起業セミナー2022 現実と理想の解像度を高めよう

今年も日本政策金融公庫の佐藤俊太さんを講師に招き、GLFCセミナーの一環として「起業セミナー2022」を開催しました。今年は三十名の生徒が参加しました。まずは佐藤さんの高校や大学での起業家としての経験、日本政策金融公庫への就職の契機などが語られました。
続いて、今回のセミナーの本論が主に三つのテーマを中心に行われました。以下セミナーの内容の要旨です。

◆ テーマ➀ 「ビジネスの基本的な考え方」
ビジネスの基本は「使ったお金以上にお金をもらうこと」、つまり「利益を上げること」です。これはビジネスの大前提であり、決して忘れてはいけません。このようなことを言うと、「結局、世の中カネなのか」と思うかもしれません。しかし、相反することかもしれませんが、ビジネスの持つ一番の可能性は、世の中の課題を解決することにあります。不便だと思うことを解決することがビジネスの基本です。
例えば、社会課題を解決するのは誰でしょうか?国や自治体が予算をつけて解決すればいいのでしょうか?お金のある人が寄付をして解決すれば良いのでしょうか?もちろん、それも一つの解決方法です。しかし、もし国や自治体の予算が付かなくなったら、寄付がなくなったら、今までその事業によって救われてきた人々が救われなくなってしまいます。ビジネスであれば、利益が続く限り事業は継続され、その課題が社会からなくなるまで、半永久的に解決し続けることができます。
ビジネスが持つ力はとても大きいものです。皆さんの中には「私は国家公務員や医者になるから、ビジネスは関係ない」とか「利益よりも困っている人を救う活動がしたいんだ」と思っている人もいるかもしれません。しかし、社会課題の解決方法として、国もビジネスの力を活用していますし、ビジネスの力を使うことで、自分の手が届かない人々も救うことができます。そして、そのような力を持つビジネスは、綺麗事だけではなく、「利益を上げる」という大前提によって成り立つものだと覚えておいてください。

◆ テーマ② 「ビジネスの課題設定に必要なこと」
理想と現実との間にあるギャップのことを問題と言い、その問題を解決するために必要なことを課題と言います。解決することを前提にすれば「理想と現実との間にあるギャップ=課題」と考えてもかまいません。そして、その理想と現実との間には、不快、不平、不満といった「不」の要素が隠れています。ビジネスの課題設定では、この「不」に着目することが重要になります。
だからと言って、急に皆の困っていることを考え、課題を見つけようとしてもなかなか思いつきません。まず、やるべきことがあります。それは「解像度を上げる」ということです。いきなり課題を見つけようとするのではなく、まずは課題を作り出している理想と現実の解像度を高めましょう。この解像度が上がることで、初めて有効な策を打ち出すことができます。理想を一発で描くことは難しいことです。まずは現実への解像度を高めましょう。この現実への解像度を高める手段一つとして、学校での学びがあります。「優れた理論には普遍性がある」という言葉は私の座右の銘ですが、学校の学びの中にも応用可能な優れた理論がたくさん隠れています。
また、課題設定の際には、自分の目線だけではなく、複数の目線を意識しましょう。自分の考えがいつも正しいということはありませんし、見方を変えることで正しさが変わることもあります。複数の目線を意識するということは、課題に関係する人(顧客)に着目することと言い換えることもできます。ビジネスの課題設定では、人(顧客)の解像度から高め、人(顧客)が本当に解決したいと思える課題を見つけることから始めましょう。

◆ テーマ③ 「ビジネスアイデアの発想方法」
ビジネスアイデアを考える上での前提として、課題設定が必要であり、そのために「解像度を上げる」というお話をしました。次は実際に、ビジネスアイデアを発想するところまで見ていきましょう。皆さんにはいくつかのフレームワークをお示しします。フレームワークとは、思考を補助するツールのようなものです。フレームワーク自体が大事で絶対だというものではないので注意してください。
最初にご紹介するのは、PMF(Product Market Fit)というものです。よりよい商品・サービスの提供のためには、顧客(Customer)⇒課題(Problem)⇒解決方法(Solution)⇒製品(Product)⇒市場(Market)と続くフローチャートをベースとし、顧客と課題が合っているか(Customer Problem Fit)、課題と解決方法が合っているか(Problem Solution Fit)、解決方法は製品化されているか(Solution Product Fit)、製品は市場に受け入れられるか(Product Market Fit)を考えていくものです。ビジネスアイデアを考えようとすると、顧客や顧客の課題を無視して、解決方法や製品ばかり考えてしまうことがあります。一番大事なのは人(顧客)であり、人(顧客)の解決したい課題を突き止めることから始めましょう。
人(顧客)を考える上では、ペルソナ設定と呼ばれるユーザー目線の精度を高めるフレームワークがあります。ペルソナ設定は、設定するための項目を埋めることが大事なのではなく、そのペルソナが何を考え、どう行動するかを想像できるようにしましょう。
人(顧客)の行動を考えるフレームワークには、カスタマージャーニーマップというものがあります。これは顧客の購買行動を考えるもので、実際に商品を販売しようとする時に役立ちます。購買に至るまでの過程には様々なモデルがありますが、まずは購買前、購買時、購買後の3段階を考えることから始めましょう。
このようなフレームワークを活用しつつ、新しいものを発想していきましょう。これにはイノベーションが大切になります。イノベーションという言葉を提唱したオーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは「(革新は)すでにあるものの新しい組み合わせによって生まれる」としています。一見関係ないようなものを結び合わせる思考が、新しいものを生み出します。皆さんが今までに取り組んだこと、皆さんの人生そのものが、新しいものを生み出すタネになるかもしれません。ダイバーシティ(多様性)という言葉を聞いたことがありますか?ダイバーシティの重要性について、多様性を認められるような社会を作ると言った道徳的な意味もありますが、新たな組み合わせを発生させ、イノベーションを起こすために重要であるといった側面もあります。

ここまでの三つのテーマ以外にも「事業化のための三要素(つくれるか・売れるか・儲かるか)」の理論や「ビジネスに必要な投資計画」、「事業計画の作成方法」といったテーマについても簡単な解説をいただきました。
中高生には少し難解な内容でしたが、起業というテーマの奥深さを感じた90分となりました。毎年、起業セミナーを開催いただいている日本政策金融公庫、そして講師の佐藤俊太さんに感謝を申し上げます。