリーダーとしての活動の根源にあること。が語られ、後輩に向けて時間の使い方が大切であること、そのために「こう在りたい自分と、逆にこう在りたくない自分をしっかりシミュレートすることが大切」との魂のこもったメッセージを頂きました。

◇ 第三部・パネルディスカッション
 第三部では本校進路部の後藤教諭をファシリテーターとして、卒業生3名に熊田先生にも参加いただき、参加の皆さんから事前に頂いた質問事項などをベースにパネルディスカッションを実施しました。以下抜粋します。

1.東大での学びについて 「東大生って勉強するの?」
・ 学科にもよる。自分は理系ドイツ語クラスだったが皆真面目でよく勉強していた。(国吉)
・ 私は大変ではなかった。学生サポートも充実していた。(西山)
・ 文系から理系に(進振で)来る人もいるが先輩が丁寧に指導してくれる。昔よりも学生はしっかりと勉強している。(熊田先生)

2.東大生であることは得か損か?
・ 国が支援を最もしている大学でありスポーツ施設も充実している。仕事の上でも社会的信用をもらえる。(新見) 
・ 他大学との大きな違いは、進振(進路の振り分け)があること。私は自分が入学当初に考えていた道とは、まったく違う道に進む事が出来た。(西山)
・ 日本で一番の大学だと自負しています。(熊田先生)

3.キャリア形成について 「中高時代に考えていたことやキャリア形成に必要なことは?」
・ 中高時代は興味のあることはあったがやりたい仕事は決めていなかった、でも何かに打ち込んできたことはよかった。(国吉)
・ 中高時代は大学進学さえ迷ったくらいで、将来の仕事など考えたことはなかった。ただ、受験勉強で歴史を学んだことは、とても役に立っている。(新見)
・ 中高時代は何も考えていなかった。理系の科目を中心に学んだが、受験に関係ない科目を切り捨てることは、役に立つこともあるのでもったいないと思う。(熊田先生)

4.親子関係について 「反抗期はありましたか?」 「親からしてもらってよかったことは?」
・ 反抗期はなかった。親からのプレッシャーもなく、進路も「自分で選択して自分で責任をとる」という考え方で決めることができた。(西山)
・ 自分の感覚で中学時は反抗期だった。ただ進路に関しては「自分の好きなようにしてよい」という対応だったので、高校は反発する理由もなかった。父親からは「やればできる」という根拠なき自信を与えてもらった。(国吉)
・ 自分の意志決定に親の干渉はなかった。唯一、高校進学の時に大学の付属ではなく、渋幕に行って、大学受験を経験する方がよい、と父親からアドバイスされた。そのことには感謝している。(新見)

5.大切にしている考え方がありましたら
・ 「楽しく生きたい」。辛いことがあってもネガティブな感情の幅が広がったと思って前向きにとらえるようにしていること。(西山)
・ 道を狭めないように進んで、キャリアの決断に迷ったときに「生の人の声を聞くこと」が後悔の無い生き方に繋がるということ。(国吉)
・ 「凡事徹底(ダイワハウス工業会長)」・「人生=考え方×情熱×能力(京セラ会長)」・「失敗は成功のもと」という言葉。(新見)
・ (高校生の自分にいま呼び掛けるなら)「想定外は必ず起こる、なるようにしかならないが、実力があればなんとかなる」ということ。(熊田先生)

 こうして、全体で3時間もの長いセミナーになりました。熊田先生そして卒業生の3名、そして参加いただいた生徒、保護者の皆様のおかげで、とても充実したセミナーとなりました。学校の授業が休講であるのにもかかわらず参加をした生徒の皆さんはどのような感懐を得たのでしょうか、それはいつの日か結果として現れるものと楽しみにしたいと思います。コロナ禍にも関わらず、本セミナーの開催に尽力を頂いたすべての皆様に感謝を申し上げます。